目が覚めて
頭の奥に感じる鈍痛に、縁は不快気な気分になりながら目覚めた。
鈍い痛みは縁が少し動いただけで鋭い痛みに変わる。手で頭に触れると、そこには巻き付けられた布の感触が伝わった。
縁が目覚めた場所は見たこともない、知らない部屋だった。痛む頭を抱えながら周りを見渡せば簡素な丸机の上には、水差しと縁の持っていたカバンが置いてあった。
ギシッ、と音を立てる木製のベッドから起きた縁は丸机に置いてあるカバンに手をかける。念のため、カバンの中身を確認する。
財布、ケータイ、教科書、お弁当、痴漢撃退用スプレー、小型ライト、裁縫セット………。
「………ふう」
カバンの中身を確認し終わった縁はため息を吐きつつベッドに深く腰掛ける。そして。
「頭の痛みも本物だし。ということはあの化け物も夢でも幻でも無く本物だったと………はぁ、本当にこんな事ってあるんだな。これが異世界トリップというやつか、参ったな」
至極あっさりと現実を受け入れた縁からは、全然参った風には感じられない。
どけか、ぼんやりと天井を眺めていた縁は少々ふらつきながらも部屋の外に出た。
縁が気絶してから何時間経ったか分からないが、空は未だに綺麗な青色をしていた。恐らく、縁が眠っていた時間はそれ程長くはないのだろう。
ふらりと身体が揺らぐが、縁は気にせず、そのまま歩き始めた。
●○●○●○●○
寝ていた縁が消えたことに気付いた神薙が、慌てて縁を探し始めるのは、それから少し経った後のことだった。
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ふら、ふらと。土壁に手をつき、ふらつきながら歩き続ける縁は少し離れた場所に既視感のある後ろ姿を見つけた。彼女は桶を片手に早足でどこかに向かっているようだった。
「…………」
お目当ての相手の一人を見つけた縁は、その人物の後を追って、ゆっくりと歩き出すのだった。