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革命家シャルージェ・ウリヤノフについて

 革命家シャルージェ・ウリヤノフについて


 雪景色の街を少女シャルージェが歩く。火の匂いのする方向へ白い息を吐きながら、足跡すら曖昧になる程硬い雪を踏みつける。


 「すいません、失礼します」


 街の外れ、農村共同体(オプシーナ)の農民がユーロ=ルーシーの厳しい寒さと暗い冬を凌ぐ為に集団で火を起こしていた。そしてシャルージェもそこに加わって身体を温める。


 「燃やせるもん集めてきたぞ」


 獣族の農夫が台車に本やイコーナを載せている。そしてそれを火に投げ入れた。


 「あれ、燃やすんですか?」


 シャルージェはふと気になって隣の男に聞いた。


 「俺たちの腹を満たしてくれない神様なんて要らないだろ」


 「そうですか」


 「嬢ちゃんは信徒なのか?」


 「いえ、自分は神という存在に対して懐疑的な立場をとっております」


 神が最高善であるのならば、神を信じないということは悪だ。でもこの農村共同体(オプシーナ)ではその悪が許されている。何故なら神の実在を信じれなくなったからである。そして、シャルージェも同じであった。


 「なら言うことないだろ。こんなクソの役にも立たない板と絵、焼いちまう方がマシだ。だから…そうだな、いっそ坊さんの家も焼いちまおうか」


 シャルージェは彼らの言葉と疲れ切った抑揚のない口調からこう分析する。


 まるで悪霊だ。自らが最高の存在と信じていたもの、つまり神が実在しないと悟って、全てを虚無に感じている。だから何もする気が起きなくて、神を未だ信じている者、あるいは自分に神を信じさせた者に恨みを抱いてしまう。まさしく悪霊だ。


 「私も同意見です、農夫様」


 バチバチと火の音だけが響いている。誰もが疲れて喋る気力を持てていなかったのだ。

 そんな中、彼女はニコラスの事を想っていた。


 ニコラスは私や彼らとは違って神の存在を信じている。ただ、人格神を認めていないだけで。じゃあ何でそんな考えをしているのか、それは自分の意思に対して責任を取りたくないからなんだろう。だって神の実在を捨てたならば、人は自らの意思に対して責任を持たなくてはならない、彼はそれに耐えられないのだ。

 そう思うと、幾何学的証明によって導かれたニコラスの理論は冷たき演繹法などではなく、ある種優しい折衷案なのかもしれない。心を守る為の、薄い膜のような。


 「エヴゲーニーいるだろ?この前農地買ったあいつ、あいつ行き倒れそうになって結局軍隊だとよ」


 農夫達が話している。


 「解放令なんて意味ないねぇ結局」


 3年前のターキー戦勝と共に実施された、農奴の人格的・土地的解放命令。しかしその実態としては土地の買取代が高過ぎて農奴にはとても払える額ではなく土地的解放は成されなかった。

 つまり何も変わらなかったのである。


 「お、みろよ今日も来やがった」


 農奴と比べて仕立ての良い服をしている一団が火に薪を焚べる。


 「農奴諸君、解放令は諸君の雇用主が地主が資本家に変わった、それだけに過ぎない。よって我々は闘争によって諸問題を解決せねばならない」


 一団、農本革命団(ナロードゲンツィア)は農奴の前で演説を行う。しかし農奴たちはその演説を無視した。


 「戦勝てども金増えず、王妃は似非祈祷師に夢中で宴の後は火の車、諸君は肥えた者の為に食を作ってる訳ではないだろう!」


 そうだそうだと合いの手を入れるがあくまで火に薪を焚べてもらう為、農奴からしてみれば彼らの崇高さなぞ先程焚べたイコーナと変わらない、クソの役にも立たない物なのだ。それでいてイコーナと違って燃えないのだから、本当に役に立たない。


 「よくやってるんですか?彼ら」


 シャルージェは先ほどの農夫にそう聞いた。


 「あぁ、いつもやってる。革命革命ってうるせぇんだ」


 「薪を焚べてくれるのはありがたいんだけどよ」


 シャルージェは農本革命団(ナロードゲンツィア)の持つ熱と農夫の持つ熱の乖離を肌で感じてこう考察する。


 革命というのは極めて暴力的な物だ。それは闘争によって諸問題を解決せねばならないと言っていることからも彼らも私と同様に考えていると察せられる。しかし彼らの指す暴力の構成要因はここにいる疲れ切った農夫だ。こんなものが王政を打ち倒す暴力になるとは私には到底思えない。

 やはり革命における暴力の構成要因とは、議会制度を排した、軍隊的な職業的革命家の集団であるべきだ。


 「頭でっかちってことですか?」


 「あぁ、そうだよ」


 シャルージェはしばらくして火を離れる。身体を温めたはずだったのに一瞬で肉体が凍える。


 「熱がないなぁ」


 再び硬い雪を踏み締めて彼女は歩く。

 ユーロ=ルーシーの広く不毛で凍えた大地は全ての熱を奪っていく。それは国境を西へ西へと動かして行き、そこに住まう彼らから熱を奪い去ったとしてもこの大地はその熱をも飲み込んで雪に変える。彼女はそれを理解しているからこそ、こう考える。


 王政にできるのは対処療法だ。それはニコラスが魔王になったとしても変わらない。故に、私はユーロ=ルーシー全土の電化によって大地を温める為に王政と教会の持つ全ての権力を簒奪しなければならない。

 全ては全ての人間が人間らしく生きることの出来る平等で楽園のような国を築く為だ。


 

ニコラスの信仰は汎神論ってやつです。詳しくはスピノザのエチカを読んでいただけると幸いです。わかりやすくする為にアレンジ的なのは加えているので、ちょっとスピノザの汎神論とは違うかも?

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