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1696話 璃世vs琉徳

「紅乃さんのうどんは、素晴らしいものですわ。それを排除しようとするあなたを、許すことはできません」


 リーゼロッテの瞳が鋭く光る。彼女の背筋は伸び、微動だにしない。

 その毅然とした態度は、まるで戦場に咲く凛とした白百合のようだった。

 対する琉徳は、余裕を崩さぬまま口元を歪める。


「ふん、まあいい。余所者をいたぶる趣味はないが、見せしめにはなるか。助太刀を呼ぶ以外なら、どんな悪足掻きをしてもよいぞ。せいぜい頑張るがいい」


 その言葉には嘲弄の色が滲む。

 軽く振った剣の刃先が、鈍く光を反射する。

 まるで、これから始まる惨劇を楽しむかのような、無慈悲な光だった。


 静寂が落ちる。

 誰もが息を飲み、次の瞬間を待つ。

 そして――


「――始めッ!」


 響いた声を合図に、戦いが始まった。

 琉徳の動きは速い。

 迷いのない踏み込みとともに、剣が斜めに閃く。


 リーゼロッテはわずかに身を引き、紙一重で回避する。

 しかし、次の一撃が間髪入れず襲いかかる。

 空気を切り裂く鋭い音が、戦場の熱を増していく。


 琉徳の剣は無駄がない。

 その剣筋には、磨き抜かれた技術と、次期藩主としての矜持が宿っていた。


「ふふっ、お強いのですね」


「お前こそ、なかなかの剣捌きだ。女にしては上々……。反応速度も筋力も、悪くない」


 刃を交えながら、琉徳が告げる。

 その眼には余裕の色が滲んでいた。


「当然ですわ」


 リーゼロッテは涼しい顔で応じる。

 息一つ乱さぬまま、剣を構え直した。


 彼女はタカシという男のチートスキル『加護付与』や『ステータス操作』によって、大幅に強化されている。

 主に魔法関連のスキルを強化しているが、その恩恵は身体能力にも及ぶ。

 剣技の経験こそ少ないものの、彼女の動きはそこらの令嬢とは一線を画していた。


 だが、それでも――


「甘い! 甘いぞ!!」


 琉徳の剣圧が一気に増す。

 彼の剣筋は、研ぎ澄まされた刃のように鋭く、的確にリーゼロッテの防御を崩そうとする。

 剣と剣がぶつかるたび、火花が散り、空気が震えた。


 いくらチートスキルによって強化されたリーゼロッテであっても、本来は専門外である剣技。

 その領域において、名家の嫡男である琉徳に勝つのは容易ではない。


「この程度か?」


 琉徳の口元に、勝者の余裕を漂わせた笑みが浮かぶ。

 彼の剣先がわずかに傾き、次の攻撃の準備に入る。

 だが――


「……仕方ありませんわね。少しだけ、本気を出しましょうか」


 リーゼロッテは静かに言い、手をかざした。

 その動きに、空気が変わる。

 周囲の温度が一瞬にして下がったかのような錯覚さえ覚える。

 戦場を包んでいた剣戟の響きが、一瞬だけ静寂に飲まれた。

 そして――

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