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1214話 雪月花

 俺は『食料の減りが早い』事件を調査していた。

 1人で寝室に行ってみたところ、謎の人物から襲撃されてしまい、そのまま馬乗りにされた。

 しかも複数人から襲われているようだ。

 俺は自分の迂闊さを呪う。

 しかし、襲撃者の正体は判明した。


「……雪月花? お前たち、どうしてここに……」


 俺を襲ったのは、Cランクパーティ『雪月花』の三姉妹だった。

 ラスターレイン伯爵領の一件で知り合い、少しずつ仲を深めてきた者たちである。

 タイミングの前後はあるものの、3人ともに加護(小)を付与済みである。

 元々がCランクであったところに加護(小)の恩恵が加わったことで、彼女たちの実力はCランクの中でも上位と言っていいだろう。


「どうしてここに……って~。潜入してきたんだよ~」


 俺の身体の上で、花が答える。

 彼女は三姉妹の長女だ。

 のんびり屋さんで、労働嫌い。

 人生の目標は、子どもを生んでぐうたらスローライフを送ることらしい。

 剣術がメインにしつつ、植物魔法も扱えるバランスタイプだ。


 当初から最も俺に対して友好的だった彼女だが、俺と深い仲にはなっていない。

 彼女が俺を実は嫌っている……とかではなく、彼女の身持ちの固さが原因だ。

 ベッドにインするところまでは行ったのだが、直前で拒否されてしまったことがある。


 そんな彼女が、柔らかなボディを俺に密着させている。

 こんなことをされると、俺は動けない。


「潜入? わざわざどうして……」


 俺は尋ねる。

 鎖国国家ヤマト連邦への潜入作戦は、危険度が未知数だ。

 潜入してみれば意外にすんなりと終わるかもしれないが、逆にメチャクチャ危険な可能性もある。

 そのため、少数精鋭のミリオンズだけで向かうことにしたのだ。


 ティーナ、ドラちゃん、ゆーちゃんという想定外の参加者は発生したものの、彼女たちは人外。

 きっと何とかなるだろう。

 だが、雪月花は普通の人間だ。

 Cランクパーティかつ加護(小)を付与済みとはいえ、未知の国に連れて行くのは怖いところだ。


「それはもちろん、祖国に帰るためよ」


 今度は、凛とした声音が響く。

 彼女の名前は月だ。

 三姉妹の次女。

 権力や名声に拘りがあり、俺の第九夫人のポジションを狙っている。


 影魔法のスペシャリストで、俺は彼女から影魔法を教わった。

 彼女は近接戦では剣も扱う。

 花が剣士寄りのバランスタイプだとすれば、月は魔法使い寄りのバランスタイプだな。


 三姉妹の中では最も加護(小)の獲得が遅かった。

 しかし一方で、現時点で俺と深い中になっているのは彼女だけである。

 一夜を共にした直後には、彼女から俺への口調が丁寧になった上に『旦那様』呼びになったりもした。

 俺の失言もあり、結局は元に戻ってしまったのだが……。


「祖国? ああ、そう言えば雪月花の出身はヤマト連邦だったな……」


 俺は思い出した。

 月と深い仲になった日、彼女たちの出身地を教えてもらったのだった。

 育ちはサザリアナ王国らしいので、ヤマト連邦内の事情に精通しているわけではない。

 だが、いくらかの見識はあるだろう。

 彼女たちを潜入作戦に連れていくかどうか、検討していた時期があった。


「……月姉ぇから聞いたよ。長期の護衛依頼があるかもって話だった。それなのに、いつの間にか旅立ってしまっているし……」


 三姉妹の三女、雪の声が聞こえる。

 彼女は武闘家だ。

 補助として氷系統寄りの水魔法を扱う。

 花や月と同じく、バランスが良い。


 俺と雪は深い仲にはなっていない。

 だが、かと言って浅い仲でもない。

 具体的には尻に関していろいろあったのだが、今は割愛する。


 労働嫌いの花、上昇志向の強い月に対して、雪は金銭欲や物欲が強いタイプだ。

 実入りの良いハイブリッジ男爵領での冒険者活動を気に入ってくれていた。


「あー、それは……」


 ミリオンズのみんなとも相談した結果、雪月花を連れて行くことは断念したのだった。

 ヤマト連邦の内情を少しぐらい知っているかもしれない……というメリットよりも、ミリオンズのみの少数精鋭で動くメリットの方が大きいと判断したからだ。


「それは?」


 月がジト目で俺を見る。

 検討の結果、依頼することを取りやめた。

 その事実を伝えることを忘れていたのは、俺のミスとしか言いようがない。


「すまん、伝達ミスだ。雪月花を連れて行く話は流れた」


「ひどいよ~。タカシさんとの長旅、楽しみにしてたのに~」


 花がそう言う。

 彼女は裏表がないタイプだ。

 きっと本心からそう言ってくれているのだろう。

 彼女の視線にいたたまれなくなり、俺は謝罪しつつも話題を逸らすことにした。


「本当にすまなかった。……ところで、どうしてヤマト連邦の件って分かったんだ? 俺は確か、『近いうちに長期の護衛依頼を出すかもしれない』としか言ってなかったはずだが……。それに、わざわざ密航するのもおかしくないか?」


 俺はそう問う。

 長期依頼の予定を反故にしたのは悪かったが、密航するほど執着があるとは思わなかった。

 食料の減りが早かったのは、おそらく彼女たちが勝手に食べていたからだろう。

 まぁ、食料には余裕があるので大きな問題はないが……。

 わざわざ船に潜入していた理由は、聞いておく必要がある。

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