シャルージェの憂鬱
シャルージェの憂鬱
交渉からの帰りの馬車、シャルージェはポケットから柔らかいボールを取り出した。そして彼女がそれを握るとキュッと高い音が鳴って、彼女は何度も握って音を鳴らした。
これは彼女が限界寸前までイライラした時に心を落ち着かせる為にする行動である。この握ったり離したりの動作とキュッという音が彼女に眠る猫の血に反応して彼女の心を落ち着かせてくれるのだとか。
「…魔王ヨセフの言っていたように貴方は女だ」
カーメネフ伯の言葉の後に続くのはキュッキュッという音だけだった。
「違う、私は…私は正しい判断をした。ヨセフは戦場を知っている勇猛果敢な軍人だ。だからみすみす鉄砲を多めに渡すわけにはいかなかったんだ」
「貴方の言っている事はいつもころころ変わる。革命は少人数であればこそと言っていた時だってそうだったじゃないか」
「あれは状況が変わっただけです。確かに私は革命は独占されるべきと言ったけれど、今は違うでしょう。農民が沢山死ぬのならば農民とて本能で危機を感じられて革命を矮小化しないから…」
カーメネフ伯は正気か?と思った。彼女の言葉は農民が沢山死ぬ事は好ましいと言う意味であり、それは真に思っていても口に出していい事ではない。何より人を救う為に富を分配しようとラスアジィンニコフは言ったのに、その為に大勢の人間が死ぬのは間違っているだろうと、彼は彼女が恐ろしくなった。だから彼はこう思い込む事にした。
こいつは自分は悪くないと思い込もうとしている。
「…理由をこねくり回して自分が悪くないと叫んで、はっきり言ってやる、シャルージェ。お前は稚拙だ。思想は違えどニコラス王子の方がまだマシだった」
偉大なる残骸よりも貧しい国家である。国がなくなれば元も子もない。カーメネフ伯は乗る船を間違えたと確信した。
「ならどうするんです?謀反でも起こすんですか?今の二撃論者の立場を考えれば赤軍の乗っ取りなんてできないでしょう。分裂して黒軍に踏み潰されるだけだ」
「そうですね、しかし内戦が終わった後ならば可能でしょう。これを胸に留めておいてくださいね」
彼女はしっかりとこの言葉を胸に留めた。いずれこの男は私を裏切る。そう確信したのである。
しばらく馬車は走り、街に帰ってくる。そして一行が駅に着いた時、シャルージェは駅のホームでホームレスに話しかけられた。
「嬢ちゃん嬢ちゃん」
護衛はそのホームレスを睨む。ホームレスは懐から小綺麗な髪を取り出し、意味あり気にこれをあげるよと言った。
「確認して」
護衛は彼女の命令に従い紙を確認する。そして紙を広げて彼女に見せた。
「馬鹿な人」
神を見た彼女はそう呟いた。何故ならその紙にはニコラスの筆跡でこうあったからだ。
妥協の後、小さな教会にて。
「これはゴミだね」
シャルージェは紙をその場に捨てて列車に乗った。護衛もそれに着いていくが、手癖の悪いカーメネフ伯はこっそりと紙を拾ってから列車に乗った。
ニコラスの全てを取りに行く強欲な策はこの時から始まっていたのだ。
本来一個前の話に付けておくやつでした




