六話
それから数週間後。
私達は夏の一大イベントである海に来ています!
ギリギリまで許可が下りなかったカイジくんと私は、何とかお医者さんに頼み込んでようやく参加することが許可された。
私達は身軽な格好なのだが、カイジくんだけは心配性なのかキャリーケースを持ってきている。
切符は職員さんに買ってもらい、なんとか予定通りの電車に乗り、さらに別の電車に乗り継ぐ。
ホームは駅近だとはいえ、海までが遠いのだ。
ボックスタイプの座席に座り、ガタンゴトンと揺られる。
「では第五問。世界三大料理はフレンチ、中華、あと一つはどこでしょうか?」
「和食は美味しいよねー、お寿司とか海外で人気だし」
「フランス料理も美味いな!」
「フランス料理はフレンチって言うんですよ」
「この際、間を取って、ロシア料理に……」
ロシア料理、何があるのか知らないけど、美味しいはず!
寒い国だし、体が温まるスープとか、濃厚なシチューとか、そんなイメージ。
白い息と、湯気の立つ皿。外は雪。――そんな光景が、頭の中にふわりと浮かんだ。
「ヒントは地中海ですね」
ダメだ、ヒントを出してもらっても地中海がヨーロッパなことしか分からない。
「ヨーロッパの国を全部言えば当たるのでは?」
「わー、気が遠くなるー……」
「パスした方が良いんじゃないか?」
「じゃあパスで」
「ウチもパス」
全員があっさりと投げる。
なんだかんだで、この空気が一番楽しい。
「正解はトルコです。ケバブとか有名ですね」
「そっちかー!」
私がおでこに手を当てて天を仰ぐと、すぐさま清次郎くんの「一回もトルコは出てこなかったぞ!」という鋭いツッコミが飛んだ。
心乃ちゃんはクマ吉の頭を持って、うんうんと頷かせる。
「あー聞いたことあるわ、世界三大料理」
「宮廷料理として発展した歴史があるのが共通点なんですよ」
へぇ〜……勉強になる〜。
ニッコニコ顔のカイジくんが指をピンと立ててクイズを出してくれるんだけど、大盛り上がりなんだ!
理系だけじゃなく、色んなことにも詳しいから正直羨ましい。
その時、パッと車窓が開け、遠くにキラキラ光る海が見えた。
「あ、海!」
私は窓の外を指す。清次郎くんは慌てて振り返るが、海が見えたのは一瞬のことで、すでに景色は流れてしまっていた。
「言うのが遅いぞ!」
理不尽なことで怒る清次郎くんに、三人でくすくす笑う。
そんなことをやっている間に、気づけば電車は駅に到着していた。
プシューと電車のドアが開き、みんな目を輝かせて外に出る。
駅の改札を抜けると、磯の香りが鼻をくすぐった。
―――そして、今。
エメラルドグリーンの澄んだ海。
そして一面の、サラサラした砂浜。
「海だー!」
「おー、綺麗じゃん」
誰からともなく歓声を上げ、ワー!と一気に走り出す。
更衣室でさっさと着替え、お揃いのアロハシャツを羽織り、ビーチサンダルに履き替えた。
全員並んでポーズを決めて写真を撮ってから、職員さん達がテントを張る。
清次郎くんは砂浜で貝殻を集めていたが、ふと波打ち際に何かキラキラしているものが落ちているのに気づいた。拾い上げると、綺麗なシーガラスだ。
「お、おぉ?」
シーガラスを太陽にかざして目にダメージを受けている清次郎くんを他所に、私と心乃ちゃんは波打ち際で水を掛け合っている。
「えーい、今日は日焼けなんか気にしなーい!」
「うわっぷ!待てや理世!」
追いかけてくる心乃ちゃんから逃げていると、慣れない波に足を取られて転び、顔に水しぶきを浴びてびしょ濡れになった。
「アハハハ!」
お腹を抱えて爆笑する心乃ちゃんを横目で見ながら、差し伸ばしてくれた手を掴んで立ち上がる。
「大丈夫?怪我してない?」
「私は大丈夫だけど……クマ吉はどうしたの?テントでお留守番?」
クマ吉の行方が気になり、聞いてみると、いつの間にか背負っていた物を見せてくれた。それは、ジップロックに入れられたクマ吉だった。
「クマ吉!?」
「防水仕様」
透明な袋の中、クマ吉がぺちゃんこになっていた。
「いやそれ大丈夫なの!?」
「大丈夫」
グットサインをしながらドヤ顔をする心乃ちゃん。
袋の中で微妙に歪んだクマ吉の顔が、なんだか助けを求めているように見えてくる。
さっきまでのモフモフだったクマ吉が……こんなぺっちゃんこになって……。
「圧縮袋の力こわ」
じーっと見つめると、袋の中のクマ吉は無言でこちらを見返してくる。 ……やっぱりちょっと苦しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「クマ吉より、ニュートンの方が大変なことになってるから助けてあげてー」
心乃ちゃんの指差した方には、テントで引きこもっているカイジくんの頭に乗っているニュートン。
ニュートンは砂浜には降りられない。熱い砂や塩水はカメレオンには危険なんだって。
テントに戻ると、職員さんが自販機で買ってきてくれた冷たいお茶のペットボトルを手渡してくれた。
砂浜の暑さで少し火照った体に、冷たいお茶が染み渡る。
「ありがとうございます!」
「はーい、どうぞー」
もう一人の職員さんがカイジくんに声を掛ける。
「カイジくん、ニュートンは職員さん達で見ておくから、みんなと遊んできたら?」
カイジくんは少し戸惑いながらも、頷いた。
「わ、分かりました……でも、目を離さないで下さいね……」
「任せて!」
職員さんが笑顔で手を振る。
カイジくんは少し安心した顔で私達の方に寄ってくる。
「全員揃ったし、四人で何かしたいな!」
清次郎くんが言い、心乃ちゃんが「じゃあ、ビーチバレーしよ」と、砂浜に設置されたビーチバレーのコートを指差した。




