作戦会議
作戦会議
ニコラスは将軍を集め作戦会議を開いた。
「将軍各位も知っての通り、我々は非常に難しい状況にある」
ニコラスは将軍達に向けて演説をするように話した。
「まず我々の唯一の勝利の方法だが長期戦で粘り続けて敵を所望させ続ける事であった。しかしこの方法が取れなくなった」
彼は机に置かれた地図、ユーロ=ルーシーの極東部に指を指した。
「各国が要人保護を名目としてヅィベリエンを我が国から奪わんとしており、既にヴラジヴォーストカを失陥している。我が軍は長期戦を行えるだけの時間を失ったと言うわけだ」
「だから我々がやるべきは黒軍に粘り、黒軍が瓦解した瞬間に赤軍を片す事だ。その為の作戦をここで立案する」
この部屋の誰もが地図を眺め、しばらく沈黙が続く。
「…ニコラス、少しいいか?」
アレクサンドルは彼を連れて一度廊下に出た。
「お前、あれはないぞ。だって何度考えても赤軍を瞬時に瓦解させる策なんて存在しないだろ」
「はい、存在しません。存在する必要もありません」
ニコラスの回答にアレクサンドルは首を傾げた。弟の言葉の意味がわからなかったのだ。
「アレクサンドル兄、一撃革命論と二撃革命論にいつて貴方は知っている筈です」
アレクサンドルはその言葉でニコラスが何をしようとしているのか察した。
「退位か、なるほど。確かにそれであれば、しかし…いや、カーメネフ伯を使うのか。それならば、ありかもしれない」
ラスアジィンニコフの提唱した分配される社会の構築法は王政が資本家を打ち倒し、資本家を労働者が打ち倒すという手順を踏んでいる。これが二撃革命論であり、シャルージェらが言っている一撃革命論は労働者が王政をそのまま打ち倒すと言う方法だ。
つまり、二撃革命論者の立場からすればニコラスという王政が終わったならば後は資本家の仕事でありそれで内戦は終わりという訳だ。
「はい。自らの退位を、王政の終了を条件として内戦を終結させれば二撃革命論は目的達成と満足して赤軍の戦力は半減します。そうなれば一撃革命論者も諦めますでしょうから赤軍を打ち倒す必要は無いんです。まぁ、大博打ですけどね」
「そうだな、その後に一撃革命論者が2回目の革命を起こすという可能性もあるが…しかし、私もこの方法しか思い付かないな。よく考えついたものだ」
ニコラスは口の前で人差し指を立てて少し小さな声でこう言った。
「でもこれは王党派を裏切る事になりますからくれぐれも内密に」
「わかっている、そんな事くらいな」
二人は部屋に戻る。部屋では将軍たちはボソボソと喋りながら模擬戦を行いつつ作戦を立案していた。
「どうなりそうだ?」
「はい、ニコラス様。まず前提として赤軍を早期に終わらせるとなると黒軍との勝利時、黒軍の領地の奥地を占領していなければなりません。具体的に言うとカノンノフグラード近辺までです。ですがこれをするには黒軍の前線が厚すぎて不可能で御座います。よってカノンノフグラードの前線を薄くする必要があります。その為には敵を南に誘引させるのが効果的であると考えます」
ミハイル将軍の言葉を例えるとすれば回転ドアである。つまりこちらも敵の奥地に入れるが向こうもこちらの奥地に入れると言う訳だ。
「なるほど。では肝心な点は我が軍がカノンノフグラード近辺に攻め入る頃、敵の前線は何処にあるのかと言う事だな」
将軍は地図に線を描いた。その線は大河川に沿って描いてあり、そしてチェルーシクスカヤの真上を通っていた。
「なるほどな、初動は守りつつ南に敵を誘引して薄くなった北から突破と。作戦名をつけるとしたら握り玉作戦とかになるのか?」
冗談混じりにそう言ったニコラスにアレクサンドルは一度自分の顔を叩いてからこう言った。
「逆巻きタイフーン指令だ、これで行こう。こっちの方が規模感が伝わるからな」
その日は作戦の詳細を詰める為に徹夜で会議室に篭った。
朝焼けの頃、将軍たちは2日目に備えて床で倒れるように眠ってしまった。黒軍に勝つ策はあれど赤軍に勝つ策が見つからなかったのだ。だから赤軍に勝つ必要がないと知っている二人以外は神の策を組む為の過酷な頭脳労働の中に倒れた。
「アレクサンドル兄、少し外で話しませんか?」
兄にそう誘った彼の眼の下には僅かな隈があった。なんで隈あるのにその隈すら彼の美しさを引き立てるものになってるんだ?アレクサンドルはそう思った。
「屋上でいいか」
二人はチェルーシクスカヤ政府庁舎の屋上で六月の微風を浴びる。茜色の斜光が眩しくて目が眩みそうだなと同時に考えていた。
「なぁ、お前はどっちを選ぶんだ?南か、北か」
ニコラスは間髪入れずに答えた。
「北です。僕はここに残るのでアレクサンドル兄には南を任せます」
北、つまり地獄の地帯戦を行うと言う宣言である。
「いいのか?」
「はい、チュロス軍団だっているしドニュープル川の川幅は1キロもあるんですよ。案外南よりも楽かもしれません」
アレクサンドルがこの言葉が強がりであると瞬時に理解した。何故なら南軍の役目は敵に作戦を悟られぬ様に熾烈な撤退戦を演じる事であり、ドニュープル川はあくまでその最終防衛ラインであるのだから最初からそこを使えると言うわけではないである。
「だからアレクサンドル兄、向こうに着いたらヨセフ兄をぶん殴ってくださいね」
「任せておけ」
しばらく朝日に照らされる家々を眺める時間が続く。数分ほど経った時、アレクサンドルは腹の底に押し込んでいて言葉を吐き出してしまった。
「なぁ、死ぬ気じゃないよな」
ニコラスは兄の言葉を笑った。
「まさか、今更死のうとなんて思ってません。でも何かの拍子に死んだらそれはそれで楽かもしれませんとは思ってます。ですから僕が死なない様に北で頑張ってくださいね」
ニコラスは嘘をついたことが殆どない。故に彼のこの言葉は全て本心であった。
実際この前某戦略ゲーでやりました。カフカースを薄くしてドニエプルまで下がって中央は戦車集中でモスクワって奴です。本来ならやる必要ないんですけど、ドイツ内戦で手こずっちゃって兵力足りなくなったせいで自然とこうなっちゃいました。




