板倉君はクラスの告白大会で中学の頃から好きだった女子に○○られる
高校まであと少しの交差点。
徒歩の通学の板倉君は信号が青に変わるのを待っています。
その板倉君の近くに自転車がやってきて止まりました。
「……あ、板倉君」
自転車から制服姿の女子が言いました。
「……あ、箱田さん」
板倉君もその女子の名前を呼びました。
高校のクラスメイトであり、そして密かに心を寄せている女子の名前を。
そう。
板倉君は同じ中学に通っていた頃からずっと箱田さんのことを好きなのです。
でもほとんど話したことはなく友達にもなれていません。
「……お、おはよう」
「……お、おはよう」
二人がぎこちない挨拶を交わしました。
板倉君も箱田さんも、どちらかといえば人と話すのは苦手なタイプです。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が訪れてしまいました。
だけど板倉君は、せっかく登校中に箱田さんと会えたんだから何か話さなきゃと思いました。
「きょ、今日は天気がいいね」
「う、うん。でも夕方から大雨だって」
「え、そうなんだ。傘持って来なかったな」
「天気持つといいね」
何気ない会話です。
だけど板倉君がこんなに長く箱田さんと話したのは初めてです。
嬉しいなあと思わず頬が緩んでしまいした。
「信号変わったね。お先に」
箱田さんが自転車を漕いで遠ざかって行きます。
板倉君は幸せな気持ちでその後ろ姿を見ています。
でも何かに気付いたようにブレザーのポケットからスマホを取り出しました。
板倉君の2年2組のグループトークに新着メッセ―ジが届いたようです。
差出人はクラス一番のパリピ、松本君。
『2年2組のみんな。グッドモーニング。悪いけど恋に悩むクラスメイトのために協力して欲しいんだ』
どういうこと?
首を傾げる板倉君。
『好きな人に告白したいのに勇気が出ないというクラスメイトが二人いてね。だけど自分以外にも告白する人がいるなら頑張れそうだって言ってるんだ。というワケで』
というワケで?
『今日の放課後、2年2組★告白大会を開催しまーす。イエーイ♪』
おいおいと心の中で突っ込みを入れる板倉君。
『メッセージを見ている君が告白されるかもしれないから帰っちゃだめだよ。クラス全員強制参加でヨロシク』
地味でトークも立たない僕が告白されるなんてことはあり得ない。
放課後は高みの見物かなあと板倉君は思いました。
ですが次のメッセージを見て表情がピクリ。
『PS。他にも告白したい人がいたら飛び込み歓迎! それじゃあ放課後をお楽しみに』
飛び込み歓迎?
つまり板倉君が箱田さんに告白してもいいということになります。
「……………………」
でも……と、板倉君は思いました。
クラスみんなの前で告白するなんて無理無理、絶対無理。
だけど僕が自分で箱田さんを呼び出したりして告白することだってずっと無理だった。
そう考えると、これはチャンスかも。
告白大会の様子を見て、流れ次第では──。
板倉君そんなことを考えつつ、学校に向かって歩き出しました。
◇
帰りのHRが終わりました。
教室の窓から見える空は暗い雲に覆われているけれど、まだ雨は降っていないようです。
「じゃあ準備しようか。ちょっと机動かしてくれる?」
松本君の指示で2年2組のクラスメイト達は教室の中央に空きスペースを作りました。
そのスペースの中でみんなが輪になっていきます。
板倉君も輪を作るメンバーの中に加わっています。
そして輪の反対側に箱田さんがいるのを確認。
なんだかドキドキしている様子です。
「レディース・アンド・ジェントルメーン! お集まり頂きありがとうございます。今ここに、2年2組告白大会の開始を宣言致します!」
松本君の開始宣言にクラスメイト達が歓声を上げました。
「それでは今日の主役、勇気を振り絞って告白に挑む二人をご紹介しま~す」
おや。
板倉君の表情が曇りました。
箱田さんが好きな男子に告白したり、あるいは自分以外の誰かに告白されてOKしてしまうことがないか心配になってきたようです。
ですが告白大会は進んで行きます。
「一人目は志村君、そして二人目は岡崎さんだ! みんな拍手~」
松本君にコールされた二人がペコリと頭を下げるとみんながパチパチと拍手。
板倉君は手を叩きながら「女子の岡崎さんが箱田さんに告白することはないだろうけど、もしかして志村君は」という不安と密かに戦っている模様。
「それではまず志村君。輪の中へどうぞ!」
松本君に言われた通り、志村君が輪を作っている一員から外れて中に入りました。
「さあ志村君。君が告白したいお相手は誰かな~?」
顔を赤くしてうつむく志村君。
ところどころから「頑張れー」と声が上がります。
「さ、佐伯さんです」
志村君が絞り出すように言いました。
彼を囲んでいる輪から驚きと歓声が沸き起こります。
板倉君は松本君の告白相手が箱田さんではないと分かり、ひとまず高みの見物モードになったようです。
「では佐伯さんも輪の中へ!」
「はーい」
佐伯さんが笑顔で進み出てきました。
ちょっと地味な感じの志村君と、華やかな佐伯さんが向かい合っています。
「さあ志村君! 君の想いを佐伯さんに伝えてくれたまえ!」
松本君に言われると、志村君は深呼吸。
そして──。
「ぼ、僕は前から佐伯さんのことが好きでした! どうか付き合って下さい!」
志村君は気を付けの姿勢で直立しながら叫びました。
クラスメイト達は大はしゃぎです。
「はいはい、静かにー。さあ佐伯さん、お返事は?」
みんなが静まり返り、告白の行方を見守ります。
「んー?」
佐伯さんは顎に右手の人差し指を当てて、ちょっと迷っている様子。
「とりあえず一回デートしてあげる。それで楽しかったら付き合ってもいいよ」
みんなから「おー」や「きゃー」という声が上がりました。
「はい! これは志村君の勇気ある告白がもたらした暫定勝利と言っていいでしょう! みんな拍手~!」
松本君の呼び掛けに応じてクラスメイトたちは拍手喝采。
喜びのあまり志村君が涙ぐんでしまっています。
「ありがとう、佐伯さん。みんなも、ありがとう」
「あはは。泣かない泣かない」
佐伯さんは苦笑いしながら志村君の背中を押しました。
「では次に参りましょう」
二人が輪に戻るのを見届けると松本君が口を開きました。
「岡崎さん、どうぞ!」
「は、はい!」
今度は岡崎さんが輪の中に入りました。
「それでは告白相手を──」
「い、石井君! 出てきてもらってもいいですか!?」
松本君のアナウンスが終わる前に、岡崎さんが目をつぶって叫びました。
「お、俺!?」
きょとんとしている石井君に注目が集まります。
「さあ。石井君。どうぞ」
松本君が促すと、石井君は周りの男子に押されるようにして輪の中に入って行きました。
小柄な岡崎さんが長身の石井君を見上げるような形で対峙しています。
「さあ、岡崎さ──」
「私、一生懸命バスケをやっている石井君のことが一年生のときから好きでした! こんな私で良かったら、つ、付き合ってください!」
またしても松本君が言い終わるより早く岡崎さんが速攻。
岡崎さんはちょっと突っ走ってしまう性格のようです。
松本君はちょっと戸惑っていましたが、別の誰かが「おい、石井。応えてやれよ」と言いました。
「あ、はい。あのー。俺、自分が女の子から好きって言ってもらえるなんて考えたこともなくて」
石井君はちょっと横を向いて戸惑いがちに言いました。
「でもバスケやってるのを応援してくれる人がいいなとは思ってたりはしてて。……だから、岡崎さんが付き合ってくれて応援してくれるなら嬉しいです。宜しくお願いします」
そう言って石井君は右手を差し出しました。
「うん! ずっと応援する! だから付き合って!」
岡崎さんがその手を握り返します。
自然と拍手が沸き起こりました。
「やったー! やったー!」
「あはは」
岡崎さんのスキップのような足取りを石井君が嬉しそうに見つめています。
二人が輪に戻りました。
「さてと。ここからは飛び入り参加の人の告白タイムとなりま~す」
松本君が言った瞬間、板倉君の目がきらりと光りました。
板倉君の頭の中では告白大会の分析は完了済みです。
志村君と佐伯さん。
岡崎さんと石井君。
どちらも以前はただのクラスメイトという関係だった。
だけど告白に踏み切った。
そして結果は成功だった。
この流れなら僕が箱田さんに告白してもおかしくない。
結果だって悪いことにはならないんじゃないか、と。
「告白したい人いますか~。誰でも応援するよ~」
松本君がみんなを見渡しながらたずねています。
板倉君は箱田さんを見つめました。
箱田さんは少し微笑んでいるようです。
それを見て板倉君は意識を固めました。
「いないならこれで終了──、おや?」
挙手している板倉君に松本君が気付きました。
「そこで手を上げているのは板倉君だね。告白したい人がいるってことでいいのかな~?」
「……は、はい」
「よーし。輪の中へどうぞ。みんな拍手拍手!」
拍手が鳴り響き、板倉君の頭の中は真っ白になってしまいました。
誰かにそっと押され、うつむきながらぎこちなく足を踏み出します。
「板倉君。リラックス、リラックス。同じ手と足が出るナンバ歩きになっちゃってるよ~」
おやおや。クスクスという笑い声や「ファイトー」という応援の声が。
ですが板倉君の耳には届いていないことでしょう。
「みなさん、お静かに。さあ板倉君。君が告白したいお相手を教えてくれるかな~?」
心臓がバクバクしている板倉君。
でもここで言わなかったら告白なんて一生できっこない。
だから言うんだと自分を奮い立たせているようです。
松本君に訊ねられてから30秒も経過したころでしょうか。
板倉君が顔を上げて叫びました。
「……は、箱田さんです!」
周りから「おおー」という関心と驚きの混ざった声が沸き上がります。
「それでは名前を呼ばれた箱田さん、輪の中にお願いしま~す」
松本君が箱田さんに言いました。
箱田さんは板倉君の正面の位置にいます。
「箱田さん? どうぞ」
松本君がちょっと戸惑いがちに促します。
だけど箱田さんは顔を下にむけたまま動こうとしません。
クラスメイト達は異変に気づきました。
だんだんと歓声が小さくなっていきます。
そして教室が静まり返ったとき、箱田さんが深々と頭を下げました。
「……ご、ごめんなさいっ!」
板倉君が唖然としていると、箱田さんが輪から飛び出しました。
内側にではなく外側にです。
それから教室後ろの棚からスクールバックを手に取ると、逃げるように出口から飛び出して行ってしまいました。
数秒遅れて「あー」というため息が聞こえてきました。
それでようやく板倉君は事態が飲み込めたようです。
箱田さんに振られてしまった、と──。
その直後、窓の外から雷の光が教室を照らしました。
少し遅れてドーンという轟雷が響き渡り、さらに大粒の雨が校舎を叩く音が鳴り始めました。
「……………………」
板倉君が輪の中で立ち尽くしています。
無理もありません。
好きだという思いを伝えることもなく、箱田さんに逃げられてしまったのです。
「………そんな」
板倉君はがっくりと膝から崩れ、教室の床に両手を突きました。
「ショックでorzになる人って、本当にいるんだー」
クラスメイトの1人が物珍しそうに呟きました。
◇
暗い教室に男子生徒が一人だけ。
板倉君が自分の席で茫然としています。
机は元のように並べ直されていますが、クラスメイト達が机を動かしてくれたことを板倉君は覚えていないでしょう。
何人かに「気を落とさないで」「ドンマイ」などと慰められたことについても、記憶が定かではないはずです。
最後に教室を出て行った松本君から「これも青春の1ページさ。電気消すから板倉君も早く帰りなよ」と言われたことはなんとなく覚えているかもしれませんが、どれくらい前のことなのか良く分かっていないに違いありません。
それぐらい板倉君はショックを受けてしまったのです。
どうして箱田さんに告白しようなんて思ってしまったんだろう。
逃げ出すくらい嫌われていたとも知らずに。
『きょ、今日は天気がいいね』
『う、うん。でも夕方から大雨だって』
『え、そうなんだ。傘持って来なかったな』
『天気持つといいね』
今朝ちょっと話せていい感じと思ったのが間違いだったのかな
ずっとそんなことを考え続けています。
「……いつまでもここにいてもしょうがないし、帰るかな」
ようやく板倉君が教室を後にしました。
スクールバックを肩に掛けて無人の廊下をトボトボと歩きます。
階段を下って昇降口に着くと、そこにも人はいませんでした。
上履きから靴に履き替えながら外の様子を窺います。
土砂降りといってもいいくらいの激しい雨が校門までのアスファルトの通路を叩いています。
だけど板倉君は傘を持っていません。
振られてしまった日に大雨に濡れて帰るのかと、気持ちが一層暗くなってしまったようです。
うなだれながら玄関の軒下に出たとき──。
目の前に誰かがいることに気付き、板倉君は顔を上げました。
その誰かは学校指定の白いレインコートを着ていました。
女子のようですが目元以外は隠れていて誰なのか分かりません。
そのレインコート姿の女子が無言で折り畳み傘を差し出してきました。
「え? 貸してくれるってこと?」
レインコート姿の女子がやはり無言でうなずきます。
「ありがとう。でも君は誰──、えっ!?」
傘を受け取ったとき、板倉君は驚きの声をあげました。
近くで目元を見てその女子が誰なのか分かったようです。
「はっ、箱田さん!?」
「ちょっと、名前を言わないで。私だってバレちゃうでしょ」
そう。レインコート姿の女子は箱田さんでした。
あたりをキョロキョロと見渡して誰も居ないことを確認すると胸を撫で下ろしたようです。
ですが板倉君は訳が分からず混乱しています。
「……あの、どうして僕にわざわざ傘を?」
「板倉君と今朝話したとき、傘を持って来なかったって言っていたでしょ? 私は自転車だけどレインコートだけじゃなくて折り畳み傘も持ってきていたから」
箱田さんがそう言って視線を逸らした。
「ありがとう。でも、もしかして帰る途中で引き返してくれたの?」
箱田さんのレインコートからはポタポタと雫がしたたっています。
いくら土砂降りとはいえ、駐輪場からやってきただけの濡れ方ではなさそうです。
長時間雨に晒されていたことが伺えます。
「まあね。自転車で家に帰っている途中で松本君から着信があったの。板倉君が教室に残って落ち込んでるから連絡してあげてって。でも、クラスのグループチャットからフレンド申請しても全然応答がなかったから、それで戻って来たの」
「……そう言えば全然スマホ見てなかった。ごめん」
松本君にも、そして箱田さんにも気を遣わせてしまったことで、板倉君は居たたまれない気持ちになりました。
「……いいの。大丈夫そうだし、もう行くから」
「ちょっと待って!」
板倉君は立ち去ろうとする箱田さんを呼び止めました。
「あの、告白大会のときは本当にごめん。……嫌な思いさせちゃったんだよね」
「……うん。本当に嫌だった」
箱田さんの言葉に板倉君は泣きそうになりました。
「告白大会とか、私は嫌なの。傷つく人が出るかもしれないし。それに、みんなの前で告白されるのだって恥ずかしいし。だから逃げちゃったの。……別に、逃げ出すほど板倉君が嫌いだったとかじゃないから」
今度は安心で板倉君は膝から崩れそうになりました。
ずっと好きだった箱田さんに嫌われている訳ではなさそうです。
でも安心すると疑問が湧いてきました。
「少し聞いていい?」
「何?」
「告白大会、嫌いなんだよね? でも岡崎さんが石井君に告白したとき、箱田さんが笑っているように見えたんだけど。」
「……あれは、ほっとしたから。岡崎さんの告白相手が、板倉君じゃなくて」
箱田さんの言ったことを「んんっ?」と考え込む板倉君。
「それって、まさか──」
「ちょっと! ……いつ人が来るか分からない、こんなところでする話じゃないってば!」
箱田さんが板倉君に背を向けました。
「……本当にもう行くから!」
何やら赤面している様子の箱田さんが走り出しました。
そして玄関から少し離れた場所に止めてあった自転車に乗って遠ざかって行きます。
また逃げられちゃった。
板倉君は箱田さんが校門を出て見えなくなっても、その方向を見つめていました。
「……僕も帰ろうかな」
だいぶ経ってから、板倉君は箱田さんが貸してくれた折り畳み傘のカバーを外しました。
「あれ?」
中からノートの切れ端のような紙片が出てきました。
その折りたたまれた紙片を開けてみると──。
『この傘を返すときに、板倉君の気持ちを伝えて下さい。私の中学からの気持ちも伝えます。くれぐれも二人きりのときにお願いします』
「……嘘」
もしかして、箱田さんも中学の時から僕のことを?
だとしたら、こんなに幸せなことはない。
板倉君は折り畳んだ紙片を大事そうにポケットにしまいました。
それから折り畳み傘を差して歩き出しました。
傘を返すときの、板倉君と箱田さんと二人きりの告白大会について想いを馳せながら。
天気は土砂降りでも、板倉君の心は晴れ渡っています。
===おしまい====
最後まで読んで下さってありがとうございます。
登場人物はあえて苗字だけにして容姿の描写などは抑えています。
爽やかな青春物語として楽しんで頂けましたら嬉しい限りです。
ブクマや☆☆☆☆☆評価での応援、感想やリアクションなど頂けますと励みになります。
どうぞよろしくです。




