軍人
軍人
「ユーロ=ルーシー至高の軍人と言われるあんたと組めるなんて光栄だ」
マルタ・クラウンはかつてミハイル将軍に敗れた。カノンノフグラードの門、カルーガノフにて対応不可能な津波のような攻撃を前に敗れ去った。故にマルタは津波の攻撃に晒されたとしても戦闘を継続できる兵士の生存戦略を編み出す事ができた。つまりマルタにとって彼は敵であり師であった。
「こちらこそ。確か我が参謀本部はチュロス軍団の事を不死身のクソネズミとか言ってボヤいていました。幾度殲滅命令を出したとて、肝心な時にすぐにコソコソ隠れるし住民も匿い始めるしで、最終的な判断は放置ですからね」
これは惜しみない最大の賞賛である。その証拠にミハイル将軍はマルタという軍人が生きていて本気で残念だと思っている。何故ならこの女が生きているのはある部分おいてミハイルよりも優れているという証拠である。
「それであたしらはどうすればいい?一応貴官の飼い主からはあたしらの条件達成が著しく困難とされる命令である場合は無視しても構わないと言われているだが」
「君たちに無理な命令はしません」
マルタはミハイルの言葉を少し不思議に思った。何故なら南方軍において一番突撃力のある部隊はチュロス軍団だ。その軍を使わずしてどの軍が突破口を開けるのかと、自分の知らない著名な軍があるのかと思った。
「ならば、誰が突破口を開くんだ?」
マルタはミハイルのエラ張った顔についたミハイルの青い瞳を覗いた。
「南方軍の中央そのものです。まず砲撃を行い、その後予備兵力を含めた中央の三分の一を突撃させます。第一波が開口部を開き、第二波が横に攻撃をして開口部を拡張、第一波と第三波で敵の後方を壊滅させます」
要は人的資源と砲弾任せのゴリ押しである。だからこそ彼のドクトリンは完璧に近く対処方法が無い。
「開口部は何キロになりそうなんだ?」
「30kmか、あるいは50km」
通常の突破で生まれる開口部が10kmであることを考えればこの戦略の異常性が理解できるだろう。
「上記を逸している。この国以外じゃ絶対に不可能な戦術だ」
まったく、畑から人が取れる国とはよく言ったものだ、マルタはそう思った。何故ならこの戦略は普通の国でやれば軍隊を殺す戦略になる。一回の戦闘で万単位で死者が出るなんて馬鹿げているのだ。
「だからこそカノンノフは他国を踏み潰せた。そうでしょう?」
「やられる側はたまったものではない」
莫大な工業力による圧倒的な防火力と莫大な人的資源を用いた人海戦術。まさしくそれは雪崩であり、ユーロの人々からしたら本当に恐ろしい光景であった。だからこそカノンノフによるユーロ進出はカノンノフの大雪崩と呼ばれたのである。
「では私は自分の持ち場に戻らせてもらう。この戦争で戦友になれることを願っているよ、ミハイル将軍」
「嫌です。私は貴方の戦術に対して何の解も出せていない」
ミハイルの最もたる才能は負けず嫌いであった。
「それとマルタ軍団長、これをお持ちに」
マルタは自らの軍団待機する野営地に向かった。
「酒だぞ!」
開戦前の無礼講の宴会、慣れないユーロ=ルーシーの奥地であっても凍え死なない様に酒で体温を上げてから戦いに挑む。それがチュロス軍団の習わしである。
「何年ものです?軍長」
「40年ものだ」
「安酒じゃないですか」
将自ら獣族の一兵卒に酒を注ぐ。チュロス軍団の兵士の殆どは毛深い獣族かあるいは獣族よりの者たちで構成されている。むろん、最初からこの様な構成をしていた訳ではない。ユーロ=ルーシーの冬の中で軍事行動を果たせたのは彼らだけだったのだ。故にこの軍団には猫科だとか、あるいは犬科が多い。純然たる人間は凍えて死んだかあるいは離脱していったのだから。
「鹿の血よりマシだろ」
「仕っ片ないですねぇ」
この生意気な犬科の青年、ルスラーンは後にヴォルゴノフの戦いの最中戦死する事となる。
ルスラーンくんはでっかいシベリアンハスキーみたいな感じです




