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1144話 今のはお前を試したのだ…

 俺はラスボスのトリスータと戦いを繰り広げる。

 そして、激しい戦闘の末に倒した。

 これで世界滅亡の危機も去った。

 後は、ミティやアイリスたちと幸せな生活を送るだけである。

 ――そう安堵したのも束の間だった。


「え? 本の世界を再現する魔道具だって?」


「そうだよ? ……え、まさか、ハイブリッジ男爵は……そうとは知らずに参加したの?」


「あ、ああ……。知らなかったし、気づかなかった……」


 トリスタが驚き、俺はうなだれる。

 少しおかしいとは思ったんだよな。

 この建物は仮設の事務所に過ぎない。

 にもかかわらず、さっきまでこの部屋はかなり広大に見えていたからな。


 ひと悶着を終えた今は、なぜか普通の仮設事務所のような光景になっている。

 謎の人骨とかも、よく見ればただの作り物だ。


「ハイブリッジ男爵が許可してくれた魔道具や備品だよ? ええっと……ほら、これ」


「どれどれ……。あー……、確かに俺のハンコが押してあるな」


 トリスタが机から取り出した書類には、俺の印が押されていた。

 それは間違いなく、俺が許可したものに押される印鑑だ。

 誰かが勝手に押したわけではない。

 そう言われてみれば、俺が自分で押したような記憶がある。


 備品はともかく、魔道具は高価なものが多い。

 もっとも、厳密に言えば『本の世界を再現する魔道具』があるわけではない。

 視覚系、空調系、空間系など、多種多様な魔道具を組み合わせて本の世界を再現しているようだ。


「しかし、蓮華もこういうのが好きだったんだな」


「然り。本来なら、実際の悪を叩き切っていきたいところでござるが……。おるふぇすへの潜入は、妖精族の拙者には不向き故。とりすた殿の魔道具調整に付き合っていたのでござるよ」


 蓮華がそう説明する。

 トリスタは無類の本好きだ。

 しかし、蓮華はあくまでも代替手段として捉えている感じか。

 ミリオンズの本好きと言えばサリエだが、彼女は治療院の方で忙しいしな。


「魔道具の件は分かった。しかし、建造中の巨大図書館の建物はいったい何だ? 俺は許可した覚えがないぞ」


 これは大問題である。

 トリスタが本好きなのは知っていた。

 彼の知識や能力を見込み、文官としてかなりの権限を与えている。

 当初は文官見習いで、その後は平の文官で、今は文官のトップだ。


 トリスタがその気になれば、かなり好き勝手に口出しできるだろう。

 だからと言って、自分が好きな本絡みの件に多額の予算をつぎ込むのは、許容できない。

 ここはしっかりと、問いただしておかなければならないだろう。


「何を言っているのさ。前に、ハイブリッジ男爵に相談したじゃないか」


「そんなことがあったっけ?」


「うん。わりと最近だよ? ほら、ハイブリッジ男爵がリンドウの開発に力を入れている頃で……。今から1か月ぐらい前かな?」


「1か月ほど前……」


 俺は考える。

 キサラやトパーズをリンドウに連れて行ったり、俺とフレンダが仲良くなった頃より後かな?

 そして、聖女リッカが襲撃してきた頃より前か。

 そういえば、そんなこともあったかな?


「ほら、覚えているでしょ?」


「うーん……。あんまり覚えてはいないなぁ」


「…………はぁ。ハイブリッジ男爵の記憶力は残念すぎるよ」


 トリスタがため息を吐く。

 俺の記憶力がアレなことは否定しがたい。

 俺も、大切なことはメモをするなどの工夫をしている。

 自分の記憶力ってのは、あまり信用できないものだからな。

 しかしそれはそれとして……。


(トリスタのため息は何か腹立つな……)


 俺はハイブリッジ男爵領の頂点に立つ存在だぞ?

 ここは1つ、ビシッとした対応をしてやろう。


「ふん。言った言わないの水掛け論は、時間の無駄だ。証拠はあるのか、証拠は! 俺が許可したという確かな証拠が!!」


「……はぁ。仕方がないなぁ。じゃあ、これを見てよ」


 俺が追求すると、トリスタがまた別の書類を取り出す。

 それはリンドウ図書館の建設に関する資料だった。

 予算、設計、建築工数などのデータが載っている。

 そして――


「俺のサインがバッチリ入っているな」


「でしょ?」


「ふむ。そういえば、そんなこともあったような……」


 おぼろげながら、記憶が戻ってくる。

 確かに、トリスタが建設に関する相談に来た気がする。

 口頭での相談よりも後のことだ。

 そこで俺は、確かに許可を出してその場でサインした……ような気がする。


「ふっ……」


「ハイブリッジ男爵?」


「今のはお前を試したのだ……。貴族の俺に、見事な対応だったぞ。褒めてつかわす」


「え? ……ああ、うん。ありがとう?」


 トリスタが不思議そうな顔をしている。

 そんな彼に俺は、鷹揚にうなずく。

 どうにか誤魔化せたか?


 残念な記憶力を元に、部下に謎の追及をしてしまったが……。

 これで誤魔化せただろう。

 ……たぶん。

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