戦士ルスラーンの戦死
戦士ルスラーンの戦死
11月が過ぎ去ろうとする時、裏海にまで辿り着いていた前線は大幅に引き戻され、ヴォルゴノフの正面が最前線となった。
「伍長!伍長!」
新人の頃、ルスラーンを可愛がってくれた男が死んだ。この苛烈な追撃戦の中に死んだのだ。
「クソ、下がるぞ」
激しい爆音と銃声の中でも犬の耳は良く聞き取る。それが主人と見そめたものの声あれば尚更だろう。
「死守じゃないんですか!?」
「俺らはいいんだよ!」
ミハイルは充分に食糧を行き渡らせる為、あるいは絶対にバレない陽動の為に前進の兵には多く死んでもらわねばなと作戦を建てた。故にこの不利な状況でも死守命令を下したのだ。しかしチュロス軍団にはミハイル将軍の命令に対する拒否権がある。だから彼らは味方を置いて撤退することができるのだ。
「でもまだ味方が!」
倒れた味方に駆け寄ろとする彼を伍長は留めた。そして無理やり引っ張って後退させようとする。
「どうでもいい!この国の問題なんだからこの国の奴らに争わせときゃいいだろ!」
この内戦はユーロ=ルーシー魔王国のルーシー地域のいざこざである。カノンノフによって踏み潰されたユーロの国々の人々にとってはどうでもいいとはいかずとも勝手に戦っとけという話だ。しかし、ルスラーンはユーロの人々ではない。ルーシーの遥か東、ヅィベリエンの人である。
「僕はこの国の人なんですよ!?」
「あぁ、そうだったな!でもだ、俺はお前にチュロス共和国を見せてやりたいんだ。だから死んでほしくねぇんだよ!」
ルーシー人としての自分、伍長の犬として自分。彼の中にある二つの属性が鬩ぎ合って彼の頭はショートした。
「で、でも僕は…」
自分は犬なのか、あるいは人間なのか。ボーダーコリーの血を持つ獣族であれば10歳くらいに思い悩む物を彼は19にして悩み始めた。
僕はヅィベリエンの人間だ。でも同時にこの人の犬だ。ヅィベリエンは、ユーロ=ルーシーは僕を育ててくれた。それを裏切ることは筋を曲げる事になる。でもそれは伍長だって、チュロス軍団だって同じだ。
国を裏切るか、あるいは主人を裏切るのか。
僕は…
「俺が責任を取る!着いてこい!」
責任を取る、ルスラーンはその言葉を恨んでいいという意味で解釈した。つまり彼は国を捨てて主人に尽くす事を選んだのだ。
戦士ルスラーンは言葉通り戦死した。国を捨てて、伍長の番犬という立場を選んだのだから。
「伍長…」
彼は死にかけの同胞を見捨てた。そして卑しくも主人の元に駆け寄った。
「行くぞ!」
二人は後方の陣地へて駆けて行った。二分後、この陣地は壊滅し、その日のうちにヴォルゴノフは陥落した。
ヴォルゴノフ陥落から2日後、ミハイルは前線をボロネー=クリナン半島ラインと改めた。つまり前線が振り出しに戻ったのである。だが振り出しの状況とは異なり、こちらの兵力は元の半分まで減少し砲弾も残り二割、そして敵兵力は元の1.5倍程であり南方軍が機器的状況に立たされている。
逆巻きタイフーン指令はここにおいてほぼ達成されたのだ。
これ本来一つ前の回に付いてたやつですね。時間なくて分割するしかありませんでした。
その普段書き溜めは二万文字なんで最後の方はこうなっちゃいます。
あと犬は絶対に死なせません




