第04章「王者の案内」
夜。高宮 千鶴は襲撃を受けていた。
……ま、襲撃されるのは珍しい事じゃないがね。
『生徒会長』の座にいつまでもいるのが不満でしょうがない者たちの襲撃だったが、そんなものはお遊びだと千鶴は思う。
……まあ、そのたびに連中が痛い目を見ることになるのだが。
夜闇の中を一つの影が駆ける。『魔法の弾丸』の使い手、白羽 秋時の銃口から弾丸が乱射された。適当に撃たれたように思えたそれは、しかし全弾命中する。
……あの相手にとっては痛手だろうな。
「秋時、私が仕掛ける」
「了解」
その射撃が止んで始まるのは、さらなる悪夢だった。姉の鶫が使う『傲慢狩りの合成獣』は弟の射撃よりも遥かに恐ろしい力である。
……鶫の攻撃は痛手などでは済まない、純粋な力による圧倒的な暴力だからな。
もちろん鶫たちは本気など出ずはずもないが、秋時が援護をするときもある。だが、今夜はその必要性も無いらしく、鶫一人で相手を壊滅的に追い込んでいた。それを見て、千鶴はあくびをする。
● ●
あくびをして退屈そうにする千鶴を、見つめる目があった。
……実際つまらないだろう。
千鶴はこういった襲撃など彼女は飽きるほど経験しているはずだった。だが、一度の油断は命取りになると、千鶴を見つめる少女は思っていた。
「……ッ!」
そして少女は、目を閉じて念を込める。
……あの会長の影を――
少女は影を操る能力者だった。今ならば気付かれないと、狙いを定める。影がゆっくりと持ち上がり、襲いかかろうとした。が、その瞬間に影は見えない壁に阻まれるように弾かれた。
「……え?」
……何?失敗!?
慌てて目を開き、状況を確認しようとするが、目の前には標的にしていたはずの人物が笑顔で立っていた。
「なっ……!」
「やあ、今回もつまらない見世物をありがとう。できれば最初から来ないでくれるとありがたいんだがね。時間の無駄だが、つい相手をしてしまう」
「時間の無駄とは何ですか!」
思わず言い返した。だが、返事は何もない。
「そういうことは周りを見てから言うものだね?」
慌てて周りを確認する。だが、味方は一人残らず気絶させられていた。
「まさか……」
「そうだ。キミの他にも十人ほど暗殺部隊がいたみたいだけど、少なかったんじゃないかね?」
クスリと笑いながら、大げさに手を振り話すそのわざとらしい姿に、少女はイライラした。しかし、相手のペースに嵌まっていると思い直すと、出来る限り冷静に問いかける。
「あ、あなた一人で、やったというのですか」
「私の能力くらい知ってるだろう?」
……そうだ。この女は史上最強最悪の能力者。
その気になれば、こちらの全軍さえ相手に出来てしまうのだ。
「でも、あなたの能力は知覚できなければ届かないはず……」
「ああ、確かにそう言ってある。それは間違いない事実だよ」
「ならなぜ暗殺部隊まで――」
その言葉は、途中で遮られた。一瞬の間に距離を詰められ、その顔が目の前に迫る。
「考えろ。考えない人間は獣だ、そしてよく考えない人間は馬鹿だ。さて、キミはどっちだ?」
「あ……え……」
……能力だけじゃない、根本から強さが違う。
目の前の圧倒的な存在感に対して、少女は一瞬、息をすることさえ忘れてしまっていた。
「ま、考えれば当たり前の事だよ。こんな能力を持っていて、知覚が常人並みのはずがない。どう?分かりやすい答えだろう?」
「そ……そんなのずるい気がします」
思わず言い返したが、頭はまともに回らず駄々をこねる子供のようだと思う。
「ずるいと言われてもね……で、雇い主は誰?」
「それは言えません」
「今の流れなら、言ってくれてもよかったんじゃないかね?ま、見当はついてるが」
そう言ってクスリと笑う千鶴は、まるで幼い少女のように楽しそうだった。
「千鶴。遊んでないでそろそろ帰るぞ」
その声と共に後ろから副会長の鶫が顔を出す。
「鶫。この子、連れて帰っていいかな?いろいろと聞き出したい」
「本当にそれだけか?」
「ああ。ちょっとかわいいから、なんて思ってない」
「千鶴。本音がだだ漏れだ」
そんな会話を聞きながら、少女はいろんな疲労がごちゃ混ぜになって意識を失った。