囚われの姫君
囚われの姫君
ヨセフの戴冠式から一週間後、褐色宮殿のチェルーヌイ宮殿の3階、ニコラスは自分の部屋に軟禁されていた。
葡萄酒が喉を潤す。しかしニコラスにはその葡萄酒の味について美味しい以外の感想を抱けない。何故ならニコラスは食に興味がないし、何より今は彼には葡萄酒の甘美さを語るだけの元気がない。
彼はただペットで座って、それだけである。
幾度も繰り返した内省がまた始まる。
どうすれば良いんだ、僕は。
まず魔王が死んで、次の魔王は誰となった時、アレクサンドル兄は世界征服と神話の再現によって神への信仰を呼び起こそうなんて言ってた。僕はそれを容認できなった。だってそれはきっと、よくない事だと思うし、何より不信心の悪霊はこの寒く陰鬱なユーロ=ルーシーの地に良く馴染むから、彼のやることに意味を感じれなかったんだ。
だからそれを止めれる為にアレクサンドル兄を叩き落とした。
その結果がこれだ。今度はヨセフ兄が不信心の悪霊と万人の闘争を引き連れて僕を閉じ込めた。
僕はヨセフ兄の世界を容認できない。確かに弱者は邪魔だ、でも自然界がそうであるように構造として強者よりも弱者の方が強い。なにより弱者がいなければ強者は食うことすらままならないじゃないか。だから容認できないんだ、善悪とか神の存在の必要性とかを論じる前に、そもそも構造として破綻しているから。
でも僕にこれを止める手立てはあるのだろうか。思いつくとすれば、今すぐここを脱出してサンクト=プトレマイオスグラードかキーイグラードで軍を起こしてなんとか戦上手のヨセフを崩す事だが…それが僕にできるのか?
そもそもどうやってここを脱出するんだ。外には見張がいて、街から出ようにも絶対にどこかで引っ掛かる。
どうしてこうなったんだろう、僕の何がいけなかったんだろう。なんで僕はヨセフ兄さんのことを理解できなかったんだ。
いや、違う、ヨセフ兄だけじゃない。僕は誰のことも理解してなかった。だって母上の本心だって母上から聞かされたアレクサンドル兄の本心だって僕は知らなかったじゃないか。だから僕は誰も知らないんだ。
じゃあなんで僕は誰のことも知らないんだ?
誰も僕に教えてくれなかったから?違う、そんなの当たり前だ。誰だって本心は隠すだろ、それが礼儀だから。
じゃあなんでだ?僕が馬鹿だったからか?違う、僕が馬鹿ならみんな馬鹿だ。だって僕は普通よりは頭いいはずだし、王子として最高級の教育を受けていた。
なら残った答えは一つじゃないか、僕自身の怠惰じゃないか。僕が他人を慮らないから、いや、他者に対して興味を持てなかったからこうなってしまったんじゃないか。
じゃあどうして?どうして僕は他人に興味を持てなかったんだ?
わからない、なんで僕が自分が他人に興味を持てなかったのかわからない。ならなんで他人に興味を持てないと知っていて、シャルージェを好きになれたんだ?
わからない、わからない。自分のことなのに、僕は自分のことも何もわからないのか。
だからだ、だからなんだ。やっとわかった、僕がヨセフ兄もアレクサンドル兄も、全ての人がわからなかった、わからなかった事にすらわからなくて、なんでわからなかったのかすらわからなかったのか。
僕は、自分にすら興味がなかったんだ。そりゃ、そうだよな、自分にすら興味がない奴が自分の存在を介在して初めて見える世界に、他人というものに興味を抱けないのは当然だ。
あぁ、気付いてしまった。僕と言う存在は酷く空っぽで何も無いんだな。
だとしたら空っぽな僕から産み出されるものは上辺だけ取り繕ったペラッペラで薄い紙みたいな物なんじゃないのか。だって僕と言う存在が面のいいだけの何も無い人間なのだから。
お人形なんだな、俺。
「…でもそれが、ヨセフ兄の世界を容認する理由にはならないはずだ」
だからもう一度善く生きたい。多分これは、初めて僕が心の底からそう思えた事だと思うから。その為には他人というものに、自分というものに興味を持たなくてはならない。
「…例え、本当に僕が空っぽだとしても」
ニコラスがそう願った時、部屋のドアが開いた。
「ニコラス王子、どうかこちらに」
そこには一人の貴族が居た。彼と踊ったあの辺境伯の青年だった。
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