俺とメリーさんとワンルーム
それは唐突にやってきた。
やってきた?違う。正確には掛かって来たと言ったほうが正しいのかもしれない。
「ただいま~。」
午後11時半、俺は自宅へと帰ってきた。入社して6年、この不況の中やっとの思いで入社したこの会社。昔夢見ていた職業には結局就けず、俺は普通のサラリーマンとなってしまった。最初は色々学ぶ事があったものの、今は外回りなんか普通の事であり俺の日常となっていた。先程ただいまと言ったが、別に誰かがお帰りと言う訳でもない。昔からの癖でそう言っているだけである。今年で26歳。26歳にして独り身であり、このワンルームで生活している俺を、よく両親は「いつになったら結婚するんだか。ついこの前なんか隣りの山田さん家の娘さん結婚したらしいわよ。」なんて、実家に帰ってきた俺に1日に3回以上言っている。
「はぁ、・・・疲れた。」
今日はいつもより2件多い8件の会社を回り、その後は自社で残業である。いつもなら6件外回りが終わると一旦会社に帰って、それから退社となる。しかし、今日は外回りしている同僚が休み(正確には家族旅行だとか)でその分が俺に回ってきたのである。
「旅行か・・・。羨ましいな。」
などといってもただ虚しくなるだけである。
「さてと夕飯食って、風呂に入って寝るか。」
そう言うと俺は早速夕飯の支度に取り掛かった。
飯を喰い、風呂に入ると時刻は2時になろうとしていた。
「さてそろそろ寝るか。」
俺はタブレットケータイで見ていた新聞のアプリを消すと、布団の中に入った。明日は9時出勤のため、いつもより長く寝ることができる。
「それじゃおやすみ~。」
俺は一人で呟くと、夢の中へと落ちていった。
と思ったらいきなり携帯が鳴った。
「なんだよ。」
少しイラっときたものの、仕事とかの事となると大変な為仕方なく出る事にした。
「はい、もしもし。吉野です。」
「もしもし、私メリーさん。今日あなたの家に泊めて欲しいんだけど。」
「・・・は?」
突如掛かってきた電話に俺は動揺した。
「もしもーし、聞こえてる?今日、あなたの家に、止めて欲しいんだけどー。」
半分意識が飛んでいた俺はその声でハッと意識を取り戻した。
「あ、あぁ。えぇっとどちらさんですか?」
「だーかーら、私、メリーさん!今日、あなたの、家に、泊めて欲しいんだけど!」
何やらご立腹のようであった。なんでだろう?
「あぁ、はいはい分かりました分かりました!」
「本当!?んじゃ、北原駅の西口で待ってるから、お迎え宜しくね~。」
ブツッ、ツーッ、ツーッ
俺はしばし呆然としていた。いきなり電話から少女の声が聞こえてかと思うと、いきなり泊めろと言われるのである。俺が思うに、この世の中でいきなり電話が掛かってきて少女の声でしかも深夜2時に泊めろと言われて冷静でいる奴はいないであろう。
「あれ、なんか俺OK出した感じになってない?」
そしてしばらくの間俺は慌てふためいた事を後悔するのであった。
取り敢えず、俺は北原駅の西口へと来た都市のベットタウンの為駅周りは少し開発されているものの、深夜2時ともなると歩いているのはホームレスのおっちゃん位である。俺は駅の入口で女の子の姿(俺の予想)を探した。がなかなか見つからない。
「なんだよ、いたずら電話か?全く無駄な時間過ごしちゃったな。」
俺は来た道を帰ろうとすると、電話が鳴った。
「はいもしもし?」
「もしもし?私メリーさん。今あなたの後ろにいるの。」
びっくりした俺は一瞬振り向こうとしたが、メリーさんの都市伝説を思い出した為、すぐ前を向いた。
「全く、何分待たせる気ですか?こんな寒空の下、乙女を待たせるなんて男として恥ずかしくないんですか?」
「はぁ、それは、すみません。」
確かに11月となれば外は寒い。
メリーさんはやはりご立腹のようだ。てか、殺される様な雰囲気じゃない気がするのは俺だけだろうか・・・
「それじゃ、帰りにコンビニで濃とろビックプリン買ってくれたら許してあげる。」
半ば子供のようなおねだりをされたが、都市伝説のメリーさんだ。下手して機嫌損ねたら呪い殺されるかもしれない。俺は渋々そのおねだりを叶えてやった。
家に着くと今度はお腹が空いたと言うのでシチューを作った。調理中もメリーさんは俺の後ろで電話越しに「まだかな、まだかな」とそわそわしていた。
シチューができると俺はそれと、帰りに買ってきた濃とろビックプリン(税込168円)を食卓に並べた。
「そいえば、メリーさんどうやってコレ食うんだ?」
ふと思った俺はメリーさんに聞いた。するとメリーさんは「フフン。」と鼻を鳴らすとこう言った。
「君がイスの後ろに立てばいいんだよ。」
さて、世の中でイスに背を向けて立って、そのイスに座っている人に話しかけた事がある人は、一体何人いるだろうか?多分ごく少数であろう。取り敢えず俺はそんな格好でメリーさんに話し掛けていた。
「それで、君は誰だい?」
「だから、フーフー、はむ、わたひは、メリーひゃん、モグモグ、ゴクン。」
「食べてから言いなさい。」
その後、俺はメリーさんが食べ終えるのをを待って再度質問した。
「なんでいきなり泊めろなんて電話したんだ?普通ホテルとか取るだろ?」
「お金無い。」
「なんで?」
「電車代、お昼代、お菓子代、ジュース代、お菓子代に消えた。」
「お菓子が2回出てきたが、つまり金欠?」
「うん。」
その後色々聞いた結果、メリーさんはある人を探してこの街に来たのは良いものの住所がわからず、あちこちを歩いている内にお腹が減り、お菓子を買ったりしているといつに間にか金がなくなり日も暮れて、路頭に迷っていたため適当に携帯の番号を押すと俺に通じた。最後の手綱だと思って泊めてくれるよう懇願すると、その人(俺)はすんなり受け入れてくれた。ということだった。
「それで、その探してる人はなんて名前の人?もし知っている人なら教えてあげるけど。」
「ほ、本当に!?」
「あぁ、もちろんさ。」
はやくこのめんどくさいのその人に押し付けたいからな。
「うーんとねー、確か名前は・・・」
「名前は?」
「吉野 健一郎」
「・・・・・。」
俺は唖然とした。なぜなら・・・
「?、どうしたの?」
「それ・・・俺だよ・・・」
吉野 健一郎という人は俺のことであった。
「いや~びっくりだよ。まさか適当に電話した相手が探していた人だなんて。」
「ああ、俺もびっくりだ。」
「あははは。あ、後ろに携帯落としたよ。」
「いや、携帯は部屋に置いてきたから。」
「・・・・・・・。」
先程メリーさんは探している人が俺だと知ると、今まで隠していた殺気を全開にして俺の後ろに付いてくる様になった。そのため彼女は俺を振り向かせようと必死である。
「あ、小銭がうしr」
「小銭はポケットに入れてない。」
「・・・・・・・。」
さっきからこのような会話ばかりである。
「さてとそろそろ寝るか。」
「ふーん。んじゃ、おやすみ~」
メリーさんがそう言うとさっきまで感じていた殺気がなくなった。後ろが見れない為分からないが、どっかに行ったっぽい。案外あっさり退散するもんだなと思いつつ「はぁ。」と大きな溜息を着くと俺は布団へと入っていった。
「んじゃ、おやすみ。」
いつもの癖で呟くと、耳元で
「おやすみ~」
とメリーさんが言った。
「・・・・・・・。」
どうやら今日は寝返りが打てないらしい。
こんにちは天都奈です。
今回は新しく萌えメリーさん本です。
あまり長くは続きません。感想や気付いた点がありましたらコメントをお願いします。