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1614話 お前はこう言う【無月視点】

「あ、主!? 突然、何を!?」


 俺――無月は目の前の光景に目を疑い、声を上げた。

 黒羽と水無月も、明らかに動揺している。


 主――高橋高志殿は、幽蓮ゆうれんを蹴り飛ばした。

 俺が選りすぐった精鋭の一人である彼女が、壁に叩きつけられて動かない。

 その異常さに、どうにも気持ちが収まらず、俺は問いただした。


「ふん……」


「主、答えてくれ! この三人は、俺が選んだ精鋭たちだぞ! 蹴り飛ばすとは、いったい何事だ!!」


 俺は語気を強めて問う。

 主は短く鼻を鳴らし、重々しい沈黙を置いた後、静かに口を開いた。


「幽蓮の『これからの言動』はこうだった。『下賤な謀反者め! 私は貴様なんぞに従わない! 簡単に鞍替えする奴らも、仲間などとは思わない!!』」


「え?」


「そして……ザシュッ! ザシュッ!! ――と、短刀で次々に斬りつける。無月……お前の部下は2人とも斬られた。その凶刃は、次にお前と俺に向けられた」


「な……っ!?」


 言葉が出ない。

 そんな未来が本当に訪れるのか、いや、訪れるはずだったのか。

 黒羽と水無月もまた、驚愕の表情を浮かべ、息を呑んでいる


「そうなる前に、俺は幽蓮を蹴り飛ばして無力化したわけだが……。俺の行為は、何か間違っているか? お前はこう言う……『分かった……ならいい』」


 その言葉に、俺はようやく理解する。

 いや、理解しようと努めるしかなかった。


「……分かった、ならいい」


 呆然とした声で、俺はそう呟いた。

 何が正しいのか、どう判断すべきなのか、咄嗟には分からない。

 ただ、主の言葉だけは絶対的な響きを持っていた。


 幽蓮が裏切る。

 そんな未来が、確かに存在していたのだろう。

 俺の目は曇っていた。


「無月、お前が選んだ精鋭たちが裏切り者である可能性を考えたことはあるか? 人を信じる行為は尊いが、盲目的に信じるのは駄目だぞ。人はよく観察しないとな」


 主の言葉が、頭に突き刺さる。

 彼から俺への信頼が揺らいでいるのが分かる。

 そして、それでもなお、主の力の前では何もできない自分がいる。


「主……」


 俺はただ、その瞳を見つめた。

 彼の言葉を拒む術も、反論する言葉も、今の俺にはなかった。


 その時だった。

 主がふとこちらに視線を向け、低い声で言葉を紡ぐ。


「葵……か」


 その一言に、俺の心臓が跳ねた。


「なっ……!」


 思わず声を漏らし、目を見開く。

 対する主は、なおも平然とした様子だ。


「何を驚いている? お前が俺に、秘密ごとを隠し通せるとでも思っていたのか?」


 主の視線が鋭く突き刺さる。

 俺が隠していた本名――『葵』を彼が知っていたという事実が、俺の胸をざわつかせた。

 激しく動揺しながらも、俺はふと気づく。

 彼に逆らうことなど、初めから不可能だったのだ。

 主の力、その威厳、その観察眼――何もかもが俺たちを凌駕している。


「主には……逆らえない……」


 俺は小さく呟いた。

 その言葉は、自分自身への言い訳のようでもあり、逃れられない事実の確認のようでもあった。

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