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罪人たちの宴  作者: 空々
2/7

始まりの朝

 「んっ」

暑いとしか言いようがない日差しを浴びて目を覚ます。

「また、この夢か……。」

最近、毎日のようにこの夢を見る。

 まるで、決断の時が迫っている事を、伝えるかのように。

「分かってるさ。もう、逃げられないことぐらい」

 これがただの夢に夢でないことは、イヤというほど知っている。

 なぜならこれは、自身が望み、あの場所にたった時の記憶だから。

 あの日、少女の言葉を聞いた時から三年がたつ。

 少女が力をくれたのか、それともくれなかったのか。すべては今日ハッキリするはずだ。

 コンッコンッ。

「やばっ、準備してねっ」

突然の来客に焦りながら、自分の状況を確認した。寝起きでぼーっとする頭を回して今日必要なものを思い出す。

「九重雄里、出発するぞ。」

厳つい声に顔を向けると、雄里はいつのまにか部屋に入ってきていたオッサンと目があった。 

 「勝手に入るな。それと、まだ準備に時間がかかるから先に行っててくれ。」

 せめてこいつが美少女ならば……。とくだらない想像をしながら言う。

 二メートル近くある大柄な体躯は、そこにいるだけでも結構な迫力がある。それに彼とは初対面だ。迎えがくることは知っていたがこんなオッサンだとは思わなかった。

「ノックはした。ならば、遅れないようにしろ。」

「わかってる。」

オッサンが部屋を出て行くのを見送ってから、雄里は学校に行く準備をはじめた。

そう、今日から学校にいかなければいけない。というより今日が入学式だ。

 「契約、か……。」

世界中にエクセル、と呼ばれるものがうまれて100年がたった。

 うまれて、といっても別にそれそのものが存在するワケではない。 

 創造し、振るう力。その異能の総称、および使い手をエクセルと呼ぶ。

 エクセルの武器、『ヴァイス』

 武器を創る者、『マイスター』

 武器を振るう者、『クライマー』 

 この三つがそろってはじめて、エクセルは成立する。

いまだ謎の多い力。それ故に強大で人の身に余るのも確かだ。

 その強大さのせいか、エクセルは一人で扱うことができない。。

よって、エクセルは必然的に二人組で行動することになり、それを便宜上『契約』と呼ぶ。

そして、その契約相手を選ぶ儀式が今日おこなわれる。

 この儀式は『選別』と呼ばれる。

 簡単にいうならば『マイスター』が、自分が創り出す『ヴァイス』の性能を臨界まで引き出してくれる『クライマー』を見つけて『契約』をする。という単純なものだ。

ただし、そこに『クライマー』の意志は関係ない。

 『クライマー』から申し込むことも、拒否権さえ与えられていない。

創造の力が先天的なのに対し、振るう力はは後天的なものであること。またその発生条件を鑑みれば当然かもしれない。

「よしっ、とりあえず行くか」

準備を終え、今日の予定を思い出しながら家を後にする。

『クライマー』である自分にできることは、ただ選ばれること。それがエクセルとして自分にできる最大の仕事だった。



「え~、新入生の皆様におかれましては………」

長い。今は入学式真っ最中なのだが、学園長の祝辞だけでもう一時間以上たっている。真面目に話を聞いている生徒など数人しかおらず、ほとんどが隣の生徒と雑談している始末だ。

「では皆さん、がんばってください」

ようやく祝辞が終わり、一帯がある種の開放感を感じているとき、

「静かにしてくださ~い!」

聞こえてきた声に、皆は一様に壇上を見た。

 「これより『選別』を始めまぁす。相手が決まっているか、すでにいる人は帰ってもらって構いません」

いきなり説明を始めた教員を、誰も咎めようとはしない。なぜならこの場に彼女を知らない人間はいないかだ。

百七十センチ以上ある身長。

 余計な精肉など皆無だというのに、大人の魅力をそこなはない抜群のプロポーション。

 長く、そして緩くウェーブした髪の間からのぞくのは戦士にはほど遠い妖艶な眼差し。

 見る人すべてを飲み込むような威圧感。

 すべての要素が彼女という存在を物語っていた。

 西條カンナ。それが彼女の名前であり、最強の証でもあった。

世界で唯一のエクセル育成校、白鞘学園。 当然彼女もここでエクセルについて学び、八年前に卒業している。

 それ以来、彼女を上回る人材は神祖を除いて一人もいないとされていた。

 新入生の三分の一ほどが抜けたところで、再び西條が指示をだす。

「そろいましたね~。では『選別』開始」

指示とともに皆が一斉に行動を開始する。といっても動くのは選ぶ側の人間である『マイスター』だけである。選ばれる側の『クライマー』は、ただ『契約』してくれるひとが現れるのを祈っているだけだ。

雄里もそのひとりとして、ただただ祈っていた。

 特に説明もないまま始まった『選別』だがいっこうに『契約』をする気配はない。

 手順は簡単なものだ。

 互いの手を重ねあわせて、『契約の言霊』をつぶやく。たったそれだけで『契約』は完成する。

しかし、始めないのも無理はない。

 理由は簡単で、一度交わした『契約』は原則的に解除できないからだ。これから数十年と生きていくなかで絶対に切ることのできない絆、それがエクセルの『契約』だ。

ルックスや財力、戦闘能力など選ぶ基準には事欠かないが、一生を左右するとなれば慎重になるのも当然である。

「まあ、こうなるのも想定内かぁ……」

なかなか進まない『選別』にしびれをきらしたように西條がつぶやく。

「皆さん聞いてくださ~い! これより行う『契約』は仮のものになりまぁす」

 しかたない。西條はそう言いたそうな表情のまま新たな指示を出した。

仮契約とはいわばとりあえずの『契約』だ。 本来は、『契約』をせずに『ヴァイス』を使いたいとき。簡単に言えば、個人で任務をこなす際に使う緊急処置だ。一つの任務につき一人と仮契約し、任務終了と同時に、解散する。

 もっとも、仮契約だけしかしない『エクセル』も少なからず存在している。

 だが、まれにこういう場。つまり『契約』の際どういう相手選べばいいのか分からない人へのお試し期間として使われることもある。

「今日はとにかく契約相手を見つけることに専念してください~。仮契約の期間については、後日連絡します」

西條の言葉に一人、また一人と『契約』を交わす者たちが現れ始めた。

『契約』によって発する光が、ホールに神秘的な光景を作り出す。

 その光の中で、雄里はいまだ祈り続けていた。



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