入学
およそ数百年前、世界は主に四つの地域へ分けられ、戦乱の時代を迎えた。そしてそれと同時に、人類はとある進化を遂げた。
それは如何なる科学をもってしても、どれほどの金を使おうとも成しえなかった力。
超能力。
防衛本能か闘争本能か。それは定かではないが、人類は異能の力を手に入れた。まるでファンタジーの世界に出てくるような、途轍もない力を手にしてしまったのだ。
それに加え、各地でいくつもの迷宮が発見される。とある国の調査隊がその迷宮を調べてみたところ、とんでもないことが起こった。調査隊の一人が、迷宮の最奥へ眠っていた指輪を身につけたところ、後天的に超能力と等しいほどの力を得たのだ。
世界に激震が走った。
より強い能力者を手に入れることが出来れば、この戦乱の世で覇権を握れる。超能力者が、世界を左右すると言っても過言ではなかった。世界中で迷宮を攻略せんとする者が現れた。富を名声を力を手に入れるために。
俗に『パイオニア』と呼ばれる者たちである。
何はともかく、忘れてはならないことがあった。時間が過ぎれば、新たな世代の超能力者も誕生するのだから、必然的に教育機関が必要となるのだ。各国で超能力者育成機関――否、人間兵器製造工場が開校した。
その中の一つ、『王立極東超能力者育成学園』。通称キョクトー。この学園に、今年も新入生が入学してくる。一年に生まれてくる先天的な超能力者は約百人。そこから戦闘に使えそうな能力者が六十人ほど。プラス、後天的な能力者――パイオニアが五十名ほど。
そこからさらに試験を行い、上位五十名のみが入学を許される。そして、三年間のカリキュラムを終え、戦場への投入可能と判断されたごく少数が、国家直属の超能力者へとなることが出来る。
桐嶋瞬、須藤美夏、東雲冬弥の三人もそんな可能性を秘めた第三百九十五期生。
「えーと、確か一クラス十人で、成績上位からABCDE組に分けられるんだよな。冬弥」
「そうだよ。それがどうかしたの?」
「いや、お前の入試の順位一位だろ。そんで美夏、お前が……」
「わたしが六位ね」
「そう、そして俺が……四十九位」
瞬は横を向き二人と眼を合わせ、言った。
「俺達、一緒に勉強とかしたよな。勉強量はほとんど同じだよな」
「うんそうだね」
美夏が冷静に返す。冬弥も後ろで相槌を打っている。瞬は冷静に深呼吸をする。が無駄だった。次の瞬間には叫んでいた。
「じゃあこの差はなんなんだよおおお!!」
「バカ。でかい声出すな。注目の的だぞ」
「でもおかしいだろ! 何でお前らはそんなにいい点数とって、俺はクソみたいな順位なんだ!」
「入学できただけいいじゃないか。考えてもみろ。入学さえできなかった奴が何十人いると思っているんだ」
瞬は思わず押し黙った。彼の言うとおり、入学することが出なかったものは、合格者以上に居るのだから。順位がどうのこうので騒いでいられるだけ、まだ増しな部類だった。
美夏がため息を吐いた。手をパンと叩き、言う。
「この話はおしまい。早く教室に行くよ。瞬、幼馴染として言っとくけど、あんまり問題は起こさないようにね。下手すりゃ退学、なんてことにもなりかねないんだから」
「っるさいな。分かってるよ。今に見てろよ。絶対に抜いて見せるからな」
瞬は歩き出し、E組の教室へ向かった。縦二行、横五行の配置で席が置かれている。既に何人かはいるようで、数えてみると四人の生徒が個人個人で行動している。
席は決まっていないらしいので、窓際の席を選び腰を下ろした。ちらりと時計を除くと、あと数分猶予があった。残りの五人も、次期に現れるだろう。そう考え、何をしようかなどと考えていた時だった。
「おや、まだ全員そろっていないとは。全く……まあいいですが」
あちこち跳ねている茶色の髪の毛。スーツを着こなしてはいるが、どことなくダルそうな雰囲気を醸し出している。明らかに生徒の年齢ではない。ということはこの男が教師なのだろう。
男は腕時計を確認し、呟いた。
「十時三分。集合時間は八時四十五分でしたね。この時計は八十三分ずれているから、残り五分ですか。おや、また一人来ましたね。後、四人」
その後も、生徒はやってくる。駆けこんでくるもの、ゆっくりと歩く者、様々だ。全部で九人が席に着いたところで、チャイムが鳴り響いた。
「時間になりましたし、始めましょう。一人遅刻しているようですが、仕方ありません。まずは、自己紹介から始めましょうか。能力名などは、言わなくても構いません」
男は大昔から変わっていないチョークを手に取り、黒板に書き始めた。
「私は花笠司郎。言わなくても分かると思いますが、君たちの担任です。では次……」
花笠が次の生徒を指名し、その生徒が名乗りを上げる。その繰り返しで、最後の瞬も当たり障りのないような自己紹介をした。
これで自己紹介タイムは終わり、と思いきやそうはいかなかった。勢いよく戸が開き、転がり込むように十人目の生徒が現れたからだ。
「お、遅れてすいません! えっと、道に迷っちゃって……あ、わたし茅ヶ崎琴音って言います! 能力は……確か……そう《異能封じ(スキルマインド)》です!」
「茅ヶ崎琴音……ああ、五十位の。遅刻したことは減点対象ですが、まあ今は良いです。早く席に着きなさい」
彼女は空いている席――瞬の隣へ座った。
「……さて、気を取り直して学園初日のメインイベント。能力審査へ行きましょうか」