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第12章「戯れの夜」

 千鶴は笑みを崩さぬまま、倒れている九恩を見つめた。

 ……手足は砕いたはずだが、再生すればまたこちらに襲い掛かってくる、か。

 おまけに、九恩は手の近くに拳銃が落ちていることに気が付いているようだった。

「手の再生を優先。銃を回収後、再攻撃に移ります」

 呟き、言葉通りに実行してきた。手が動くようになると同時に銃を拾い上げ、射撃する。足の再生も進めているのが、千鶴には知覚できていた。

「無駄だよ、人形くん」

 と、千鶴は銃弾を弾いた。そして思う、

 ……人形にメイド服か、なかなかいい趣味だ。

 そう、人形は着飾らせて愛でるもの。そういう意味では――

「うむ、いい選択だな。その服は!」

 言葉に合わせて力を飛ばす。が、足の再生がギリギリ間に合った九恩は、かろうじて避けた。

「先ほどは出来損ないと言ったね。訂正しよう」

 だが、千鶴は余裕を崩さない。放たれる弾丸も悉く叩き落とす。だが、九恩は千鶴の斜め後方へと爆弾を放る。そして正面に拳銃を構えた。

「キミは最高の――人形だ」

 だが、爆発はごく小さな火球へと抑え込まれた。千鶴の力だ。同じタイミングで撃たれた銃弾も、全て千鶴へ届くことはなかった。

「残念だったね。私が一度に使える力は一方向だけではないのだよ」

 ……相手に何をしても無駄だ、残念だ、効かないと、私の力は否定ばかりだな。

 千鶴は微かに笑みを浮かべた。そして、そのまま九恩を捉える。その動きが完全に止まった。

「さて、人形遊びといこう。私は容赦ないよ?」

 ……しかし、この使い方は否定ではない。

「そうだとも。私は自分の可能性まで否定はしない!」

 と、九恩が直立姿勢になった。千鶴によって先ほどの水月同様、全身の動きを操られている。今は喋ること以外出来ない状態だ。

「な……」

「まず、人形の姿勢を正さなくてはね」

 次に九恩の服に隠されていた、拳銃とナイフが取り出される。

 ……ふむ、付属物は拳銃とナイフか。

「まずはナイフだな」

 九恩にナイフを飛ばし、右手に掴ませて肘を曲げると、左手を伸ばしてポーズを付ける。

「何をしているのですか!?」

「言っただろう、人形遊びだよ」

 と、九恩の体が宙に浮き、ポーズが変わる。

「写真にでも撮っておけると、良かったのだのだがな」

 今度は拳銃も掴ませ、着地させるとポーズを続けて変えた。

 ……なかなか楽しませてくれるな、この人形くんは。

「おい、なにやってんだ。千鶴様」

 後ろから、声と共に呆れる視線を感じた。

「秋時か」

「アンタは相変わらずだな、千鶴様」

「どうした秋時。活躍の場がないから出て来たのか?」

 ……ふむ。秋時が出しゃばってくるとは珍しい。

 千鶴は遊ぶのを止めた。九恩を壁面へ叩きつけ、転がっていた鉄パイプで串刺しにする。

「俺の出番がないのは、アンタが前線に居るからだ。大将なんだから後ろに下がってろ」

 そう言うと、秋時は千鶴を睨みつけた。が、

「全く、秋時も面白いやつだな」

 千鶴は、笑って返した。

「何が面白い」

「私を睨みながら私の心配をする。様付けで呼んでみたと思ったら、アンタと呼んでみる」

 そこで、秋時は小さく舌打ちした。

「だからアンタの前に出るのは嫌なんだよ。いつもこれだ」

「秋時がいつも安定しないからだろう」

 ……からかい甲斐のあるやつだ。

「目つきと口が悪いのは生まれつきだ。言われなくても分かってる」

「生まれつきなのは目つきだけだろう。それに、姉の口は悪くないが?」

 ……そう、鶫はいつも私に、厳しくも優しい言葉をかけてくれる。

「姉貴の口が悪くないって言うなら、アンタは深刻な病気だな」

「――ああ、確かに。恋の病、というやつだ」

「そいつは手遅れだ」

 秋時は呆れ顔で千鶴に言うと、自分の影に隠れていた人を見せた。

「で、ここにいる姉貴はどうする?」

「別にどうもしないよ。そこにいることは気付いていた」

 秋時は再び小さく舌打ちした。一方で、隠れていた鶫はいたって冷静だった。

 ……今までの話を聞いていたはずだが、流石は鶫だな。

「で、どうした?わざわざ来たってことは、何か言うことがあったんだろう?」

「ああ。なんだか敵が厄介でな。別に強くもないんだが、すぐ再生する」

「おや、そちらもか」

「そちらも?」

「ああ、そこに……」

 と、千鶴がそう言って振り向いた時だった。突然、足元で黒い光が輝き――

 ――爆発した。


                    ●          ●


 鶫は、突然起きた爆発に少し驚いた。しかし、千鶴がそばにいたので心配は一切していない。実際、爆発の煙が晴れて聞こえてきたのはいつもの千鶴の声だった。

「全く、この私に爆発などで挑もうとは……少し低俗ではないか?」

 ……本当にいつも通りだな。

 一応、相手にとっては奇襲のはずだ、と鶫は思う。だが、千鶴は変わらず言葉を続けた。

「しかし、目くらましに爆発とは。なんでも爆発させればいい、とか思ってる奴だな」

「相手としては、それなりにまともな攻撃なつもりだったんだと思うぞ」

「くだらん。つもりで攻撃が通じなければ、反撃であの世行きになるだけだ」

 ……それはもっともなんだが、千鶴は規格外だからなぁ。

「まあ、人形共が戦闘に対して役に立たず、それなのに認識遮断の暗闇が発生している時点で、誰かもう一人いるのは容易に予想が出来た。しかしそれが爆破魔とはな……」

「勝手に相手の考えまでを決めてやるなよ」

 ……確かに、この戦闘でのいきなり爆破は二度目のような気がするけどな。

「ふむ、では特別に名乗りの時間をやる。やあやあ我こそは……と出てくるがいい。その間は攻撃しないでやる」

「いつの時代だよ」

 と、暗闇が揺らぎ、その中から三つの影が姿を現した。

 ……本当に出てきちゃうのかよ。

 鶫の心の声など届くはずもなく、現れた三人は順に名乗っていった。

「こんばんは。紹介の機会をありがとう。俺の名は真八。一つよろしく」

「真八様に続きましてこんばんは。私は九恩。先ほどの方も、これからの方も、どうぞよろしくお願いします」

「九恩に続きましてこんばんは。私は十和。私たちは既に知って頂いた通り、死なぬ存在です。どうぞ覚悟の上、お楽しみを」

 ……あれ?十和って倒したよな?まあ死にはしなかったけど。

「というか、九恩と言ったか?キミは先ほど鉄パイプで壁に串刺しにしておいたはずだが?」

 ……ああ、千鶴がツッコんだ。

「ふん、その二人――正確には九恩の方を助けるために、さっきの爆発を使ったのさ」

 丁寧に真八が答える。だが、

「そうか。なら次は目くらましではなく、もっと捻った手を考えてくれたまえ」

 千鶴がバッサリと切り捨てた。

「くっ……」

 ……まあ、千鶴が相手じゃなぁ。

「あのなぁ、俺だって……」

「真八様」

「くっ……分かったよ」

 何かを言いかけた真八は、九恩というメイドに黙らせられることになってしまった。

 ……なんだか気まずい流れだな。

「しかしさっきの相手が死なないからって、鉄パイプで串刺しとは。千鶴も結構エグい事をするな」

 ……とっさに話題を変えたが、この話題でよかったのか!?

 鶫は自分自身にツッコむ。しかし、今さらどうにかなるものではなかった。

「では、鶫はどうしたのかね」

 ……流石は千鶴、容赦ないなぁ……!

 数秒前の自分の発言に激しく後悔すると同時に、千鶴が味方でよかったと思う。

「……百舌のはやにえのように、木の枝に」

「発想は同じだね」

「アンタら、自分たちの会話内容が、頭のおかしいもんだって分かってるか?」

「この会話がおかしいのなら、普段の会話など可笑しくて涙が出るね」

「そういう、よく分からん言葉遊びはしなくていい」

 一応、ツッコんでおく。

 ……正直、千鶴は普段から何を言っているか分かりづらい。

 自分は分かるが、それでいいというものではない。それにこれ以上遊ばれると、本格的に何を言ってるのか理解するのが面倒だ。

 ……私は通訳までやる気はないぞ。

「柄にもなく秋時が争いに明け暮れる我々を、部外者面で指摘してきたので言ってやっただけだよ。私とて平穏は愛おしい、と。そして、お前も同類なのを忘れるな、とね」

「アンタは相変わらず上から目線の上に、話が回りくどくて分かりづらい」

 秋時も当然、ツッコミをした。説明できるのだから、千鶴はわざとああいう話かたなのだ。

 ……そうだな、千鶴はもっと素直に話せばいいのに。

「別に秋時に理解は求めてないさ」

 ……って、私が分かればいいってことか?

 この考えが自意識過剰なのか、鶫は密かに葛藤していた。すると、

「で、肝心の俺たちが置いてきぼりなのも困るんだが?」

 真八が、しびれを切らして口を挟んできた。

「すまないね、別に忘れてはいない。きちんと応えるさ」

 千鶴はフフンと笑っていた。相手の緊張と対照的になるその表情だけで、場を支配する。

「生徒会長の高宮 千鶴だ。能力は公言しているが、『念動力』だ」

 鶫もそれに合わせた。こちらもいつも通り、冷静なままだ。

 ……いつだったか、私の態度を冷たい炎とか千鶴に言われたことがあったな。

 頭は冷静に冷え切っていて氷の様なのに、心は炎の様。確かに千鶴の言うとおりだと思う。

「副会長の白羽 鶫だ」

「おや、そちらの人の能力は聞けないのかな?」

 真八がつっかかってくる。が、

 ……止めておけばいいものを。

「副会長は能力を公言していない。聞きたいのなら、そちらも明かしてもらうことになるが?」

 すばやく千鶴が対応し、真八はすぐに、

「なら別にいい。続けてくれ」

 と引き下がるしかなかった。

「会計の白羽 秋時だ」

「「えっ」」

 千鶴と鶫が声を上げる。

「なんだその反応」

 二人の対応に秋時は訝しんでいるような視線を返す。そこで、鶫ははっきりと言った。

「お前、会計だったのか」

 ……全く知らなかったってのは、反省すべきなのかな。

 正直なところ、姉だからこそ仕事に私情を挟むまいとしていたし、確かにあいつの役職など気にしたことはなかった。それに、この学園の選挙など形骸化している。

「会計だが、他の雑用もやってる。忙しいからな。姉貴達と同じだ」

「あ、ああ。そうだな」

 しかし、秋時は千鶴と鶫が知らなかったことに別に動揺していないようだった。

 ……そんなことはどうでもいい、ということか。

 我が弟ながら、よく分からん奴だと鶫は思った。同時に大物かもな、とも。

「さて、自己紹介はこんな所かい?」

 再び話から置いてきぼりになりそうだった真八は、仕切り直すように一歩前に出た。

「そうだな。さて、どうする?このまま帰るというなら見逃してやることも出来るが?」

 対する千鶴はいつものように余裕だ。

「そういう訳にはいかないんでね。十和!九恩!」

 真八は二人を呼ぶと、後ろへと下がる。そこには校庭が広がっていた。

 そして、再び暗闇が展開される。

「さあ、ゲームスタートだ!」

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