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1399話 レイン純愛ルート 奴隷狩り

 グウゥ~。

 俺はお腹の音で目を覚ます。


「あ……う……」


 俺はうめき声を上げた。

 剣で貫かれた腹が痛い。


 ……ん?

 いや、違う。

 俺は腹が減っているのだ。

 空腹のまま寝ていたことで、腹を貫かれる夢を見てしまったようだ。


 ……え?

 空腹と刺し傷は全然違うだろって?

 いや、知らんけど。

 そんなの俺に聞かれても困る。

 とにかく、そういう夢を見たということだ。


「う……ぐ……」


 俺はうめき声を上げて、牢の中で何とか起き上がる。

 そう、俺は牢に囚われているのだ。


「くそ……。うう……」


 どうしてこんなことになったのだろう?

 異世界転移と言えば、チートで無双してハーレムを作っちゃうのが定番だ。

 そして、その過程で俺は『勇者』や『英雄』と呼ばれるようになっていた……はず。

 しかし、現実は厳しい。


「最初に……空間魔法を取得しなければ……。見せびらかさなければ……。くそ、どうして……」


 俺は牢の中で頭を抱える。

 チート付きで異世界に転移してきたのなら、冒険者になるのが手っ取り早いだろう。

 だが、俺には冒険者になるという選択肢はなかった。

 なぜなら……怖かったからだ。

 そんな中、活路を見出したのが『空間魔法』だった。

 空間魔法があれば、運び屋としてガンガン稼げると踏んだのである。


「まさか……こうなるとはな……」


 俺は牢の中で肩を落とす。

 空間魔法が使えることをアピールしまくった結果、俺の名はすぐに王国中に知れ渡った。

 だが、それは悪目立ちだったのだろう。

 奴隷狩りに狙われ、こうして捕らえられてしまったというわけだ。


「くそ……。せめて、『魔封じの枷』さえなければ……」


 俺は牢の中で歯ぎしりする。

 しかし、いくら念じても魔法は発動しない。

 この枷のせいだ。

 この『魔封じの枷』があるせいで、俺は牢で大人しくすることしかできない。


「……腹が減ったな」


 ぐきゅるるる~……。

 俺の腹が鳴る。

 空腹の限界だ。

 このままでは、いずれ餓死してしまうだろう。


「なぁ、誰か……! 飯をくれないか……!!」


 俺は牢の中から叫ぶ。

 しかし、見張りの気配はない。

 妙だ……。

 俺は空間魔法を使える貴重な奴隷である。

 逃げ出す体力を奪うため、最低限の食事しか与えないのは理解ができるが……。

 餓死寸前まで食事を与えないのは、さすがにおかしい。

 俺がそう訝しんでいると――


 ガンッ!

 ドガンッ!

 キンキンキンッ!!


「な、なんだ!?」


 突然大きな音が鳴り響く。

 まるで、激しい戦闘が繰り広げられているかのような音だ。

 その音はどんどん大きくなっていき……やがて静かになった。


「終わった……のか?」


 俺は不安になる。

 いったい何が起きているのだろうか?

 もしや、奴隷狩り同士の抗争か?

 ならば、俺という奴隷の有用性を示して媚びを売らないと……。


「私はこっちの部屋を見てきます! ……はい! もちろん、賊の残党には気をつけます!!」


 部屋の外から、ガヤガヤといろいろな声が聞こえてくる。

 何やら慌ただしい。

 俺が取るべき行動は……。

 そんなことを考えていると、いつの間にか牢の前に何者かが立っていた。

 その人は、牢の中を覗き込んでくる。


「あ、あの……大丈夫でしょうか?」


「っ!?」


 俺は驚きのあまり、声も出ない。

 奴隷狩りのアジトには似つかわしくない、可憐な少女だったからだ。

 メイド姿の彼女は、心配そうな眼差しを俺に向けてくる。


「その……奴隷狩りに捕まってしまった方ですよね?」


「え、ええ……」


 俺はなんとか声を絞り出して答える。

 すると、少女はホッとしたような表情を浮かべた。


「良かった……。間に合って」


「あなたは……?」


「申し遅れました。私はレインです。ハルク男爵領に巣食う賊を一掃するため、微力ながらお手伝いしているところでして……」


 メイド姿の少女――レインさんはそう言って微笑む。

 絶望の淵にいた俺は、彼女の微笑みに救われたような気がしたのだった。

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