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女シャルージェと人殺しニコラス



 朝起きた時、ニコラスは息苦しさを覚えた。シャルージェの腕が首に巻き付いていたのである。


 「ん、ごめん。おはよう、ニコラス」


 「あぁ、おはよう」


 二人は日の出るちょうどの時間に起きた。しかし布団から出ようにも寒いのでしばらく何もせず天井を眺める時間が続いた。


 「朝ごはん食べよ」


 彼女はベットから起き上がり、台所に向かった。フライパンを温めて卵を割って目玉焼きを作る。その間彼はシーツを直したりカーテンを開けた水を用意したりしていた。王子として育てられた彼には料理なんて出来ないのである。


 「出来たよ」


 ベーコンと目玉焼きと2枚の小さなパン。スタンダードな朝食である。


 「ありがとう」


 彼は一度感謝をしてから席に着き、いつものように目玉焼きを割ろうとした。

 しかし割れなかった。昨日の時と同じくフォークを持ったまま硬直してしまったのである。


 「ごめん、シャルージェ。またお願いしてもいいかな。しばらくはご飯すら一人じゃ食べれないみたいだ」


 「仕方ないね」


 鋭い鉄のフォークが目玉焼きの薄膜を突き破り、黄身の層を突き抜けてコツンと硬い皿にぶつかった。水脹れを潰した時のように黄身がどろっと溢れ出し、膜の上を走る。やがて膜は上に乗っている鼻水のような黄色に耐えられなくなり、中の黄色を押し出して崩壊した。彼はその光景を眺めながらゆっくりと唾を飲み込んだ。胃から溢れ出そうなものを胃の中に留めて置きたかったのである。


 「ん、口開けてよ」


 先が黄色くなったパンから黄色い滴が落ちる。ゆっくりと落ちて、机で弾ける。その時、彼は苦しさを覚え矢継ぎ早に息を吸った。


 「…はぁ、なんか…息してなかった、ごめん」


 謝罪の後に目の前のパンを食べる。やはり飯の味はどのような時でも変わらないようで、彼はこのパンを夕飯と同じく純粋に美味しいなと感じた。


 「ありがとう、シャルージェ」


 二人は朝食を食べ終わった後、外出の準備をする事にした。


 「服出しといたよ」


 彼女が用意した服はサラファンと呼ばれる袖のないジャンパースカートのような服であった。


 「男服だと目立ちすぎるからさ、あとこれ」


 彼女は包帯を持って彼の顔にぐるぐる巻いて顔を隠した。


 「王子ニコラスは美しくて有名だから顔隠さないと。火傷したって設定で」


 「わかったよ」


 二人はアパートから出てカノンノフグラードの街に出た。

 褐色宮殿を中心として蛇行する川に沿って建設された夏の首都、カノンノフグラード。カチューシャ宮殿のあるサンクト=プトレマイオスグラードをユーロ=ルーシーの脳味噌としたら、カノンノフグラードはユーロ=ルーシーの心臓である。


 「ネズミ食ってる…」


 立ち並ぶ赤煉瓦の家々、その隙間。彼はその隙間に座ってネズミを齧っている浮浪者を見つけた。


 「どこもこんなもんだよ」


 ニコラスも頭の中では理解していた。この国は豊かではないし、あんな風になっている人だっている。しかし彼は実物を見たことがなかったし、何より宮殿での生活は豪勢豊か、聞く話題はどの菓子が美味いやら誰の絵が美味いやら、あるいはどの国に勝ったとか、つまり貧しさとは縁もゆかりもない話ばかりだった。だから実物を見て抱いた感想が信じられないというものだったのである。


 「どうしてなんだろう、シャルージェ。どうしてこんなにもこの国には金が足りないんだろう。父上は沢山勝ったのに」


 「そうだね。魔王カノンノフがこの大地を知らなかったからじゃないかな」


 「父上が大地を知らなかった?」


 「うん。魔王カノンノフはこの国の大地が普通の国と同じだと思っちゃったんじゃないかな。だから沢山戦争をやって金を強奪すれば経済が回ると思ったんだと思う」


 「それじゃいけなかったって事か」


 「そうだね、彼は最初にこの国の寒さを解決する方向に舵を切るべきだった」


 彼には彼女の言ってる事がわからなった。特にこの国の寒さを解決するという部分が彼にはわからなかった。


 「つまり、どういうこと?」


 彼は自分の言葉を恥じた。何故なら包帯越しにもわかってしまうほど馬鹿面をしていると分かってしまうほど馬鹿らしく声色だったからだ。


 「それはこれから行く所が教えてくれるよ」


 二人はしばらく歩いてある酒場に辿り着いた。ひっそりとしていた外見とは裏腹、結構な人数が店に居り、にも関わらず全くと言っていいほどうるさくなかった。そしてそこでは酒場という場所には似つかわしくないほど高尚な、あるいは高尚に見える議論が行われていた。


 「ラスアジィンニコフ氏の方法では遅過ぎる。革命は一撃において行われなくてはならない」


 「逆だ早過ぎる。革命による一撃では王制時代もブルジョワ時代の残穢を消し去ることはできない。革命とは二段階によって行われるべきだ」


 ニコラスは彼らの議論を聞いていた。しかし何もわからなかった。だからシャルージェと同じ席に座り、彼女に聞いた。


 「彼らが何言ってるかわからない。ラスアジィンニコフの市場論経済批判を元に喋ってるんだろうけど、いまいちわからないんだ」


 「貴方はわからなくていいんじゃないかな、どうせ貴方には関係のないことだ」


 一撃革命論も二撃革命論も、それは王政が打ち倒されてからの話だ。だから王政であるニコラスには関係のない事であると彼女は判断した。


 「貴方に知ってて欲しいのは私の目的についてって事。これを話すにはお酒が必要だからちょっと待ってね」


 彼女は店主に赤ワインを二つ注文する。しばらくして注文の赤ワインが運ばれてきた。彼女はそれを一気に飲んで少し頬を赤くする。


 「私はお酒入ると馬鹿になる。逆にお酒を飲まないと馬鹿になれなくて、取り繕っちゃって本音言えなくなっちゃう。だからお酒を入れるね」


 もう入ってるだろ、彼はそう思った。


 「まずさっきの、この国の寒さを解決する方向について答えておこうか。これは多分、富の分配とユーロ=ルーシーの権力プラスユーロ=ルーシー全土の電化で解決できると考えているんだ。その為には、わかるでしょ?」


 彼は彼女の言葉よく咀嚼して答えた。


 「つまり、王政から権力を剥奪する必要があるって事か」


 彼女はもう一度赤ワインをもう一度飲み干してから答えた。さっきよりも頬は赤くなっているし汗だってかいていた。


 「そう、そうしたらニコラス、貴方は死ぬ。でも私は死んでほしくない。私が革命家シャルージェである為に貴方が必要だから。だから私は…」


 一度下を見た後、彼女は答えた。


 「だから私は、貴方を死ぬまで閉じ込める。いい感じの家を建てて軟禁する。これが私のやりたい事」


 彼は驚かなかった。何故ならそれでもいいと彼は思っていたからだ。


 「そうか、そうだね。閉じ込められるのは嫌だけど、人を殺しんだから罰として受けるのはいいかもしれない、いや違うな。こんなものが僕の罰になるのか。僕は少しだけ、少しだけ嫌だな。いっそのことヅィベリエンにでも送って欲しいくらいだ」


 彼女は彼の手を掴み、赤らんだ頬のまま興奮して話す。


 「なら私が貴方を罰してあげる。それでいいでしょ?魅力的でしょう?そもそも何故貴方は自分に選択肢があると思っているのさ、自分でご飯も食べれない癖に。だからついてきてね、サンクト=プトレマイオスグラードまでさ、うっかり殺されない為に」


 それが自分の正しい道なのかもしれない。ニコラスがそう思い始めたその時、酒場の扉が大きな音を建てて開いた。そしてそこに居たのは蛇の目を持った長身の美男子だった。

 彼は振り向く彼らを気にせず大きな音を立てて歩いて、ニコラスの肩を掴んだ。


 「お兄ちゃんだ、帰るぞ」


 ニコラスは何度も聞いた兄の声、アレクサンドルの声に一瞬びっくりして、そして少しだけ笑った。


 「いやです。人殺しなんですよ、僕」


 「黙れ、お兄ちゃん命令だ」

プロットないせいでヤンデレ革命家とかいうあり得ない属性誕生しちゃった

あと終わり方はギャグ漫画みたいな終わり方にする予定なので安心して見てってくださいね

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