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1291話 節操なし

 俺はネプトリウス陛下からいろいろと話を聞いている。


「なるほど……。海の精霊ですか」


「うむ。メルティーネは精霊に愛されておるからな。ファーストキスだけでも、海への適応力は相当まで高まる。しかしそれにしても、貴殿の適応力は常軌を逸しているように思えてな」


「そ、そうですかね……」


 俺はしどろもどろになってしまう。

 メルティーネと『そういう仲』になっていないのは本当だ。

 ネプトリウス陛下の言う通り、彼女は身持ちが固い。

 なかなかチャンスがなかった。

 それに、一国の王女ということもあり、俺の方が遠慮していたという事情もある。


 まぁ、その他の面々に関しては話は別だが……。

 侍女リマ、治療岩責任者リリアン、そして魔道師団の分隊長。

 具体的な進展度の差はあるものの、キス以上の仲にはなっていたりする。


「貴殿が女性人魚と親しくしていると、もっぱらの噂だ。真偽は如何に?」


「は、はい。仕事上の付き合いとはいえ、大変よくしていただいております。いやぁ、人魚族は優しい方々ばかりでありがたいですよ!」


 俺は必死に誤魔化す。

 メルティーネ王女に比べると精霊との親和性は下だろうが、リマやリリアンも十分にエリートだ。

 親和性が全くのゼロというわけではあるまい。

 そんな彼女たちと仲を深めたのだから……俺の海への適応力が上がるのも必然である。


 何となく感じてはいたんだよ。

 海の中での生活が、だんだん楽になってきたなぁと……。

 しかし、そんな事実を正直に話すわけにもいくまい。

 メルティーネのファーストキスをいただいただけでも、それなりに大事だったはず。

 その男が、侍女、治療岩責任者、魔導師団分隊長などにまで手を出しているなど、とんでもないことである。

 節操なしと激怒されるかもしれない。

 

「……ふむ。まぁよい」


 ネプトリウス陛下が矛を収めた。

 どうやら、俺への追及はひと段落したらしい。


「メルティーネとの仲はさほど進展しておるまい。もし奴の処女を散らしたのであれば、『海への適応力が高まる』というレベルに留まらず、もっとすごいことになるだろう。相手が貴殿ほどの強者であればなおさらだ。それこそ、ポセイドン様が目覚めて……」


「え? それってどういう……」


「おっと、つい口が滑ったな。今のは忘れてくれ」


 ネプトリウス陛下が首を横に振る。

 ポセイドンって……確か海の神だった気がするが……?

 俺が拠点としている『海神の大洞窟』に空気が満ちていたのは、海神ポセイドンの息吹が生み出したものだとか何とか……。

 いや、あれはただの自然現象に尾ヒレがついたものかもしれないが。


「しかし、貴殿のような強者が友好的に接してくれるのであれば、我々人魚族としても心強い」


「はっ! もったいなきお言葉、ありがとうございます」


「いずれは、人族の国々とも交流を持っていきたいものだな」


「はい。そのときは、ぜひ協力させていただきたいと思います」


 俺はネプトリウス陛下に頭を下げる。

 友好的な関係を築けて良かったと思う。

 国としてはやや小さな集団とはいえ、やはり一国の王だ。

 粗相をしたりしたら、外交的にマズイことになりかねないところだった。


「それで、エリオット殿下とメルティーネ王女は……」


「そろそろ来てもおかしくないはずだが……。やけに遅いな。奴らめ、客人を待たせおって……」


 ネプトリウス陛下が顔をしかめた。

 リトルクラーケンなどの後処理の指示をしているらしいが……。

 それにしても遅い。

 何かトラブルだろうか?


「し、失礼いたします!」


 玉座の間へと駆け込んでくる者があった。

 伝令の兵士だろうか?


「何事か! 今は客人と会談中であるぞ!!」


 ネプトリウス陛下が叱責する。

 だが、その兵士は真っ青な顔をしていた。


「く、クーデターです! クーデターが発生しました!」


「なっ!?」


「なんだと!?」


 俺と陛下は、揃って驚愕した。

 まさか、こんなタイミングでクーデターが発生するとは……!

 エリオット王子とメルティーネ王女は無事なのか!?

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