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1677話 戦闘終了

「最弱だと? それは、つまり――」


『では、ごきげんよう』


 少女は淡く微笑み、そのまま霧のように姿を消した。

 同時に、俺の身体を絡め取っていた拘束の陣が霧散する。


「む……」


 まるで最初から何もなかったかのように、俺の体は軽くなった。

 これまでは魔力や闘気を全開にして、ようやく動ける程度だった。

 しかし今は、自然に手足が動く。

 まるで少女がこの場にいたことすら、幻だったかのように。


 ――だが、確かにいた。

 俺の心に爪痕を残すような何かを持って。


「高志様!」


 聞き慣れた声が耳を打つ。

 振り返ると、紅葉が必死な様子でこちらを見上げていた。


「紅葉! 大丈夫か!?」


「は、はい。私は平気です」


 紅葉はゆっくりと身体を起こした。

 わずかに震える指先で衣の裾を整えるその仕草が、先ほどの出来事の異様さを無言のうちに物語っている。

 彼女の呼吸は浅く、微かに乱れていた。


 俺はすぐに駆け寄り、その身に異常がないか目を凝らす。

 紅葉の肌にはかすかな疲労の色が滲んでいたが、幸いにも傷は見当たらない。

 それを確認し、ようやく喉奥に詰まっていた息を吐き出した。


「ありがとうございます、高志様……」


 紅葉がほっとしたように微笑む。

 その表情は穏やかでありながら、どこか影を引きずっているようにも見えた。

 先ほどの恐怖がまだ完全に消えていないのかもしれない。

 それでも、彼女が笑顔を見せてくれたことで、俺の胸の奥に渦巻いていた不安の一端が、ようやく解けていくのを感じた。


「良かった……。しかし、あの少女は何だったんだ?」


 俺は低く呟く。

 未だ頭にこびりつくあの異様な存在感、

 そして少女が残した言葉。背筋に冷たいものが走る。


「分かりません。……ただ、情報源はこの場にたくさんいます」


 紅葉が静かに答え、視線を周囲へと向ける。

 俺もそれに倣い、視線を巡らせた。


 倒れ伏した巫女たちが、地面に静かに横たわっている。

 いかにも神聖そうな衣が血溜まりで染まり、無惨な光景を作り出していた。

 しかし、よく見ると皆、わずかに胸が上下している。

 どうやら妖力の過剰使用か何かで意識を失っただけのようだ。


 俺はひとつ、長い溜息をつく。


「仕方ない。さっきの少女との約束もあるし、ちょっとぐらいは治療してやるか」


 自嘲気味に呟くと、俺はゆっくりと手を翳し、指先にかすかな魔力を集めた。

 淡い光が闇に溶けるように揺らめく――。

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