表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白恋鬼譚  作者: 丹下 博観(風光明媚)
異世界にて鬼に出逢うこと
1/71

プロローグ



 あぁ、雨の音がする。

 雨粒が、身体を静かに、激しく、打ちつける。


 身体の体温を、


 流すように

 穿つように

 削るように

 

 少しずつ、少しずつ、奪い去る。



『………っ、………!』



 ?

 雨音以外で、人の、声がする?



『……!!…………?………………』



 誰かが、私の身体を壊れものを扱うなのごとく優しく抱きしめた。


 口の中が、血の味がする。


 まぶたを震わせて見上げるも、霞んだ瞳に、その人の姿を映すことが………出来ない。



『………!!』



 男だということは、何となく分かった。

 彼は、私の知り合いなのだろうか?

 顔に、雨粒とは違う、暖かい雫が降り注ぐ。

 これは……涙?


 私はとっさに彼の涙を拭おうと腕を上げるが、身体に激しい痛みを感じて僅かに呻いてしまった。


 身体のいたる所から生じる痛みに、私は唐突に理解した。そうか、私は怪我をしているのか。それも、命に関わるほどの大怪我を。

 彼の焦った気配が私を抱く腕から伝わってくる。しまった。心配させるつもりはなかったのに。



『………』



 私の唇から彼の名前が放たれる。

 あぁ、やっぱり彼は私の知り合いだと。この時、確信した。


 彼が私に話かけてくるが、その声が私には聞こえない。ただただ雨音ばかりが耳に響く。

 その事実に、苛ついてしまう。私は、彼の言葉が聞きたいのだ。最後になるであろう、彼の声と言葉を。



『……!?……………!!………………!』



 どうか嘆かないでくれ、『   』よ。そなたらしくもない。いつもの掴みどころのない傲然と構えた態度はどこにいったのだ?

 内心、笑みがもれてしまうのは仕方ない。彼はいつも私に冗談ばかり言って困らせていたのだから。


 彼が私を閉じ込めるように抱きしめた。力加減があまり出来てないぞ?

 本当に、それ以上嘆いてくれるな。そんなに嘆かれたら私も泣きたくなってしまうだろうが。



『………』


『……!!……………』



 声をかけてやりたいのに、私の口からは血の塊が零れるばかり。意識が掠れてきたな……。血が、流れすぎたのか────。



『……?………!!!』



 すまない。


 私は結局、そなたと交わした約束を果たすことが出来なかった。あの、ささやかな約束を。

 不意に、胸が痛んだ。


 私は彼を、1人残して逝ってしまうのだな。

 ─────すべて、背負わせて。



『────────────────!!!』

 


 響き渡る声無き声。

 聞く者にその者の嘆き、怒り、苦しみを分からせるかのような叫び。

 彼の絶叫を聞きながら、私の意識は冥くも心地よい暗闇の中に沈んでいったのだった………。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ