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1637話 幽蓮のドッキリ

「お、おい! 返事をしろって! ほ、本当に死んだのか!?」


「…………」


「嘘だろ……? こ、これは何かの間違い――」


「ばあああああぁっ!!」


「うおおおおぉっ!?」


 突如、死んだはずの幽蓮が飛び起きた。

 思わずのけぞり、尻もちをついてしまう。


「ぬああああぁっ!?」


 ケツの穴に何か刺さった。

 痛い。

 いや、これは……メチャクチャ痛い!


 俺はチートによって増強された身体能力を活かし、素早く海老反りのような体勢になって尻を浮かせる。

 そして、そのままバク転の要領で距離を取った。


「も、物凄い身のこなしですね……。さすがは高志殿……。で、ですが……」


「なんか……格好良いのか悪いのか、微妙なところね……」


 樹影と景春が何か言ってる。

 だが、今はそれどころじゃない!

 俺のケツ穴に刺さったのは、マキビシだった。

 犯人など分かりきっている。


「幽蓮! これはどういうことだ!?」


「てへっ! 高ちゃん、ビックリした? したでしょ?」


 幽蓮は生首モードを解除し、可愛らしくペロッと舌を出す。

 先ほどまで、完全な死に顔だったのに……。

 豹変ぶりが凄まじい。

 今の彼女の様子は、イタズラが成功したことを喜ぶ少女そのものだった。


「て、てめぇ……」


 俺は幽蓮を睨む。

 驚かされた瞬間、ちょっと漏らしそうになってしまった。

 ここには限られたメンバーしかいないとはいえ、人前で藩主がお漏らしでもしたら一大事だぞ。

 しかし、彼女はどこ吹く風である。


「きゃははっ! 高ちゃん、怒っても怖くないよ~! むしろ、可愛い!」


「何だと? 藩主を舐めたらどうなるか、教えてやろうか!?」


 生首演技の件を打診した際に、俺は彼女とそこそこの親睦を深めている。

 だが、距離を詰めすぎたようだ。

 完全に侮られている。

 忠義度から判断するともう翻意はなさそうだが、どちらが本当に上なのか分からせる必要はある。


「きゃーっ! 高ちゃんが怒ったぁ!!」


「待て、この野郎!!」


 幽蓮は笑いながら逃げ出す。

 俺はそれを追いかけていった。


「……なによ、これ? どういう状況?」


「はぁ……。高志様は素晴らしい方ですけど、敵味方関係なく女性を虜にするのは困ったものですね……」


「ま、ちょっと抜けていて舐められがちなのも兄貴の良いところさ。完璧超人だと、近寄りがたいし」


「……藩の統治には、清濁併せ持つ必要がある。高志くんなら、きっと立派な藩主になれる……」


 背後で景春たちが何かを言っているが、よく聞こえない。

 今は幽蓮を捕まえて、お仕置きすることが重要だ。

 こうして、桜花城にはまた新しい日常がやって来たのだった。

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