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1503話 独眼龍【ドラちゃんside】

「ふぁああ……。よく寝たー」


 草原で、一人の少女が大きく伸びをする。

 薄い赤色の髪はボサボサで、全身に小さな擦り傷がある。

 だが、彼女がそれを気にする素振りは一切ない。


 ここは大和連邦北部『北烈地方』の『宮儀藩』。

 一年を通して寒冷な気候だが、今日は天気がいい。

 少女は草原で日向ぼっこをしていたようだ。


「やっぱり太陽はいいなぁ……。龍の姿になりたいけど……タカシが『目立つからダメ』って言ってたもんね。私、ちゃんと約束を守ってるよー……。……あっ!」


 そんな少女の目の前に、多数の兵士たちからなる行列が現れる。

 やがて、行列の中から1人の武将が護衛と共に進み出てきた。

 体つきは少し小さく、右目には眼帯を付けている。

 豪華な鎧を着込んでおり、明らかに集団のトップだ。


「ふむ……。『星読み士』の予言によると、ここらに強力な龍が住み着いたらしいのだが……」


 武将は少女の存在に気付かないまま、周囲を見回す。

 しかし、龍などどこにもいない。


「『星読み士』の予言が外れることなどありえるのか? ……まぁ、あやつもかなりの高齢だ。仕方あるまい」


 武将はため息をつく。

 すると、そんな時――


「ねぇねぇ! そこの人、どうしたのー?」


 少女が武将に声をかけた。


「なっ!?」


 突然声をかけられて驚いたのか、武将は後ずさる。

 すかさず、周囲を固めていた護衛が少女を取り囲んだ。


「無礼者! このお方をどなたと心得る!?」


「え? 誰って……。えーっと……?」


 少女は首をかしげる。

 一方、護衛は激昂した様子で少女に迫った。


「貴様ぁ!! 平民とはいえ、『独眼龍』様を知らぬとは言わせんぞ!? 我らが宮儀藩の主君だろうが!!」


「えっ!? あ、ご、ごめんなさい!!」


 少女は慌てて頭を下げる。

 だが、独眼龍と呼ばれた武将は護衛を制した。


「構わん」


「で、ですが……」


「良いと言っている」


「……はっ」


 護衛は下がる。

 そして、独眼龍は改めて少女に向き直った。


「それで、貴様は何奴だ? なぜこんな草原で一人いる?」


 独眼龍が鋭い眼光で少女を睨む。

 そんな視線をものともせず、少女は答えた。


「私? 私は、ドラちゃんだよ。よろしくー」


 少女――ドラちゃんは屈託のない笑みを浮かべる。

 彼女の本名は『ドラゴヴィフィア=フレイムハート』。

 しかし、異国の地でフルネームを名乗るつもりはなかったようだ。

 そんな少女を見て、独眼龍の目つきがさらに鋭くなる。


「どらちゃん……銅鑼ちゃん? 変わった名前だな。貴様は、『星読み士』の予言にあった龍と知り合いなのか?」


「龍? ううん、この辺に龍の知り合いはいないよー」


「そうか。ま、当然だな」


 独眼龍はため息をつく。

 これまで、予言の精度はかなり高かった。

 そんな場所にいる謎の少女なら、予言内容とも何らかの関係があってもおかしくはない。

 そう思ったのだが、どうやら外れだったようだ。


「今回は収穫なし、か」


「独眼龍様、諦めるのはまだ早いかと……」


「分かっておる。せっかくここまで来たのだ。数日は滞在して、龍の手がかりを探してみよう」


「はっ」


 独眼龍は護衛に指示を出す。

 すると、ドラちゃんが不意に口を開いた。


「ねぇー。食べもの、ないー?」


「……貴様、図々しいな」


「えへへ。お腹すいたんだもん」


 ドラちゃんは笑顔で答える。

 その無邪気な表情に、独眼龍は思わず毒気を抜かれた。


「はぁ……。仕方ない。誰か、食料を分けてやれ」


「はっ!」


 護衛が数人、ドラちゃんの前に出る。

 食べ物を分けてもらえたドラちゃんは、あっさりと餌付けされた。

 しかし、彼女こそが予言にあった『強力な龍』だとは、誰も想像すらしていないのであった。

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