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順位

 王立極東超能力者育成学園生徒会執行部。

 その十八文字熟語には、キョクトーにおいて学園長に次ぐ権力が秘められている。構成員は全部で十一名。三年生が生徒会長、副会長、書記長、会計を務め、その下に四人の二年生が就き、さらにその下に一年生が雑務として就く。学園の秩序と平和は、この十一人のおかげで守られていると言っても過言ではないのだ。

 その知名度は、入学してなくとも風のうわさで聞くほど。


「その生徒会に、俺みたいな……E組の生徒が入れるんですか?」

「勿論。逆に、こんな嘘ついてどうするって言うんだい? それに、悪い話じゃあないだろう」


 確かに、悪い話ではない。むしろ全生徒がうらやむような好待遇だ。しかし、だからこそ、聞いておかねばならないことがある。


「……判断基準は?」

「キョクトーの伝統でね。新年度の初日に、とあるくじ引きをするんだ」

「くじ?」

「そ。一年生の名前が書かれたくじを三枚引いて、当選した者を生徒会に勧誘する」

「そんな、簡単なものでいいんですか」

「いいんじゃないの? もう百年近く続いてるらしいから、変えようもないし」


 神楽は軽く言った。だとしても、あまりにもテキトーすぎる。もう一つだけ、瞬は問うた。


「生徒会に入ることのメリットは?」

「メリット? まあ、一番は権力だよねえ。それと……」


 神楽は身にまとう雰囲気を僅かに、近寄りがたいような威圧感に変え続けた。


「軍に入れる可能性が、格段にアップする」

「――っ! あんた、まさか……」

「悪いけど、君の過去について、ちょっとだけ調べさせてもらった。漆原彰人うるしばらあきと、彼のこともほんの少し……」

「おい、あんたどこまで知っている」


 瞬は神楽を睨みつけた。僅かに殺気すらも滲み出ている。神楽は肩をすくめると背を向け、歩き出した。


「おい!」

「返事は放課後に聞こう。入る気が有るなら、生徒会室へ来てくれ。良い返事を期待しているよ」


 神楽は生徒の群れへ紛れ込んだ。煮え切らない思いを抱えながらも、瞬は仕方なくE組の教室へ向かうしかなかった。

 室内に入ってみると、昨日よりもさらに騒がしかった。それもそのはず。黒板にとある紙がでかでかと貼られているのだから。


「なんだこれ?」


 詳しく見ると、上に『E組順位表』と書かれており、その下に一から十の数字と名前が記されている。ちなみに、瞬の名前は一の数字の横。その下には瀬戸大河せとたいがの文字。

 推測するに、E組の生徒を数字で格付けした物だろう。だとすれば、作ったのは間違いなく花笠だ。


「何にしても、見てて気持ちの良い物じゃないな。特に、お前が一位というのが気に入らない」

「佐伯か。お前は……四位か。これって、先生が作ったんだよな」

「十中八九そうだろう。あいつも暇なやつだ」


 佐伯は不機嫌そうに目を細めた。が、その佐伯に、話しかける者がいた。


「随分とご立腹のようだな。まあ、原因はあれだろうが」

「騒音デブか。まさか、お前が俺の上だとわな」

「騒音デブとは失敬な。ワシには安藤っちゅう名前がある。それに勘違いするな。この体は脂肪ではなく筋肉だ」

「どっちでもいい。一旦黙ってろ」


 今度は青筋を立てて安藤を睨む。安藤の順位は三位。つまり、佐伯は安藤に劣るという評価を付けられたという事。それが我慢ならなかった。

 生まれたころから、知能は腕力を上回ると、そう信じてやってきた佐伯にとっては、自分の誇りを汚されたような気分だった。

 

「クソ……ふざけやがって。俺がこんな奴より下だと?」

「おい、佐伯。口が悪すぎるんじゃないか」


 瞬が注意するが、佐伯は無視する。イライラが頂点に達しようとしているのだ。今言い返してはまずいことになる。がその考えは脆くも崩れ去ることになる。

 茅ヶ崎がドアを開け、教室にやってきたのだ。当然、張り紙が何を示しているのかを理解する。その次の言葉が、問題であり引き金となった。


「十位……まいっか」

「何がいいんだ……ふざけるなよ」

「え?」

「何でお前らは……そうも能天気なんだ。悔しくないのか、それでいいのか?」

「佐伯君。能天気ってそんなに悪い事じゃないと思うよ。ずっと肩肘張ってても、疲れちゃうし」


 佐伯は完全に理性を失っていた。そこへ放たれたこの言葉は、まさに火に油をそそぐようなもの。次の瞬間、佐伯は自らの能力を使ってしまった。


「もういい……『黙れ』」


 言って、しまったと後悔した。しかしもう遅かった。佐伯の能力は《三分間の絶対王インスタントキング》。どんな者でも、三分間だけ命令を破ることが出来ないようにする。

 一見強力そうな能力だが、この力には致命的な弱点が存在する。佐伯の命令を聞いた者は敵味方問わず従ってしまうのに加え、攻撃に使うことが出来ないので非常に使い勝手が悪い。

 だが、それは必ずしも、という訳ではなかった。


「そういうの。よくないと思うよ。佐伯君」

「な……何故。どうしてしゃべることが出来るんだ。茅ヶ崎」

「わたしの能力はね《異能封じ(スキルマインド)》って言って、超能力によるありとあらゆる現象、物体、物質を打ち消しちゃうの。ま、わたし自身は軟弱だから、普通の武器を使われたらおしまいなんだけどね」


 佐伯は奥歯を食いしばると、無言で教室を出て行った。それと入れ違いになるように、花笠が教室に入ってきた。九人の視線を受けながら、平然と言う。


「どうしました皆さん。随分静かですね」


 唯一言葉を発することのできる茅ヶ崎が相手をする。


「どういうつもりですか先生」

「主語が無いですねえ。ま、これのことを言っているのは分かりますよ。これは、昨日のデータをもとに私の観点から君たちに順位を付けた物です」

「こんなものを作って、いったい何が狙い何ですか?」


 花笠は頭を右上に上げ、困ったように返した。


「狙い、ね。私はただ、君たちに競争心を持ってもらいたいだけですよ。言っておきますが、原則これはやめません。少なくとも、生徒会レベルからお咎めが無い限りはね。ちなみに、皆さんの頑張り次第で順位は変わりますよ。一位目指して、頑張ってくださいね」

「……もういいです」


 茅ヶ崎がハブてたように言い、席に着くと花笠は気を取り直すように口を開いた。


「よろしい。皆さんも座りなさい。ああそう言えば、佐伯君は図書室で自習する、とのことです。それでは、授業を始めますよ」


 佐伯の命令はすでに解けているが、反論する気は起きなかった。渋々、言った感じで席に着く。花笠は教壇に立つと、張り紙を収めて淡々と授業を行った。


「……であるからして、つまり神具アーティファクトとは、迷宮の最奥から見つかる装飾品の事であります。身に付ければ、ただの人間でも超能力者と等しい力を得ることが可能です。そしてその形状は様々で、アクセサリーのようなものもあれば剣のようなものなど様々です。さらに、『宝玉』と呼ばれる特別な宝石を使う事で、強化グレードアップさせることもできます。うちのクラスで神具を所持しているのは桐嶋君と瀬戸君の二人ですね。また……」


 というような講義が長々と続けられること数時間。ようやく全部で七時限の授業が終わりを告げた。体をほぐすため伸びをする者、いそいそと荷物をまとめる者、眠りから覚めあくびをする者など様々だ。

 その中で、瞬は生徒会室へ向かうべく席を立った。一日中悩んだ末に、入会するという答えに達したからだ。

 ドアを二回ノックし、返事を待つ。しばらくして、「どうぞ」と生徒会長神楽の声が聞こえた。


「失礼します」


 一応そう言って、室内へ入る。こじんまりとしており、巨大な円卓と書類が詰めてある本棚、そして小さなゴミ箱以外には何もない。

 円卓の一番奥の席。最も偉い者が座ることを許されるその場所に、神楽は座していた。


「やあ、来たね。済まないが、他のメンバーは今日は来られない。でも、他の一年生がお待ちかねだ。応接室に居るから、早く行ってやりな」


 神楽が顎で指したドアを開け、中に入る。そこに居る二人を見て、瞬は目を見開いた。


「……何の冗談だ」

「あれ? 瞬かい?」

「また見事に三人そろったわね」


 そこに居たのは、二人の幼馴染。東雲冬弥と須藤美夏だった。もう何年一緒に居るかも覚えていない程昔から、何故か一緒になる腐れ縁が、ここでも発揮されたのだ。


「運命か、はたまた策略か。ま、どっちにしても、よろしくね。瞬」

「間違いなく作意が混じってるだろ。あの生徒会長、何考えてんだ」

「……別に、ボクが何かしたって訳じゃあないよ。全くの偶然さ。むしろ、驚いているのはこっちなんだよ」


 ぎくりとして、瞬は振り返った。そして、「盗み聞きですか」と皮肉をぶつける。神楽は笑ってスルーし、さて、、と前置きして話を続けた。


「顔合わせも終わったし、これからちょっとした仕事をやってもらおうか」

「今から……ちょっと急じゃないですか?」


 美夏が不満を返した。神楽は頷き、言う。


「確かにそうかもしれないね。じゃあ、今日は聞くだけだ。具体的な執行は、後日にしよう。メンバーの紹介も兼ねてね。本題に入ろう。事件が起こったのは今日の四時限目。場所は図書室。被害者は三年生の生徒が三人と、二年生の生徒が四人、それと、止めに入った教師二人の計九人」


 そこまで聞いたところで、冬弥が口を挟んだ。


「先生が二人もやられたんですか?」

「そう。一応言っとくけど、暴力事件だよ。犯人はだれかってことも既に判明している。三年A組のジーニアス・ジュリア。同盟国からの留学生だ。去年の十月ごろ、この学園に入学した。素行が良い生徒として有名で、傷害事件なんか起こす生徒じゃないんだけど。まあ、ここまで言えばわかるよね」


 今度は瞬が面倒そうに答えた。


「その留学生から話を聞いて、最悪取り押さえろと?」

「ご名答。ジュリアは未だ図書室に立て籠もっているから、出来れば今日中にやりたかったんだけど。仕方が無いね。彼は強いし、正直君たちじゃあ敵わないだろう」

「言ってくれますね。それじゃあ、何で今すぐボクらにやらせよう、なんてこと言ったんですか?」


 冬弥がすぐさま反論した。弱いと言われたのが、少し癇に障ったらしい。神楽はまるで、駄々をこねる子供を前にしたように溜息を吐いた。


「そりゃあ、ボクがいるんだから。君たちは、生徒会長がなんたるかを分かっていないようだね。キョクトーの生徒会長になるためにはね、人望、評価以前に強さが問われるんだ。直訳すれば、ボクは学園最強だという事さ。生徒間だけじゃなく、教師を差し置いてだ。これでいいかい?」

「……なるほど。良く分かりましたよ。ボクはこれで失礼します」

「え、帰っちゃうの?」


 神楽の驚いたような制止を聞かず、冬弥は部屋を出て行った。すかさず美夏が詫びを入れる。


「すいません。昔から、変なとこでわがままな奴で……」

「ああ、良いよ。言うべきことは言ったから。彼も、それをわかってのことだろう」

「……神楽先輩。質問いいですか」


 割り込んだのは瞬だった。複雑な表情を浮かべ、尋ねる。


「図書室に居たのは、そのジーニアスさんだけなんですか。他に誰かいませんでした?」

「……居るというのかい?」

「確証はないですけど、もしかしたらウチのクラスの佐伯って奴が……」

「佐伯? 一年E組四番の佐伯康太、だよね。何故そう思うの?」

「いや、ちょっといろいろあって。もしかしたら、図書室にいたかもしれないってだけです」


 神楽は右手で顎を持ち、しばらく考え込んだ。そして、息を吐くと美夏に向かって告げた。


「須藤さん。少し、席を外してくれないか?」

「え? 何でですか?」

「あまり人に聞かれたくない話をするからだ。とりあえず、出ていってくれないかな」

「……分かりました」


 完全には承諾してないが、美夏は首をかしげながらも退室した。瞬と神楽の二人だけが取り残される形になって、神楽は抑えた声でとんでもないことを口走った。


「これから言う事は、超極秘事項……トップシークレットだ。他言無用で頼むよ。佐伯康太――彼は王族だ。もっとも、ほんのちょっとしか血を引き継いでないけどね」

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