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1086話 差し入れのナス

 俺は『三日月の舞』の部屋に入った。

 中には全裸のテナがいた。

 何やら、一人で慰めていたらしい。


(テナ、精神力強いなぁ……)


 エレナは結構大きな精神的ダメージを負っていて、ルリイもそこそこ落ち込んでいる様子だったぞ。

 そんな中、一人で致す余裕があるとは……。

 このパーティの打たれ強さ最強はテナと言っていいだろう。

 それに――


「テナさんって……」


「なんすか?」


「ボーイッシュな方だと思ってましたが、結構いい体をしているのですね」


「えっ!?」


 テナが顔を真っ赤にする。

 彼女は胸を隠すように腕を組んだ。


「そ、そんなに見つめないで欲しいっす……。恥ずか死ぬっす……」


「あ、すみません」


 言われてみれば、確かに失礼だったかもしれない。

 ……でも、綺麗だと思うんだよなぁ。

 俺はテナに声を掛ける。


「テナさん。実は差し入れがあるのですが……」


「差し入れ? ……あの、それって後でもいいっすか? とりあえず服を……」


「いえ、今渡したいと思います」


「えっ? いや、でも……」


 テナが困惑している。

 そりゃそうだ。

 一人で致しているところに突入したまでは不慮の事故としても、その後もずっと居座るのはどうかと思うだろう。

 だが、これは譲れないところだ。

 俺はテナに告げる。


「これをどうぞ」


「これは……野菜……? ナスっすか?」


 俺はテナにナスを渡した。

 もちろん、彼女へのプレゼントだ。


「はい。その……、お近づきの印に……」


「えっ? オレっちにくれるんすか?」


「ええ。テナさんに受け取ってもらいたくて持ってきました」


「……」


 テナが満面の笑みを――浮かべていない!

 むしろ、困惑している!!


「えっと……。その……、嬉しいっすけど……。この状況で、いきなり生野菜を渡されても……」


「ふっふっふ。この状況だからこそ、役立つんですよ」


「へっ? どういう意味っすか……?」


「それは……」


 俺が説明しようとしたその時、俺の両肩に手が置かれた。

 エレナとルリイだ。


「差し入れは渡したんでしょ? いつまでいるつもりよ! 空気を読みなさい! 空気を!!」


「ふふふー。タケシさんがここまで動じない人だったとはねー……。でも、テナちゃんも恥ずかしがっているし、ここは一度……ね?」


 2人が俺を諭してくる。

 ……仕方ないな。

 これ以上は迷惑になるだけだ。


 ――なんて、あっさり引き下がる俺ではない!

 ここで引いたら、タカシ=ハイブリッジ男爵の名が廃る!

 こうなりゃ、実力行使だ!!


「百聞は一見にしかず! 論より証拠!! というわけで、テナさん!!!」


「な、なんすか? ……っていうか、近いっすよ!?」


 俺はテナへと迫る。

 そして、後方のベッドにテナを押し倒した。


「ちょ!? な、何をする気なんすか!?」!


「なにって……、ナニをするんですよ」


「えっ!? えぇっ!?」


 テナは顔を赤くして混乱している。

 そんな彼女の体の上に、俺は覆いかぶさる。

 そして、一度はテナに渡していたナスを自分の手に取った。


「えっ!? なんすか!? 一体、なにが始まるっすか!?」


「ふふふ……。テナさんは先ほどこう言っていましたよね? 『こんな状況で、いきなり生野菜を渡されても……』と」


「い、言ったっす……」


「ならば、見せてあげましょう」


「見せる……?」


 テナは不思議そうな顔をする。

 一方で、背後からはエレナとルリイが息を飲む音が聞こえてきた。


「このナスの……有効な使い方を!!」


「えっ!? なにそれ!? 怖いっす!! ――ぎゃああぁっ!? ど、どこ触って……。野菜は食べるものっすよ!?」


「下の口から食べればよろしい!!」


「下に口なんて、ないっすぅうう!!!」


 テナは叫びながら暴れる。

 だが、俺の身体能力の前では無意味だ。


「ちょ、ちょっとあんた! いつまでも調子に――って、なんて力なの!?」


「す、すごいー……。タケシさんに……これほどのパワーがあったなんてー……」


 エレナとルリイが俺の力に驚いている。

 あんまり全力を出しすぎると、Dランク冒険者タケシのキャラが崩れてしまう。

 ……が、今はそれどころではない。

 テナに満足してもらうのが最優先だ。


「ふはははは! この俺を止められるかな!?」


「ぎゃあああぁっ!! お、オレっちの貞操のピンチっすーーッ!!! エレナっち、ルリイっち、助けてっすぅうう!!!」


 テナが叫ぶ。

 こうして、俺は療養中のテナへのお見舞いを果たしたのだった。

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