表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

第15章「暗闇の罠」

 鶫は空を駆け抜けていく。その眼下には暗闇があった。どうやら、こちらの知覚を完全に遮断しているようだ。あの千鶴でさえ中が分からないのだ。

 ……ここは、飛び込むしかないか。

 覚悟を決めると、降下した。視界を闇が黒く染めていく。

 ……これは――

 鶫は突然、視覚がおかしくなるのを感じた。とっさに下がることも出来ず、出来たのはその場に着地することだけだった。

「なんだ、これは!?」

 闇に包まれた鶫は混乱していた。右、左、上、下。全ての方向が認識できなくなっていた。

 頭では、後ろに下がればこの闇から出られると理解している。しかし、後ろという方向が認識できないために、一歩も動けずにいた。

 ……落ち着け。後ろに下がるだけならば……

 まず、目を閉じた。今、視覚で認識できるものは混乱を招くだけだ。そのまま、摺り足で後ろに下がって行く。ゆっくりとした速度ではあったが、確実に脱出に近づいてはいた。

 ……このまま行けば……!

 だが、当然それを邪魔する者がいた。

 ……殺気!?

 どの方向から来るか分からない攻撃に備えた。時間がゆっくり流れるような気がする。

「そこかッ――!」

 鶫の防御は、何とか間に合った。攻撃は爆発だったのは言わずもがなだが、吹き飛ばされたことで、完全に方向が分からなくなっていた。

「くっ……」

 どこに動けばいいのか分からない。それは恐怖だ。言い様のない恐怖が体を支配した。目は開いているのだが、そこから入ってくる情報は脳で処理できないものになっている。

 ……マズいな

 このままでは立っていることさえ出来なくなる。上下さえ視覚では認識出来ない状態で、なお立っていられるのは、かろうじて足の裏に地面の感覚があるからだ。

 次の攻撃が来れば危ないのは十分分かっている。早くここから脱出したいところだが……

 ……ん?

 その時だった。唐突に、何かが通り過ぎる音が聞こえた。

「音……?」

 そして鶫はこの闇の中でも、自分の聴覚がまだ使えることに気が付いた。普段通りとはいかないが、微かに音は聞こえる。完全に使えないのは視覚だけのようだ。

 ……だからさっきの爆発を躱せたのか。

 そしてこの音はおそらく――

「秋時の弾丸か!」

 そう結論付け、音のする方へと自分の耳を頼りに飛んだ。

 途中で弾丸が一発、体を掠めた。が、それで自分の推測が間違いでなかったことを知ると、一気に羽ばたく。そして――鶫は光の元へと脱出した。


                    ●          ●


 秋時は鶫を信じて射撃を続けていたが、その姿が見えたので少し安心した。

「一時はどうなるかと思ったな」

 鶫が暗闇に入った後は、その存在まで知覚出来なくなっていたが――

 ……そのせいで能力まで使えなくなったときは、流石に焦った。

 いや、あの時のことを言うなら、使えはするが、役に立たなくなったと言う方が正しい。たとえ弾道を操れる『魔法の弾丸』とて、的が知覚できなれば無用の長物だ。

 ……最終的に射撃を続けることで、姉さんを外へと誘導した訳だが。

 しかし、目の前の状況はあまり安心出来るものではなくなっていた。

「ここで奇襲か!」

 思わず声を荒げる。暗闇から十和と九恩が鶫に襲いかかろうとしていた。

「くッ!」

 言葉にしない形で銃の名前を呼ぶ。と、手元の拳銃『アルテミス』が素早く虚空に消え、別の銃が現れた。短機関銃『ルナ』だ。

 ……いくぞ!

 引き金を引くと同時に大量の弾がばら撒かれる。しかし、『魔法の弾丸(マジック・バレット)』が発動した。

「――っ!」

 たとえ全ての弾丸の軌道を操れるとしても、連射しているならば全てを当てるのは困難だ。故に、大きく外れた弾丸のみを操るのだが、それでも尋常ではない集中が必要となる。

「「……!」」

 それでも、集中しただけの価値はあった。集められた弾丸は一瞬で十和を撃ち抜く。

 ……次!

 左右に敵がいる以上、中央の鶫は上手くすり抜けなければならない、弾を当てないように全て逸らしつつ、しかし連射を持続させた。

 ……おおおおお!

 最後の一瞬に極限の集中を叩き込み、九恩を蜂の巣にした。

「はぁ……はぁ……」

 一瞬に全力を注いだ分、秋時は息を切らせて倒れる寸前のような状態だった。

「これで、つまらん奇襲は防いだぞ!」

 しかし、力の限り叫んだ。と、その声に答えるものがあった。

「どうかな」

 その一声と共に、次なる罠が展開したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ