第13章「白羽の戦端」
鶫は目の前に暗闇が広がるのを見て、一つの判断をした。
……ここは私が戦うべきだ。
「千鶴、敵は三、こちらも三だ」
「数ではそうだな」
「いつものフォーメーションで行こう。私が前に出る。秋時、援護してくれ」
「了解だ、姉さん」
「待て。私に後ろに下がれと?」
……ま、素直に聞くわけがないか。
「ハッキリ言おう。相手も流石に馬鹿じゃない。何か切り札を隠してるはずだ」
「そんなもの、私の力の敵ではない」
千鶴はやはり簡単に引き下がらないようだった。しかし、鶫は目を見てはっきりと言った。
「だからこそ、私が前に出る」
「……なるほど」
……分かってくれたか。
「ん?いいのかよ?」
「仕方ない、私たちの間のやり取りが理解できない秋時に、特別に説明してやろう」
「相変わらずムカつく言い方だな。早くしろ」
「私の力は距離など問題にならないから、鶫はそれを信頼して罠に飛び込むということだ」
「いつものフォーメーションじゃねぇか」
秋時のツッコみに、鶫が口を挟んだ。
「私は初めにそう言っただろう」
「あー、確かに姉さんはそう言ったが。いや今のツッコみはそうじゃなくてな……」
「ゴタゴタ言ってないでさっさと行くぞ」
「はいはい」
鶫の言葉に、秋時は不満そうにしながらも従う。
「まずは、敵の頭数を減らす」
「相手は死なないんじゃなかったのか?」
「ああ、だから――」
鶫はニヤリと笑った。目付きはすでに獲物を狩るものとなっていたので、凄絶な笑みだ。
「ここは力押しだ」
言うが早いか、鶫は既に羽ばたいていた。前方では、十和と九恩が身構えている。
……そうだ。今の私には、容赦も慈悲もない。
「そこのメイド共、叩き潰すぞ」
宣言すると、鶫は舞い上がる。
● ●
「フッ。鶫はいつになくノリノリだな!」
後方で騒ぐ千鶴に対し、秋時が冷静にツッコむ。
「いや、ノリノリなのは確かだが――ちょっとは止めろよ。千鶴様」
「断る。私は見ていて楽しいのでね!」
……そりゃ、アンタはそうだろうけどさ。
「相変わらず、そういうとこは駄目だなアンタは。まあアンタに期待した俺が馬鹿だった」
そう言うと、秋時はどこからか銃を取り出す。それは拳銃だった。
『アルテミス』。狩猟を司る女神の名前であり、銃としても加護が付いてるものだ。それと、アルテミスは月の女神でもある。
「――姉貴の援護は俺がする」
「フッ、お前の事も信頼しているのだぞ。馬鹿だがな」
「馬鹿にしたいのか、誉めたいのかどっちだ」
秋時は安定しないと言われた事を思い出した。だが、千鶴も似たようなものだと思う。
……ま、千鶴様はわざとやってるんだろうが。
「自分で馬鹿だと言ったから、それに合わせてやっただけだ」
「そうかい、そりゃどうも。千鶴様」
銃を構えながら応答する秋時に、千鶴が突然ムッとした表情で言った。
「その千鶴様と言う呼び方、様付けの癖にどうも言い方が投げ遣りではないか?」
……意外だな、千鶴様でもそんなことを気にするのか。
だからこそ、秋時は正直に答えた。
「そうか?これでも敬意を持って呼んでるんだがな」
これは本心だ。でなければ、千鶴様の無茶な要求に毎回応えることもないし、こうして内心まで様付けで呼んだりはしない。
と、そこまで考えてから秋時は苦笑した。
……いつも本当に無茶ばかりだもんな。でも――
「む?そうか」
こちらの言葉に首を傾げる千鶴に答えた。
「そうだ。アンタは姉貴の居場所なんだからな」
そこまで言うと、秋時は顔を背けた。
「そのくらいで照れているようでは、鶫の足元にも及ばんな」
「うるさい。アンタは予定通り後ろに下がってろ」
そこまで早口で言うと、秋時は射撃をしながら前に出て行った。