表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/42

初めての魔物、初めての魔術。

*12/16に手直し。読みにくく感じたなら遠慮なく感想や活動報告で言ってもらえると助かります。

今後の目標をしっかりとたて終わったヨースケがまずやったこと。


それは服を脱ぐことであった。


いや、冗談でもなんでもなく物凄く暑かったのだ。この無人島が常夏の島なのかどうかは不明だが、現在の周囲の気温は日本人の感覚的には完全に真夏日と言って差し支えないものだった。そんな中で、狩猟王のローブ、上着、魔法銀の鎖帷子、下着と、アホみたいに装備を着込んでいて涼しい訳が無い。まあ雪山に飛ばされたかもしれないことを考えると仕方の無いことではある。しかしこのままでいたら確実に熱中症になってしまう。かといって、現時点では周囲にどの程度の危険が潜んでいるかわからないので鎖帷子を脱ぐことは出来ない。できるだけ早くしっかりとした安全を確保できるスペースを探す必要があった。

取り敢えず上着とローブはたたんでリュックの空きスペースに詰め込む。ついでに眼帯も外してリュックに放り込んで置いた。いっきに視界が倍に開ける。さあ、行動開始だ。


ヨースケは少しだけ考えると、まずは潮の匂いがする方へ行くことにした。つまり海へ向かうことにした。理由はいくつかある。最大の理由は最も安全性が確保しやすいと考えたからだ。日記によると沿岸部は女性が三日間歩き続けても特に何も起こらなかった実績がある。試練の祠があるという山の方や、特に情報の無い森林地帯、地脈が湧き出し、スライムとかいう魔物が確認された平野部、そういった場所に比べて安全なのは確実だろう。


ここから移動する理由は他にもいくつかあった。海辺で食料を確保する方法にいくつか心当たりがあったこと、今いる平野部は基準になるランドマークのようなものが無いこともそうだ。


周辺の地理をしっかりと把握する為のコツに分かり易い基準点を決めることは様々な場所の相対的な位置関係をしっかりと認識する上で非常に有効である。だからこそ地図をきちんと読むことの出来る人は地図のどの辺りにいるかすぐ把握出来るのである。方向感覚が鋭い人の多くはこういった基準点を無意識の内に駅や自宅に設定して動いている。


話を戻すと、何も無い平野部なんかは基準点として認識しづらい。これから向かう様々な場所同士の相対的な位置関係をしっかり把握しておかないと、島の地図を作ることなど夢のまた夢である。日記の情報を有効に使うことを考えれば、まずは彼女の流れ着いた砂浜を探してみるのがいいだろう。



3分も歩かないうちに何かが探知に引っかかった。


魔力探知と気配探知の技能(スキル)が感じとった距離は方向は一致している。距離は体感でだいたい200mぐらいだ。実は歩き始めてすぐに探知のスキルを意識して使ってみたのだ。最初はだいたい半径20mぐらいの狭い範囲からから意識し始めて、歩きながらだんだんとその範囲を広げていたのだ。感じた方向は真後ろ、転移したあたりに何かの存在を感じる。


リュックを下ろして気配遮断を使う、いったん弓を地面におき、一回ゆっくりと忍者刀を右手だけで抜いてまた鞘に戻す。


よし、問題なく抜ける。


迷ったが身軽に動くことを優先し、今回は狩猟王のローブは使わないことにした。古白のところで確認したのだが、透明化の使用中は移動速度が著しく下がるらしいからだ。


弓を拾い上げて音を立てないよう気配の方へ近づいてみることにする。そのために忍び足と無音移動のスキルを意識して使ってみると全く音を立てずに移動できた。しかも思ったよりずっと早く動けている。この平野部のほとんどは膝下ぐらいの高さの雑草が生い茂っている草原地帯だ。技能(スキル)という世界のシステムを利用しているとはいえ、こんな場所を意識しただけで無音移動できるのは凄まじい事だ。


探知関係の方のスキルがどう働いているかはわからないが、探知した気配から感じる圧力のようなものはそれほど強くは感じない。なんとなくだが脅威度は低いように思える。まあだからと言って油断せずに近づくことにしよう。


探知対象との体感距離がだいたい100mを切った位置に来た時、新たな探知対象が現れた。今向かっている方向に対して左斜め前の方に現れた新たな対象との距離は、これまただいたい200mだ。ゆっくりと、最初の探知対象の方に向かっている。気配の大きも最初のものと同じくらいだ。同じ魔物なのだろうか?


その時、最初の探知対象がなぜか急に動かなくなった。


さて、どうするか……。


この気配の正体として可能性が最も高いのはスライムとやらだろう。あまり危険は無いという感じの記述だったように思えたが……。しかし日記の記述を単純に鵜呑みにして信じすぎるのも危険かもしれない。彼女はこの島に数日しかいなかった。この島のすべてを把握していたわけでは無い。しかし今回は戦うべきか否か?


数秒間考え、今回は襲われない限りこちらからは攻撃しないことにした。自前の武器の強さやスキルがどの程度か検証しないうちから、複数体の魔物と戦うのは得策ではないと判断したからだ。そもそも相手がなんなのかもまだ確認していないのだ。今から焦って行動するのは良く無い。まずは相手にもう少し近づいて様子をみることにする。幸いなことに相手は動かず何かしているみたいだし。


気配を消したまま50mまで近づくと相手を視認できた。恐らくあれがスライムだろう。だいたいサッカーボールくらいの大きさのブヨブヨした透明なゼリー状の何かがいる。たまたま太陽を背にして移動していたおかげで相手がよく見える。スライムの表面はてかてかと光をよく反射していた。そしてはたと気付く。今回、何も考えずに気配だけ消してひたすら直線的に移動してしまったが、よく考えれば逆光だったら相手が確認出来なかった可能性もある。また相手がスライムじゃなかったら逆にこっちの位置を相手が先に把握するような事態に陥ったかもしれない。気配の消し方や忍び足の効果一つとっても狩人の技能はかなり優秀だとわかるが、経験も知識もともなっていない技能の危うさに気づいた。いや、運良く今気づけたと考えておくことにしよう。とにかく今後は太陽との位置関係にも注意することにしよう。


気を取り直し、相手が気付く様子も無いので少しづつ近づいてみることにした。だいたい40mぐらいの距離まで近づくとその様子が様観察できた。スライムは呼吸?しているのか少し膨れたり縮んだりして非常にリラックスしている様だ。


ひょっとして寝てるのか?しかしなにあれ?なんか少し可愛いぞ。


さらに良く観察してみるとスライムが陣取っている場所は例の魔法陣があったあたりだと気づいた。あれか、ひょっとしてあそこが地脈の噴出口とか言うやつだったのか?それを裏付ける様に2つ目の気配は目の前にいるスライム方にゆっくりと一定速度で近づいていっている。いや、これはもう2匹目のスライムで間違いないだろう。距離が60mぐらいを切ってからより気配が分かりやすくなり、その二つの気配が余りにも似ていることがその予想を肯定している。


そしてまた新たに二つのスライムと思われる存在を探知した。気配の感じ方や移動速度から予測してもそうだとしか思えない。その2体共が1体目の位置を目指していることから、地脈の噴出口説は案外あっているのかもしれない。できたら後日、鑑定石版使って確認してみよう。何かわかるかもしれない。


そうやってあれこれ考えているうちに、もう一匹のスライムらしき生物がズルズルと地面を移動しながらやって来た。2番目に探知した個体だ。始めからここに陣取っていた個体と大きさも色もまるで区別のつかない。


2体目は1体目からの距離が1mを切った辺りで止まるとフルフルと揺れ出した。すると1体目も同じ様に震え出す。


共鳴でもしてるのかあいつら?


いや、案外地脈は彼らにとって温泉みたいなもんで


「どんなかんじですかな?」


「ぐっどやでー。」


「私もそこにいれてもろてええですか?」


「ええでー、でもすこしはなれてーな。」


とか言い合ってるのかもしれない。


まあそんなアホな妄想はどうでもいいか。こっちから手を出さない限り危険は少なそうだし、さっさともとの場所まで戻ることにしよう。スライムの意外な愛くるしさも分かったしね。


確実とは言えないが、さっき決めた「第五目標:魔物の強さの確認」

はある程度達成したことにしよう。


結局最後まで気配を消してリュックを置いた位置まで戻ってきた。肉体的にはまだまだ余裕だが、正直、精神的には少し疲れた。念の為ステータスも確認してみたが、数値はなに一つ変わっていなかった。ある意味これはステータスが精神や肉体の状態の全てを表せているわけではないということの裏付けになるだろう。まあ古白もこういった情報はただにタグ付けにすぎないって言ってたしな。


置きっぱなしだった荷物はもちろん荒らされていなかった。まあ放置していたと言っても常に探知できる範囲においていたわけだから厳密には放置していたとはいわないのだが。


気を取り直して、今度こそ海に向かうことにする。歩くついでに古白に教わった「ステータス表示の技能を経由して魔術を使う方法」を試すことにした。



学ぶことによって習得したスキルと異なり、GPなんかによって無理やり魂魄に焼き付けた技能(スキル)はマニュアル操作のような決まった手順を行えば使用することができるのだ。実はこれが、第三目標の真水や火種を作り出す当てであった。


情報開示(ステータスオープン)』したのち技能の項目にある初級水魔術に意識を向ける。するとステータス全体の項目でなく



初級水魔術

Lv1:水生成(クリエイトアクア)

Lv2:水念動(アクアムーブメント)

Lv3:氷結化(フリージング)

Lv4:水防御(アクアガード)

Lv5:水弾(アクアバレット)

Lv6:水付与(エンチャントアクア)

Lv7:水壁(アクアウォール)

Lv8:氷弾(アイスブリッド)

Lv9:氷壁(アイスウォール)

Lv10:激流(アクアブラスト)



と言った項目が頭に浮かんで来た。さすがタグ付けというだけある。こう言った情報が任意に取り出せるのは実に便利だ。結構手間がかかるけど……。

そして更に『Lv1:水生成(クリエイトアクア)』の項目に意識を向ける。すると……、



初級水魔術Lv1:『水生成(クリエイトアクア)

魔力を水へと変換する魔術。必要な魔力量に制限はない。その真言は「水よアレ(クリエイトアクア)」である。



ここで言う『真言』とは、いわゆる『呪文』つまり『力ある言葉』のことだ。まあ実は今はまだこれは使えない。


重要なのはここからだ。この項目だけが表示された状態で『Lv1:水生成(クリエイトアクア)』の項目を意識しながら、魔力操作の技能を意識する。俺のMPは総量40。今感じている魔力の1/40を右手の人差し指の上に集まるようイメージする。そしてそのままの状態を維持しつつ、水生成の技能(スキル)を使用するための別の『真言』を唱える。



「初級水魔術Lv1水生成(クリエイトアクア)、『起動(セットアップ)』!」



すると、あたまの奥底の方から自身のもつ水というイメージや記憶が無理やり引きずり出されるような奇妙な感覚がおこり、さらに口と舌と横隔膜が勝手に動いて


『水よアレ(クリエイトアクア)』


と真言が無理やり喉の奥底からで絞り出された。


指先の魔力が集まるようにイメージしていた部分から何かが体の外に抜けて行く。そんな奇妙な感覚と共に指先にシュルシュルと水が生まれ渦巻き始めた。そしてだいたい1リットルぐらいの水の塊ができたと思ったら、それはバシャリと音をたてて地面に落ちた。


少し濡れてしまったが魔術は成功だ。古白曰く、これを繰り返してイメージを再現できるようになれば、あとは魔力を込めて『真言』を唱えるだけで魔術を再現可能になるそうだ。ちなみに『真言』のほうは『力ある言葉』であることを意識することこそが最重要であり、発音はそこまで気にしなくてもいいらしい。異世界由来の魂だけで構成されている俺だとイメージはほぼ不可能と言っていたから俺はこう言った使い方が主流になってしまうだろう。これは各呪文のタイムラグも確認しといたほうがいいかもしれない。



再びステータスを開いてMPの項目が39/20(+20)と表示されていることを確認する。さすが魔力精密操作Lv10である。感覚だけに頼ったというのにMPの消費量は正確だ。とにかくこれで魔術スキル使用のめどが完全にたった。真水についてもMPで生み出す方法は確立できたわけだ。


俺は段々と強くなる潮風の匂いを感じながら、続いて初級火魔術Lv1「点火(イグニッション)」を試す。こちらもMPを1だけ込めたのだが、指先に生じた思った以上に大きなガスバーナーのような火にビビってしまった。これで無事、今日の第三目標も達成された。


ちょっとした満足感に浸っていると。波の音が聞こえて来た。目の前に見える背丈ほどの高さの木が密集している向こう側から聞こえてくる。天然の防砂林かもしれない。それらの間をかき分けて突き抜けると、目の前に青い海と白い砂浜が広がっていた。


そう、海だ。








おかしい?当初の予定だとさっさと指輪をはめて幽霊と掛け合いをしながらダンジョンに突っ込む展開を考えていたのに、完全に男ひとりのなんちゃってサバイバル展開になってしまった。まあもうすぐヒロインに会える……はず。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ