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1498話 指導【桔梗side】

「……もう少し。せめて、高志くんに縮地ぐらいは伝授してから……」


 タカシとの鍛錬後、武神流の師範代である桔梗はそう呟く。

 彼女は焦りを感じていた。

 その原因は……


「くくく……。武神流も寂れたものですねぇ……」


「っ!!」


 桔梗はハッと顔を上げる。

 いつの間にか、道場の出入り口に5人の男が立っていた。

 5人の中心には、下衆な笑みの男がいる。


「……何しに来たの?」


 桔梗は、その男たちを睨み付ける。

 リーダー格の男がニヤニヤ笑いながら言った。


「いえね? 雑魚の師範代が元気かどうか、見に来てあげたのですよ。先日の『指導』では、ついやり過ぎてしまいましたからねぇ……。子ども相手に、私も大人気なかったと反省しているのです」


「っ!!」


 桔梗の顔が屈辱に歪む。

 数日前、桔梗はこの男と誇りを懸けた決闘を行った。

 そして、完膚なきまでに敗北したのだ。

 それだけでも、武神流にとって屈辱的なことである。

 しかし、このリーダー格の侍はその決闘を『指導』と称した。

 最初から桔梗のことを対等とは思っておらず、完全に見下しているのだ。


「くっ……!」


「ふふ……。悔しそうですね? でも、仕方ありませんねぇ? 私は、あなたよりも強いのですから」


「……」


 桔梗は唇を噛む。

 悔しいが……この男の言う通りだった。

 純粋な剣術で負けているつもりはない。

 しかし、いかんせん大人と子どもでは体格が違う。

 それに、男女の筋肉量の差は大きすぎる。


 一部の女性剣士は、闘気や妖力なるものを使って身体能力を強化しているらしい。

 だが、桔梗はそういった力を使うことができない。

 武神流には『子どもの内は純粋な剣の技術を磨くべし』との鉄則があったからだ。

 年齢的には、そろそろ桔梗も闘気や妖力を教わり始める頃なのだが……。

 師範が大怪我をした今、それは保留となっていた。


「それにしても……。見事なまでに打ちのめしてあげたのに、まだ道場を閉じていないとはねぇ? 道場破り歓迎と言っているようなもの……。あなた、ひょっとして被虐趣味があるのですか?」


 リーダー格の侍は、ニヤニヤと笑いながら言う。

 桔梗の顔は怒りに赤く染まった。


「そんなわけない……。冷やかしなら帰って……」


「確かに、師範代さんのお元気な姿を見れたので帰ってもいいですが……。親切な私としては、どうしても気になってしまってねぇ」


 リーダー格の侍がニヤリと笑う。

 桔梗は嫌な予感を覚えた。


「あなた……何を企んでいるの?」


「おやおや、人聞きの悪いことを……。ただ、今日も『指導』をしてあげようかと思っただけですよぉ。以前と全く同じ『指導』をね?」


「っ!!」


 リーダー格の侍はニヤニヤ笑いながら言う。

 桔梗の背筋に冷たいものが走った。


「……大声を出せば、誰か来てくれる」


「ふ……ふふ……」


 桔梗の呟きに、リーダー格の侍は笑う。

 そして、嘲るような視線を桔梗に向けた。


「確かに、誰かが来てくれるかもしれませんねぇ。しかし、この状況をどう説明するのです?」


「それは当然――」


「まさか、『他流派の剣士に勝負を挑まれて、怖くなって泣いちゃった』とでも説明するのですか? ふふ……。武神流の恥さらしですね?」


「……っ! くっ……!!」


 桔梗は唇を噛む。

 確かに、この男の言う通りだ。

 そこらの一般的な町娘ならともかく、仮にも武神流の師範代が『勝負を挑まれたのに応じず、大声で助けを求めた』という醜態を晒すわけにはいかない。

 それは、武神流の看板に泥を塗るも同然だ。


「さて、おしゃべりは終わりです。今日もまた、たっぷり遊びましょうねぇ。安心しなさい、前回と同じく顔や体に傷は付けませんから。いつか娼婦として活用するためにね。くくく……」


 リーダー格の侍は、下衆な笑い声を上げる。

 そして、桔梗を追い詰めるためにゆっくりと近付いていくのだった。

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