第三回党大会
第三回党大会
シャルージェという女は自分の欲望に対して弱い。例えば甘いものがあればすぐに食べてしまうし、眠くなったらすぐに寝てしまう。勿論彼女とてそれを嫌だと感じているし、自分が卑屈である一番の要因であるとも考えている。でもそう自覚していたとしても彼女は弱いから欲求には逆らえない。
事実、彼女はこの内戦の間宿場として使用していた場所はカチューシャ宮殿のニコラスの部屋であった。
そして今日も彼女の1日は彼の部屋で始まった。
「同志シャルージェ、朝食で御座います」
「ありがとう」
給仕を部屋にまで走らせて朝食を食べる。自分がまるで貴族の様な事をしているとシャルージェは自分自身を軽蔑した。
「同志シャルージェ、黒軍が降伏したとの知らせが。白軍と激しく食い合って破れたと」
「無神論、平等、そして世界に対する絶え間なき闘争。そういう面では分かり合えたのかもしれないけれど、いささか彼らには自制心というものがなかった。打倒な末路だよ」
彼女自身、自身の発言のブーメランだと分かっていた。
「ただ、これからは簡単だ。消耗した白軍を打ち倒すだけだからね」
戦力比較をすれば直ぐにわかる事だが、白軍に勝ち目はない。だから後は一撃革命論者と王政とブルジョワに対して強い恨みを持つ人を焚き付けるだけで彼女の仕事は終いなのだ。
「ご馳走様」
朝食を食べて直ぐ、彼女は身支度を済ませて党大会へ向かった。
党大会はサンクト=プトレマイオスグラード政府庁舎のホールで開かれる事になっており、そこには凡そ三百名余りの議員が参加する。議題としては白軍との講話、戦争、そして新しい国家と革命についてである。
「おはようございます、同志シャルージェ」
「えぇ、同志カーメネフ」
シャルージェは議席に座る前、副書記と軽い挨拶を交わした。そして直ぐその後、党大会が始まった。
「諸君、第三回党大会の議長を務めさせていただきます。イヴァン・コリョロフで御座います」
議長は巨大な赤の引割幕の前に設置された教壇を前に立ち開会をする。
「では第一位、議席の指定を行わせていただきます。党規約14条第2号3号より諸君らの議席につきましては議長の権限において指定致します。またその際、新たに議席に就かれました中央党員を紹介致します」
「党員番号298番セルゲイ・エゴロフ、党員番号299番…」
次々の名前が呼ばれ、呼ばれた人物は姿勢よく起立する。
「では以上を持ちまして紹介を終了致します。では第二位、議決前演説に入らせていただきます。シャルージェ・ウリヤノワ書記長、お願い致します」
シャルージェは立ち上がり、教壇の前に立つ。彼女も中々に美しい見た目をしているので、男の多い党大会においては注目を集める事に苦労しない。だからニコラスと同じく、演説が上手いのだ。
「まず前提として勤労なる我々プロレタリアートの敵、つまり貴族や地主は我々が居なければ農民や平民が生きて行けないと言うのです。何故なら私達以外に秩序や法を守護する者はおらず、私達が死なば国は四散するのだからと。しかし現実としてどうでしょうか。今の現実は」
シャルージェにもニコラスと同じく、火の付け方というものがある。ニコラスが権威やカリスマを全面に出して使命感を刺激する様な方法であった様に、彼女にも他者の内に秘めた僅かな怒りを刺激し自覚させその怒りで火を起こすというやり方があるのだ。
「皆様も知っての通り、現在この国は内戦の最中であります。そしてその原因は魔王ヨセフと魔王ヨセフに反対する魔王ニコラスを旗頭とする貴族や地主の集団の対立によるもので御座います」
「えぇ、皆様ももうご理解いただけたでしょう。この様に身勝手で強欲な人々が我こそは秩序の守護者なるぞと僭称しているのです。あえて言いましょう、まったく笑える話だと」
シャルージェの演説はこの様に静かである。しかしその大学教授の様な声色とは裏腹、彼女の口から出る言葉は怒りの込められた強い言葉である。
「故に私は考えます。真に秩序の守護者たり得るのは我々プロレタリアートであると。階級闘争に目覚めた農民と労働者の集いは厳しい訓練を受けた黒軍の精鋭部隊に打ち勝ち、旧制度の役人を縛り上げて赤軍の勝利に貢献したのですから」
議会は静まり返り、ゆっくりと丁寧な彼女のルーシー語を頭の中で噛み砕いていた。
「労働者及び農民のうち積極的かつ意識的な市民は偉大なる階級闘争における前衛兵であり、かつ労働者による社会的ならびに国家的組織の指導的中核を成すユーロ=ルーシー・インターナショナル労働者党に団結しています。故に私は、我々にこそこの大地の秩序と法の守護権が与えられると考えているのです」
「ですから私はここにて白軍を蹂躙せよと彼らには命じる事を求めます。農民よ武器を取れと、高く赤旗を掲げよと、旧制度に住まう不遜なる者達に、私達から食を奪う彼らを滅せよともう一度命じる事を求めます」
「以上です、議長」
絶え間ない拍手が彼女を包んだ。誰もがこの若い女の堂々たる姿勢に感心する中、カーメネフ伯だけはニヤリと笑っていた。そして彼は立ち上がり、こう語った。
「議長並び党員の皆様、カーメネフ副書記で御座います。急遽の事ですが、私から皆様に紹介したいと考えている人が居るのです。そしてその人の名こそ…」
ホールの扉がゆっくりと開く。そしてそこには彼らの敵である魔王が居た。
「魔王ニコラス・ロマリク様に御座います」
ニコラスの姿を見るや否や、シャルージェは立ち尽くしたまま小さく彼の名を溢した。
「…ニコラス」
ラスボスはシャルージェって事で




