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征服者、闘争の魔王カノンノフの息子

 征服者、闘争の魔王カノンノフの息子


 カノンノフグラードの褐色宮殿とは、いわば複数の宮殿が集合した城砦である。またユーロ=ルーシー魔王国において最も偉大で壮大なる建築物であり、ユーロ=ルーシーで最も偉大なる御身体を埋葬するに相応しい場所である。よって急遽褐色宮殿に新たな建物が建設された。それがこのカノンノフ廟である。

 ヨセフはカノンノフ廟の中央、イコーナに見下ろされ花と黄金に包まれながら眠る星カノンノフ・ヴラジーニノヴナ・ロマリクの不朽体を眺めている。


 「死んだんだな」


 カノンノフの不朽体は防腐処理と暖色の光源の関係でまるで生前のような肌の明るさをしている。ヨセフはその明るさに、生者のような肌の暖かさに嫌悪感を抱いた。


 「くっ…はははっ、面白い、実に面白いぜ、全く貴方は最高だ、父上」


 ヨセフは懐から一冊の本を取り出した。題目は拝火によって我は語れり、著者はラスアジィンニコフであり、生前カノンノフが愛読していた本だ。そしてこの本こそ彼にとってのラスアジィンニコフでロコソフスキーである。


 「あんた言ったよな、この本でさ、神はいないって。だから天国に行くための生き方ではなく、自分の人生を何度経験しても良いと思える生き方をするべきだと、その結果がこれか。あんたは他者と国家の為に生きて星人として天国に召された事になった。まったく、笑わせてくれる。

 そか、あんたは神から逃れたが責任からは逃れられなかった。だから自分の血を恨んだのか。俺ならそんなヘマはしないのに」


 幼き日、彼は征服者としての父の背中を見てそれに憧れた。そして彼の愛読書を手に取って世界の色を知り、彼の中である信念が産まれた。それが自分が面白いと思えることで世界を埋め尽くそうという信念である。


 「今すぐぶん殴ってもう一度殺してやりたいぜ」


 ヨセフはこう考えた。


 この本に書かれている信念をカノンノフが愛していたのであれば、その最後はカノンノフの望む所ではない。むしろ遺体を著しく損壊させたり辱められた方がマシと言うだろう。何故ならこの本によれば死後やら復活やらを信じる事即ち弱さの証であり、人は今生の為に生きるべきでありそれこそが強さであるのだから。


 しかしこの彼の思考はカノンノフが心の底からラスアジィンニコフの本に書かれていることを信じていた、という前提のもと組み立てられているものに過ぎない。でも彼はそれでも良いと考えていたし、例えここで本人が生き返ってきてあんな本はクソ喰らえと言ったとしても、本の内容こそカノンノフの愛した信念であると言い切ってやると考えていた。何故なら彼にとってその方が面白いのだから。


 「よぉ、ニコラス」


 しばらく自らの父を眺めていた時、いつのまにか憎たらしい程可愛い弟が隣にいた。


 「なんか、雰囲気違いますね、ヨセフ兄」


 ニコラスはいつもと違う兄の声色に少し驚いた。


 「さて、今後のことについて話そうか、ニコラス」


 兄弟が向き合う。獅子の瞳と猫の瞳が向き合う。いつもと違うのは獅子の瞳がまるで捕食者の目をしていることだろう、カテリーナやアレクサンドルがしていたような目だ。


 「まずお前には俺のペットになってもらう」


 「はい。はい?…はぁ!?」


 ヨセフは突然ニコラスを強く抱きしめた。


 「やっとだ、やっと俺の物になったな、ニコラス。10年も演技した甲斐があったってもんだ」


 獅子の瞳から滴る涙がニコラスの頬を濡らした。


 「何を言ってるんです?ヨセフ兄」


 ニコラスは何も理解できなかった。ヨセフがギラギラとした眼差しで自分を見ている理由も自分の右肩と臀部が千切れそうなほど強く掴まれている理由も。


 「説明いるか?いや、いるか。じゃあ説明してやろうか、はははっ」


 抱擁を解き、ヨセフは天を仰ぐ。そしてカノンノフの一度睨んでからニコラスに向き直り話し始めた。


 「まず前提として俺はお前とかアレクサンドルみてぇな、神とか善だとか悪だとか、そういう話はわからねぇし、めんどくさいから考えたくもねぇ。次に俺はわからない話をされるとムカつく。だから俺はお前らを殴る」


 「な、何言ってんです?」


 「次に俺はお前が好き。何故なら顔がエロいから。だからお前は俺のペット。わかったか?」


 ニコラスはまだ何も分からなかった。何故この男は、兄は自分のことをペットと言っているのか、何故こんな自信満々に笑っているのか。


 「分からない、貴方の言っていることは何も分からない」


 ヨセフは一度顎に手を当て、しばらく思考を纏めてから口を開いた。


 「そうか、じゃあお前ら流に話してやるか、俺は頭がいいからな」


 ヨセフはニコラスの小さな顎を大きな手で掴み上にあげた。


 「まずさっきも言ったようにな、神とか善悪の話とか、ユーロだとか経済だとか、そんな話はわからねぇし気に入られねぇ、だからゴミ箱にポイだ」


 「…つまりどういうことなんです?」


 ヨセフは呆れて大きくため息を吐いた。


 「まだ分からないのか、馬鹿だなぁ。もっとわかりやすく言ってやる。殴りたい奴がいたら殴って眠くなったら寝る、交尾したい時に交尾して腹が空いたら食う俺はそんな世界を創りたい」


 ここにきてニコラスはやっとヨセフという人間がカテリーナとカノンノフの子であると理解した。


 「‥確かに素晴らしいかもしれませんね。自己の安全が保障されていない事を除けば」


 「そこが良いんだろ。お前のような生意気で可愛い奴を殴って犯せる」


 「理解できない。弱者が幸いである為の社会だ、その為のユーロ=ルーシー魔王国だ。その為の魔王だ。なのにヨセフ兄、貴方は…」


 ヨセフはニコラスの頬を引っ叩いた。


 「俺は自分が面白いと思う事をやる。魔王という地位が、あるいはユーロ=ルーシーが邪魔になるならばぶち壊すだけだ」


 「じゃああんたはこの国から逃げちまえばいいじゃないか、というかそもそも王位継承権を破棄するんだからもう関係ないだろ」


 ヨセフはニコラスをもう一度引っ叩いた。彼は頬を抑えて涙目となり、ヨセフはその顔に少し頬を赤らめる。


 「やっぱ馬鹿だ、俺は言ったよな、あるいはユーロ=ルーシーがって。ユーロ=ルーシー魔王国は存在自体が気に食わないんだな。だからぶっ壊す。何より俺はユーロもルーシーも好きだからな、沢山国があった方がいい。具体的には100個くらいかな。だってあの修道士を言ってたじゃねぇか、国家は分割せよって、あれ、言ってないか?」


 「理解できない、全く理解できない!アレクサンドルの方がまだマシだったぞ!」


 「そうか、別に理解して欲しいなんて思ってなかったから良い。さて」


 ヨセフは2回手を叩く。すると深い帽子を被って黒いコートを着た連中がカノンノフ廟に入ってきた。そして彼らは拳銃を取り出し、ニコラスに向けた。


 「お前を魔王暗殺幇助犯及び王妃暗殺犯の犯人として閉じ込める。そしたらアレクサンドルは焦って兵を起こすだろうな、正統性を失ってるとはいえ、軍部独裁を認められないって連中は多いから。そうなればシャルージェとかいう奴の赤軍とやらも蜂起するだろう。ルーシーがいっぱい増えてくれて嬉しいよ」


 黒コートはニコラスを拘束し床に抑えつける。


 「こんな事、許されるものか…」


 ニコラスは強くヨセフを睨んだ。だが彼の非力な力では黒コートの連中を振り解く事はできなかった。


 「あ、そうだ。これ言わなくちゃな。どうせお前はもうわかってるだろうが、魔王に毒盛ったのも母上殺したのも俺だ」


 ヨセフは新たな世界の形を垣間見て口角が上がった。彼が欲しているのは、強者が何をもにも縛られない弱肉強食の世界なのである。そこには弱き人を守る神も強者のリソースを貪る社会も存在しない。ただ、圧倒的な力だけが存在する、最も自然な世界である。

悪の激キモお兄ちゃんです


一応設定として、ヨセフのユーロ=ルーシーのモデルはウクライナ自由地区です。でもヨセフ自身はそれよりももっと過激な、原始時代のような無政府主義を望んでるって感じですかね

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