鎮守の森を抜けた先には
しばらく鎮守の森の中を走り抜けていると森の出口付近に指していた強い光りが縁の目を灼いた。
薄暗い森の中を走っていた縁の目にはいささか眩しかった。わずかに目を細めながらも縁は悲鳴が聞こえてきであろう場所に向かって声を上げる。
「そこに誰かいるのか! 無事なら返事をしろ!!」
返答はすぐさま返された。
「!? 誰かいるのですか、助けてください!」
森を抜けた縁が目にしたのは、自分と同じくらいの少女が得体の知れない化け物に襲われているところだった。
よく見ると少女の格好も変わっている。和服のような服装だが、縁の知っている和服とはどこか違って見えた。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。今やるべきことは彼女の救出である。他のことは後でいい。
「………っつ!!」
縁はカバンの中に入っていた痴漢撃退用スプレーを化け物に向けて噴射した。化け物は全体がヘドロのようになっていて、大きな一つ目がギラギラ輝いている。化け物は縁の放ったスプレーをモロに受けて絶叫を上げながらのた打ちまわっている。
「早く! 逃げるぞっ………!!」
「えっ、あ……は、はい!」
少女の腕を掴んだ縁に彼女は面食らいながらも立ち上がり力強く頷いて共に走り出した。
………怒りに満ちた化け物の叫び声を聞きながら二人は逃げ出したが、縁は背後から強い衝撃を受けて前のめりになる。少女も驚いたように縁を見やって小さく悲鳴を漏らした。
どうやら化け物は近くにあった拳だいの石を豪速球で縁に投げつけたのだ。しかも間の悪いことにその石は縁の後頭部に当たり、縁の頭からは大量の血が流れ出ていた。
「ひぃ、だ、大丈夫ですか? しっかりしてください!!」
「いっ……つ、つ」
頭がぐわぁあんと揺らぐ。
マズい。意識が……!!
回復した化け物が二人に追いついた。
少女は縁を庇うかのように自分の身体を縁の身体に被せた。
アホか!? 早く逃げろ!!
縁は少女を振りほどこうと身体をよじったが、少女はさらに強く縁を抱きしめた。
この光景が、不意に夢の光景と繋がった。
その時だ。
『ギィヤァアアアアアアッ、アアアアアガハッ!?』
化け物に銀色の閃光が叩きつけられた。
霞む目で少女の隙間から覗くと、そこには刀を手にした男がいた。
「神薙さま!?」
少女が、驚きの声を上げて助けに入ったその男は長い裾を捌きながら次々に化け物に向かって切りかかった。
化け物の攻撃を軽々かわす神薙という男は一度大きく後ろに跳びずさると、二人の前にきた。
「大丈夫かい、穂稀。怪我は無い?」
「私は大丈夫です! でも、私を助けようとしてくれた彼女がっ!!」
穂稀と呼ばれた少女は泣きながら縁のことを必死に訴える。神薙と呼ばれた男は一瞬、息を飲んで縁を凝視した。
「うっ……」
「……酷い怪我だ。分かった、少し待っててくれ。すぐにこの祟り神を片付ける!」
神薙が再び化け物───祟り神に向かって行ったのを尻目に、縁の意識は闇に沈んでいったのだった。