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二話

私は一瞬言葉に詰まった。

同じ人間なのに――同じ感情を持っているはずなのに――。

「……そう、なんだ」

思わず視線を落とす。外では、どれだけ自分の言葉が空回りしたか、どれだけ沈黙が重くのしかかったかを考えてしまう。

きっと、カイジくんの言う“僕達”の中には、私も入っているのだろう。

その時、診察室から清次郎くんが帰ってきた。

「何だか楽しそうだな!」

「お、早いじゃん」

「おかえり〜」

「おかえりなさい。今日は珍しく早いですね」

いつも清次郎くんの診察が遅くなるのは、ただ単に彼が自慢話をお医者さんに一時間くらい話すからだ。

「今日はこれを貰うだけだったからな」

そう言って見せてくれた一枚の紙。

そこには『外出許可証』と書かれていた。

(私ですら全然許可が下りない外出許可証だと……!?)

私は思わず目を見開く。

「良いじゃん。ウチも服買いに行きたいわー……。連れてって♡」

「断る!」

「ちえー」

心乃ちゃんは不貞腐れたようにクッションに顔をうずめた。

「許可が下りて良かったですね。どこに行くんですか?」

「たまには実家に顔を出してやらないとな!父様と母様も心配するし……なにより、ルカに会いに行かないとな」

「……そうですね、きっと待ってますよ」

カイジくんは、ほんの一瞬だけ視線を逸らした。

「ルカちゃんって何歳だっけ?」

「今年で八歳だ。最近の小学生の欲しい物とか分からんからな、折り紙をプレゼントすることにした!」

「清次郎くんにしては良いプレゼントだと思うよ」

「ふっ、ルカもこんな素晴らしい兄を持てて幸せだな!」

「ひと言多いぞー」

取り壊しも半ばで放置された、築数十年の廃アパート跡地。

清次郎くんは、いつもそこで夢を見ている。

彼は赤子ポストで発見され、天涯(てんがい)孤独である。

「行ってらっしゃい」

「行ってら〜。お土産よろしく!」

「トーテムポール頼む」

「心乃くん、ハワイに行くんじゃないんだぞ!?」

清次郎くんを玄関で見送り、また談話室に戻る。

心乃ちゃんはクッションを抱えたまま、ぽつりと呟く。

「良いなー、外出。ウチも外出したい」

「それな」

窓の鉄格子(てつこうし)が目に入る。

「脱走する?」

「駄目ですよ」

カイジくんに却下されてしまった。時々カイジくんは、私達の動向を監視するお医者さんのスパイなんじゃないかと疑ってしまう。

―――まぁ、半分冗談だけど。

ふと、窓の外に視線を移した。

空は淡い水色で、雲がふわりと流れている。風に揺れる木々の葉が、光を反射してキラキラと瞬いていた。


自分の部屋に戻ると、私はいつも通り二段ベットに登った。

寝そべりながら、昔から好きだった漫画や小説を読んだりする。

カチカチと時計の針が午後六時を指していたので、下のベットでクマ(クマのぬいぐるみ)を抱えて寝ていた心乃ちゃんに声を掛ける。

「心乃ちゃん、夜ご飯食べれそう?」

「んー……今、頭痛いから無理かもしれん。先行っててー」

「うん、分かった」

心乃ちゃんは、たまに頭が痛くなって寝込むことがある。

私はそっと降りて、廊下でばったり出くわしたカイジくんと食堂に向かった。

「おや?心乃ちゃんはいませんね」

「頭痛いんだってさ」

「そうですか」

食堂に入ると、外出から帰ってきていた清次郎くんは紙袋を持っている。

トーテムポールはなかったので、代わりに最近(ちまた)で流行っているお菓子を買ってきたらしい。

「マジでありがとう……!」

(私も外出した時、お返し買お)

紙袋を開けると、色とりどりの小さな袋に入ったお菓子が目に飛び込んだ。ひとつひとつが小さく可愛らしくて、見ているだけでちょっと楽しい気分になる。

「ちゃんと四人分買ったからな!お陰で小遣いが消えてしまったが……」

「痛い出費!」

「無理しなくても良かったのですが……ありがとうございます」

お菓子を眺めていたら、職員さんから「お菓子はご飯の後だよー」と軽く注意されてしまった。

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