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ラスアジィーニ・ユーロ=ルーシー・ラブマスィーニ

ラスアジィーニ・ユーロ=ルーシー・ラブマスィーニ


 ニコラスは教会に入り、ラスアジィンニコフが個人的に使っていた部屋に入る。故人の秘密を暴く、それは彼とて是とする訳ではないが、それはそれとしてラスアジィンニコフならいいかと自分にいい聞かせて納得させた。


 「アレクサンドル兄の部屋みたいだ」


 松の椅子と松の机、松のラックに松のベッド。だがアレクサンドルの部屋とは違って、酒瓶が転がっていたりイコーナが一部破れていたりしていて信仰というものが見られない。


 「60超えてたよな?」


 ニコラスは妙に整えられた服と酒瓶とは違う厚さのガラス片を見て微かな女の痕跡を感じ取った。そして部屋を探索する内に机に妙な違和感があることを発見したのだ。見かけに比べて底が浅いのである。一先ず机の中にあるものを全て出してから調べてみる事にする。


 「はぁ!?」


 ニコラスは机の中から出てきた布状の何かを取って驚いた。女性の下着だったのだ。ニコラスはそれを静かに机に置いて、もう一度中身を漁る。


 「はぁ!?」


 ニコラスは机の中から再びでできた布状の何かを取って驚いた。女性の下着だったのだ。ニコラスはもう一度それを静かに机に置いて中を確認する。しばらく底を触っていた時、引っかかる部分を見つけた。彼はそこに指を入れて、仮初の底板を外す。すると底が外されそこには古ぼけた手帳があった。


 「これは…」


 手帳の裏面にはカテリーナ・イエラヴナとカール・マルコヴィチ・ラスアジィンニコフという二つのサインがあった。この手帳は二人の交換日記のようなものであったのだ。

 ニコラスは手帳の1ページ目を恐る恐る開く。まず目を引いたのは日付だ。1840年1月4日、つまり30年程前だ。

 王妃カテリーナとラスアジィンニコフの蜜月は国民や政治家、しいては魔王が思っているよりもずっと長かったのである。それはニコラスだけでなく、ヨセフやアレクサンドルですらラスアジィンニコフの子供であるという可能性が示唆されることを意味しているのだ。


 「なるほどね」


 ニコラスは手帳を20ページ、1840年から1843年までを読んでラスアジィンニコフとカテリーナの関係性を大方把握した。


 ラスアジィンニコフは元々ヴォルデングラード府主教であったが、本人気質故総主教や他の主教に嫌われて自主的に主教を辞めた。そして医師となり医師としての腕があまりによかったので魔王カノンノフの付き人となった。

 そして彼はカテリーナと出逢ってしまった。それからは止まらなかった、お互い一目惚れという事に加えて禁断の恋ということで燃えるような冬を過ごしてしまった。


 「兄さん…」


 1845年の7月4日第一子アレクサンドル王子の出産日、ラスアジィンニコフは生きた心地がしなかった。何故ならアレクサンドル王子が蛇の特徴を持っていたからである。勿論、カノンノフの家系に蛇が居なかった、という訳ではない。でもそれ以上にアレクサンドルに対して彼は他人と感じれなかった。何故なら自分の父親が蛇であったからである。だからラスアジィンニコフは自分が殺されると恐れた。

 そしてそう感じていたのはラスアジィンニコフだけでなく、カテリーナもそうだった。彼女とて、アレクサンドルがカノンノフ子ではなくラスアジィンニコフの子だと母としての直感で察していた。故に自分は姦通の罪で死罪にされると思ったのである。

 しかし、そうはならなかった。魔王カノンノフはカテリーナに対して、そうか蛇かと言ってそれだけであった。

 魔王ですら、神ですら二人を罰しなかった。冬は未だ、暑いままだ。


 1850年12月1日、二重帝国死滅戦争での勝利と共に第二王子ヨセフが産まれた。彼は獅子の血を宿しており、確実に魔王の子と言える子供だった。しかし魔王は彼に何も言わなかった。カテリーナはこの時、魔王に対する愛想を尽かしたのである。


 1853年4月2日、パリス攻防での勝利と共に第三王子ニコラスが産まれた。ラスアジィンニコフにも魔王にも似ない、愛らしい猫の子であった。魔王は唯一彼を愛した。


 「馬鹿だな、母上もラスアジィンニコフも」


 そこからは行為なき逢瀬を重ねた。カテリーナはこれ以上子を作っても、魔王はニコラスしか愛さないと察していたんだろう。きっと魔王は自分の血もラスアジィンニコフも血も嫌いで、自分と瓜二つのニコラスしか愛せないのだから。


 ニコラスはページを捲る。そして1869年12月7日に辿り着いた。


 ラスアジィーニ、カノンノフを殺してサーシャとオーシャと四人で暮らしましょう?


 分かりました、カーチャ。私にお任せください。カノンノフは私が殺します。


 「…頭を冷やそう」


 窓を開けて外気を取り入れた。蝋燭は吹雪によって消えてしまった。


 「尊敬してたんだけどな」


 ニコラスは母を愛していた。それは唯一自分が対等に話せる相手であったというのもあったし、そもそも彼女は母親だ。だからこそ彼の心は酷く傷ついた。母親が恥ずべき人だと知って、そして母親の望む世界に自分が不要であると知って発狂しかけたのである。しかしこの大吹雪の寒い冬が発狂を許さない。彼はすぐに冷静さを取り戻した。

 そしてページを捲った。


 カーチャ、あの毒では肝不全は起きないはずです。侵入者の件もそうですが、私達以外に魔王暗殺を企てた者がいると推察するのが自然であると考えられます。ですから、貴方も近辺の警戒は怠らぬようご注意下さい。


 「同時犯か」


 ニコラスはよく冷えた空気とよく冷えた頭で以下のように考察をする。


 さて、まず整理する。


 1.ラスアジィンニコフと王妃カテリーナの蜜月は30年前から続いており、第一王子アレクサンドルはおそらくラスアジィンニコフの子供である。


 2.魔王に毒を盛ったのはラスアジィンニコフだった。


 3.ラスアジィンニコフ以外も毒を盛ったり警備を緩めたりしており、魔王暗殺は同時犯であった。


 もしだ、アレクサンドル兄がもう片方の犯人だとしたらどうだろうか。だとしたらラスアジィンニコフの暗殺は魔王を殺した後に自身の正統性を脅かす可能性のある男を排除する為であったとこじつけることができる。しかしこれには致命的な欠陥がある。ラスアジィンニコフが自身の正統性を脅かす存在であるということは、母上もその存在に該当するのではないかという欠陥だ。流石のあの人でも自身の母を殺せる人じゃ無いはずだし。


 いや、魔王暗殺について考えているからダメなんだ。一度ラスアジィンニコフ暗殺について考えよう。


 まずラスアジィンニコフを暗殺して得があるのは誰なんだ?


 1.純粋に鬱憤を晴らしたい教会勢力。これは無いだろう。確かにあいつはカスだけど教会側にそこまでする理由がない。


 2.ラスアジィンニコフが泣かせてきた女。ありえるかもしれないが、犯行には鉄砲と毒物、そして毒物を入れるためのヴィンテージワインが使われてる。拗らせて殺しに働くにしてはあまりにも高度過ぎるから1よりも可能性はあるといえど微妙だ。


 3.アレクサンドル兄。自身の正統性を脅かす可能性の潰せる。一番可能性があるが同時にアレクサンドル兄が母上を殺せる卑劣な人間でなければならない。


 3.について、これは本当だろうか?だって動機が正統性とは限らないじゃないか。例えばそう、純粋に復讐とか。


 ではラスアジィンニコフ暗殺がアレクサンドル兄によるものであり、また動機が魔王暗殺による復讐であると仮定する。尚且つこの時、当初の通り魔王に極近い者のみが容疑者となるとすると。


 1.アレクサンドル兄。前提より除外


 2.ヨセフ兄。


 3.僕自身。僕はやってないので除外


 4.ラスアジィンニコフ。前提より除外。


 5.母上。


 残ったのは母上とヨセフ兄だが、ヨセフ兄には暗殺なんて器用な事はできない。ならば母上がラスアジィンニコフと暗殺の行き違いになっていたというのが一番正しいだろう。


 さて、以上より以下が決定されるな。


 1.ラスアジィンニコフ暗殺の動機がアレクサンドル兄の魔王暗殺の復讐によるものであれば、母上がラスアジィンニコフと暗殺が行き違いになって毒を盛ってしまったとするのが自然。


 2.ラスアジィンニコフ暗殺の動機がアレクサンドル兄の正統性確保によるものであれば当初の通りアレクサンドル兄が犯人であるとするのが自然。


 次に1と2が決定される状況についてだが…これは母上が殺されて、あるいは殺されそうになって確定する。

 なら僕がやるべきことは母上を守りつつ母上にこの手帳の内容の一部、つまりアレクサンドルがラスアジィンニコフの子供であるということを認めさせる事だ。

 

今回のラスアジィンニコフの元ネタの大部分はラスプーチンになってます。なのでタイトルも怪僧ラスプーチンという音楽の歌詞から取りました

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