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1537話 光の精霊石

「やれやれ、心配性な爺さんだな……」


 稽古場から去っていった師範を見送り、俺は1人呟く。

 先ほどの俺の発言に嘘はない。

 ミッション達成は引き続き目指したいし、桔梗たちを無闇に巻き込むことは避けたい。


 一見すると、いいとこ取りを狙った現実味のない作戦に思えるだろう。

 だが、俺はこれでもかなりの強者だ。

 チートスキル『ステータス操作』により、多種多様なスキルを会得している。

 念のために情報収集を続けているが、いざとなれば俺の戦闘能力でどうとでもできるはずだ。

 桜花七侍とやらだって、大したことなかったしな。


「……ふぅ。しかし、妙だな。この胸の奥のざわめきは……」


 俺は小さく呟く。

 俺の心の中に、『何か』が引っ掛かっている。

 だが、それが何なのか分からないのだ。


「精神的なものか? ……いや、待て。ひょっとして……これか?」


 俺は『アイテムボックス』の中から、とある石を取り出す。

 それは宵闇の中、どういう原理かほんのりと光を発していた。


「こいつは確か……『光の精霊石』だったか? どうやって手に入れたかのだったかな……」


 今の俺は記憶を失っている。

 空間魔法『アイテムボックス』に入っている各種の物品も、入手した経緯をよく覚えていないのだ。

 記憶を取り戻す手がかりになる可能性もあるため、積極的な処分などはしていないが……。

 この『光の精霊石』のように、存在意義が分からないアイテムも多い。


「うーん……。ダメだな、思い出せん」


 俺は頭を捻ってみるが、よく思い出せない。

 商店で購入した?

 ダンジョンで発掘した?

 ……いや、誰かからプレゼントされたもののような気もする。

 暗闇の中でもほんのりと光っている『光の精霊石』は、本当に――


「煩わしいな。こんな光……不愉快だ」


 俺は『光の精霊石』を、床に投げ捨てる。

 ……ん?

 おかしい。

 俺はどうして、不愉快だと思ったのだろう?


 人は暗闇を恐れる生き物だ。

 太古の経験が遺伝子レベルで引き継がれているのだろう。

 文明を手にする以前の人類にとって、暗闇は恐怖の象徴。

 森の中で一夜を明かす場合、夜行性の獣に見つからないようにじっとしていたはず。

 闇を恐れなかった者もいたかもしれないが、そういう者は獣によって襲われ死亡し、闇を恐れる者だけが生き残ってきた。

 俺だってそんな人類の端くれ。

 ならば、宵闇の中でほんのりと光る石を見て、不愉快になるのはおかしい。


「なんだ……? この感情は? この価値観は? きれいな石を見て、どうして不愉快になる? あの石は、大切な人からプレゼントされたものだったかもしれないのに……」


 俺は戸惑う。

 不思議な『光の精霊石』を床に捨てたことを、後悔している自分がいる。

 だが、それと同時に『捨てて良かった』『捨てるべきだ』と感じる自分もいる。

 今の俺は……どうなっている?

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