ユーロ=ルーシー内戦
ユーロ=ルーシー内戦
流れる景色を横目に机の地図で二人は語る。
「ニコラス、まず目下の状況について整理しよう。第三代魔王にヨセフがなった。しかし政局は今までにない程不安定であり、このままだとユーロ=ルーシーが崩壊する。だから我々ユーロ=ルーシー白軍はルーシー南部にてお前を旗頭として蜂起しヨセフの黒軍を打ち倒す」
「だが同じことを考えてた奴は多くてな、その代表がサンクト=プトレマイオスグラードを中心として北部で蜂起したシャルージェとカーメネフ伯の赤軍だ」
「他にも独立を謳うチュロス軍団や新生修道騎士軍、ラソレイユ=キュビズム芸術協会等、こいつらは一括で青軍とする」
交戦勢力は以下の通りである。
1.カノンノフグラードを中心としてルーシー中央部に存在するヨセフの黒軍。
2.サンクト=プトレマイオスグラードを中心ルーシー北部で蜂起したシャルージェとカーメネフ伯の赤軍。
3. ユークライナのチェルーシクスカヤを中心として蜂起するニコラス第二王子の白軍。
4.主にユーロ地域に存在する独立を夢見る青軍。
「それで、どうするんです?ヨセフ兄は稀代の戦上手でしょう。尋常ならざる策がなければ…」
ニコラスが続きを言おうとした時、アレクサンドルは話を遮って語る。
「尋常ならざる策は済んだ。お前がこっちに来てくれたと言うことがそれだ。このおかげで白軍の戦力と士気が奴の想定を大きく上回ったからな」
「だとしてもです、ヨセフ兄はそれに対抗してきませんか?だって彼はマレ・ノストルム海の災厄と呼ばれた男ですよ」
馬鹿だな、しかし仕方なのない事だ、ニコラスは戦に出たことがないからな、アレクサンドルはそう思った。
「そう、そこに弱点がある。奴の戦ってきた戦場は全てマレ・ノストルム海性気候だ」
ルーシーの大地、特に黒軍が蜂起した中央部は冷たい不作の大地でありマレ・ノストルム海周辺の肥沃で温暖な大地とは全くかけ離れた場所である。
「だとするとヨセフは最初に白軍を潰そうとしませんか?だって僕らの蜂起地は黒土地帯を有していますから、食糧確保を目的として早期攻略を目指す筈です」
「そうだ。だからお前が来たことそのものがこの戦争における尋常ならざる策になると言うわけだ。黒軍にとって白軍の早期攻略は必須条件であった訳であり、それが揺らぐとなれば、な」
しかしこれで黒軍の敗北が確定した訳ではない。何故ならそれでもヨセフは戦の天才であるからである。だが逆にヨセフの勝利が未だに盤石であると言う訳でもない。何故なら黒軍は二正面作戦を強いられているのだから。
「と、なると黒軍よりも赤軍の方が脅威になりませんか?」
「いや、そうとも言えない。赤軍は工業地帯を有する事を背景に多くの武器を持つが、これまた黒軍と同じで穀倉地帯を有さない。故に長期戦に向いていない」
「…なるほど、赤軍と黒軍は両者共に長期戦が苦手と。つまり白軍が粘れば粘るほど白軍赤軍が不利になると言う事ですね?なら赤軍と黒軍にとっては不戦を結んで我々白軍の早期攻略を行うと言うのが最適解になりませんか」
「そうだ、だからお前が来てくれたおかげで両軍による苛烈な…」
今度はアレクサンドルの話を遮ってニコラスが語った。
「もう限界だと思うんですアレクサンドル兄」
「限界?」
アレクサンドルは限界の言葉が指す意味を理解していた。理解した上で疑問符をつけた。何故ならその意味が父であるカノンノフや女帝カチューシャ二世の功績を否定するという意味であったのだから。
「独立を保障して青軍と組みましょう」
「本気で言ってるのか?ユーロ=ルーシー魔王国は解体されルーシー魔王国となるんだぞ。権威も栄光も、なにより不凍港その全てを失う事になる」
「構いません。どうせ内戦の勝利後には失うものです。そうであるのならばもう手放してしまいましょう」
「お前の言っていることは正しいかもしれない。しかしお前は史上最悪の魔王になるぞ」
ニコラスにとってそんな事は瑣事に過ぎない。何故なら大人になると決めたのだから。
「いいでしょう史上最悪の魔王ニコラス、響きは悪くない。だから構いません。誰もが嫌だと言うのならば僕がその名を戴きます。僕が爆弾を爆破させます」
アレクサンドルはニコラスに魔王の器を見た。自分よりも大きな器をこの可愛い弟に見出したのだ。
「成ったな、ニコラス。お前は俺なんかよりも…」
ずっと魔王に相応しい、アレクサンドルはそう思った。何故ならアレクサンドルという男は弟を性的に見てしまうという悪癖を、見なくてはならないかった自分の本心を知りたくないから神の名の下の星戦を志した。
でも目の前のこの男、ニコラスはどうだろうか。ニコラスはただ現実を見ている。自身の名誉を犠牲にしてもいいと考えている。アレクサンドルなどという男よりもよっぽど相応しいとアレクサンドルが思ってしまうのも無理がないのだ。
「よし、わかった。その方向で行こう。新生修道騎士団にはロコソフスキー総主教から話してもらうとして…」
「チュロス軍団には僕が話します。アレクサンドル兄はラソレイユ=キャビズム芸術協会に話を通してください」
「俺はキャビズムには理解が…まぁいい、勉強しておこう」
アレクサンドルは大きく身体を伸ばして緊張をほぐした。
「さて、ニコラス。飯でも食おうか」
「いいですね、でも食べさせてくださいね。僕フォークもスプーンも持てないんです」
「わかってるよ。ちなみにナンとカレーだ、お前の知らない料理だから楽しみにしていろ」
アレクサンドルは再び弟の頭を撫でた。
キャビズムはピカソの絵とかのアレです。時代設定的には1870年だから大分早い話をしているのかも?




