第14章「月光の射手」
鶫は舞上がり、宣言通りに相手を叩き潰そうとした。しかし、黒い光がそれを邪魔した。
「まさか、爆発……ってそれはもう飽きた!」
羽ばたくと一気に連続で起きる爆発を回避した。だが、その先に居た相手は、今まで見ていない武器を持っていた。
「黒い……剣と槍っ!?」
十和が剣を、九恩が槍を、それぞれ装備していた。
……真っ黒な武器なんて、嫌な予感しかしないな……!
鶫は、両側から武器が来るのに合わせ、半身をずらすように宙返りすることでそれを躱す。
「ッ――!」
左右から来た剣と槍が交差する――その中心を背面跳びの選手のように、すり抜けて行った。
宙返りが完了しかかったところで、武器が交差するところを空中で蹴って距離をとる。
……相手は空中で制動が取れない。悪いがここは――
鶫は左に大きく回り込み、素早く相手の後ろ側を強襲した。
「私の、独壇場だッ!」
反応が遅れた相手に爪を叩き込むと、しかし鶫はすぐに羽ばたいた。言いようもない殺気を感じたからだ。
「オォォッ――!」
直後、相手の体を貫いて剣が顔を出す。そして、続けて爆発が起きる。
……死なない体を利用して、味方を囮にする戦術か?
鶫はまだ、戦場を冷静に分析していた。とりあえず、あの剣は攻撃すると爆発するらしい。だが、あのメイド達の武器ではない。あの二人はナイフと銃しか持っていなかったはずだ。
と、そこで鶫の考えを邪魔するように連続爆発が再び展開した。
「ええい、鬱陶しい……」
……所詮目くらましか。
だが、鬱陶しいと思うなら、目的は果たしているのだろう。この爆発も小規模な物ばかりで、とてもこちらを倒す気など感じられない。
「ハァッ――!」
鶫は気合いと共に翼を展開すると、一気に爆風を吹き飛ばし、敵の状況を確認した。九恩は先程の攻撃のダメージか、後方で動けなくなっていた。
そこに、正面から十和が斬りかかってくる。だが、相手の斬撃をギリギリまで引き付けてから、翼を一度打ち鳴らして後ろに下がり、鶫はそれをあっさりと避けた。そして再び羽ばたくと前進に転じ、正面に十和を捉えた。
「くだらん。人形ごときが空中戦では百年経とうが、この私には勝てないと知れ!」
そして十和に爪痕を刻む。さらに蹴りを加えて後方へと吹き飛ばした。方向は調整してあったので、そのまま九恩にも当たるはずだ。これで二人共片付いた。と、そこで気が付く。
……九恩が動けなかったのは、秋時の援護か。
飛んでいく十和を見送る際に、九恩が撃ち抜かれるのが見えた。先程の一撃だけでは足りなかったのではと思っていた鶫だが、納得した。
「ようやく本命か……」
鶫は広がる暗闇を見つめた。しかし、
……さっきから爆発ばかり――本当に爆破魔だったな。
そう思うと、少し気分が重くなった。
● ●
秋時は拳銃『アルテミス』を構えながら思っていた。
……姉さんは無茶しすぎじゃないだろうか。
最近、姉は仕事ばかりだ。俺もフォローはしているが、それでも忙しい。それに戦闘も増えている。
「全く、昔から無理しすぎなんだよな」
秋時は『魔法の弾丸』を使いながら考える。これは射撃・投擲武器の軌道を自由に操る力であり。つまりは支援用の能力だ。『アルテミス』も能力の一部であり、いつでも呼び出せる。
……しかしそれでも、姉さんの助けになってるのかどうか――
「またくだらん考えをしているな、秋時」
と、千鶴がやって来た。
「何だ、アンタか」
「千鶴様と敬えない辺りに、いきなり図星を指されたお前の心境が見え隠れしているぞ」
……アンタはいきなり出てきてウザったいな、本当に。
「どうせまた姉の心配でもしていたのだろう?」
「――っ!」
「お前が姉を大事にしているなど、誰にでも分かる。まして、私は鶫が好きなのだぞ?」
……全く、この人は。
秋時は思わず笑ってしまう。笑うしかないほど、千鶴はいつも通り自信満々だった。
「分かったよ。分かったから、アンタは前に出てくんなって言ってるだろ、千鶴様」
「前に出ているのではないさ。前線が押し上げられたから、それに合わせて後ろも前進しただけだ。置いていかれないようにね」
「屁理屈をこねるな。退屈だっただけだろ」
「そうとも言う」
自信満々に笑う千鶴に、秋時のツッコみが打撃で入った。