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1173話 ゆーちゃん

 隠密小型船の積載量がオーバーしている疑惑が持ち上がった。

 そして、アイリス、ユナ、リーゼロッテの反応を見た結果、彼女たち3人が何かを隠していると判断する。


「アイリスたちを責めているわけじゃないんだ。ただ、真実を教えてほしい」


「う、うん……」


 俺が優しく言うと、アイリスがうなずく。

 清廉潔白な彼女が後ろめたい行動をするのは珍しい。


「詳しく説明してくれ。11人以外の存在を連れてきたって?」


 俺はアイリスたちにそう促す。

 すると、アイリスが言いにくそうにしながら話し始める。


「えーっと……。実は、この子なんだけど……」


「うん?」


 俺はアイリスの指差す方向を見る。

 そこには、何も見えないし感じない。

 いや、待て。

 何かおぼろげながら見えてきたぞ。


「やっほー、おにーさん。一応は初めましてかな~?」


「お、お前は……!」


 俺は驚愕する。

 俺の視線の先……その空中には、1人の少女が立っていた。

 正確には、少女のように見える何かだが……。


「もしかして、屋敷の?」


「うん! お屋敷の幽霊! ゆーちゃんだよ!!」


 少女――ラーグにあるハイブリッジ邸に住む幽霊のゆーちゃんは、元気よくそう言う。

 俺と彼女は初対面ではない。

 初めて屋敷を訪れたときからその存在は知覚していた。

 もっとも、当時の彼女は薄っすらとしか実体化できず、意思疎通もできなかったのだが……。


 その後、屋敷に住む者たちの魔力を少しずつ吸い、実体化が進んでいった。

 徐々に意思疎通らしきものも可能となった。

 アイリスがアイリーンを出産した際には、彼女がアイリーンの魂を戻して蘇生のきっかけをつくってくれたりもしたな。

 俺、アイリス、アイリーンの恩人だ。


「どうして、ゆーちゃんがここに……」


 俺は呟く。

 すると、アイリスが答える。


「ごめんね、タカシ。この子を連れてきたのはボクなの。その、どうしてもついて行くって聞かなくて……」


「そうなのか?」


 俺はアイリスに聞き返す。

 すると、ゆーちゃんはうんうんと頷いた。


「うん! おかげさまで、かなり強く実体化できるようになったからね~! それに、おねーさんに取り憑いた今、土地への縛りがなくなったから! もうどこでも行けるし、旅をしたくなったんだ!!」


 ゆーちゃんがそう言う。

 土地への縛り?

 ああ、要するに地縛霊のようなものだったのか。

 アイリスに取り憑いたことで、その縛りが一時的に解除されたような状態になっているらしい。


 ゆーちゃんとラーグ屋敷には、何か因縁のようなものがあったのかもしれないな。

 そのあたりも調査したいところだ。

 ……が、今は既にヤマト連邦に向かって移動中だ。

 彼女の過去については、また今度でいいだろう。


「そうだったのか。ふむ……」


「ごめんね? 勝手に連れてきちゃって……」


「ごめんなさい、おにーさん」


 アイリスとゆーちゃんが揃って頭を下げる。


「いや、いいんだ。アイリスもゆーちゃんも謝らないでくれ」


 俺は慌ててそう言う。

 確かに少し驚いたが、別にそこまで問題視するようなことではない。


「ゆーちゃんの体重って、どれくらいなんだ? 人間よりも重いのか?」


 俺は確認のためにそう聞く。

 すると、ゆーちゃんは首を横に振る。


「ううん! そんなことはないよ! むしろ軽いほう!! なんてったって、幽体だからね!」


 ゆーちゃんは、そう答える。

 どうやら、ゆーちゃん自身は体重が軽いらしい。

 まあ、実体がないから当然と言えば当然だが……。

 完全なゼロではないようだ。

 このあたり、この世界ならではの物理法則なのかもしれない。


「それなら、潜水深度に誤差が出ていることへの影響は微々たるものだと思う。ゆーちゃんが同行するぐらいなら問題ない。霊体なら場所も圧迫しないしな」


「タカシ……」


 俺の言葉に、アイリスが安堵する。

 元々の船全体の重量はどれくらいだったのだろう?

 俺たち人間が11人で……600~700キロぐらいか?

 アイテムルームやアイテムバッグの外に出している物資が300~400キロ。

 隠密小型船自体の重量が1万キロってところかな?

 魔導機構で補強しているから、地球における同サイズ船と比べてさほどの重量はなかったはずだ。


「一応言っておくが、霊体化したまま壁をすり抜けないようにな。周囲は広大な海なんだからさ」


 ゆーちゃんは、屋敷の壁をすり抜けていたことがある。

 この隠密小型船でも同じだろう。

 便利な能力だが、扱い方を間違えるとはぐれて大変なことになる。


「その点は心配ないよ~! おねーさんに憑依しているからね! 常に半霊化しているから、意識しないとすり抜けられないよ。それに、憑依対象のおねーさんの場所はいつでも把握できるから!」


「へぇ、便利なものだなぁ」


 俺は素直に感心する。

 それなら安心だ。

 アイリスがゆーちゃんを連れてきても、特に問題はない。

 次は……ユナとリーゼロッテから詳しい話を聞いてみることにしよう。

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