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カノンノフグラードへ

 カノンノフグラードへ


 ユーロ=ルーシー魔王国は巨大な国だ。それはもう、あのモルゴリア帝国やアルビオン帝国と比べても見劣りしないくらいには。でもそうなったのはここ近年のこと、魔王カノンノフによる急激な拡大政策による物だ。だからこそ、ユーロ=ルーシーの政治力が支配地域に追い付けなくなってしまった。

 そしてそれを解決する苦肉の策こそがこれである。

 冬はユーロ地域に近いサンクト=プトレマイオスグラードでユーロ地域中心の政治を行い、夏は旧モスコーヴィエンであるカノンノフグラードに移ってルーシー地域中心の政治を行う。

 という訳で魔王一家と大臣たちはカノンノフグラード行きの専用の列車に揺られている。


 「私が思うにです、カーメネフ伯」


 ニコラスは流れる景色と高級ステーキを前にして経済大臣と今後について議論をしている。


 「大帝国が大帝国たり続ける条件というのは、持ち得る領土に値する拘束力を持っているか、という点にあります。ではこの拘束力について考えますと、それは経済力と権威、そして凡ゆる存在の移動速度であると考えています」


 カーメネフ伯は金の無精髭を触りながら碧眼を鋭く輝かせる。


 「凡ゆる存在の移動速度。凡ゆる存在、つまり信仰も物体も金も全てを含むということですか。それらが迅速に移動し入り混じったならば大帝国内における一つの地域が他の地域と混じり合って単一となり、地域がそれ一つの地域として、国としてやっていけないから大帝国は大帝国たり続けれると、そういう認識で間違いありませんか?」


 「やはり貴方は優秀だ、私よりもずっと。あぁ、すいません、話を戻しましょう。それで私が思うにこの大帝国、ユーロ=ルーシー魔王国が大帝国たり続けるには三つのうち二つ、経済力と凡ゆる存在の移動速度が不足しており、前者においては国民を含めてた我々の弛まぬ努力により解決できましょうが、後者に関しては絶対的に不可能なのではないかと、そう思うのです」


 「絶対的に、ですか」


 「はい、絶対的にです。何故なら地域間の完全なる合一には他の地域の情報と金が瞬時に混じり合わなくてはならない。つまり瞬間移動でも開発されない限り不可能なのです。鉄道の置換で四苦八苦言ってる我々には到底できないでしょう。そしてカーメネフ伯、それは貴方とて理解していることなはずです」


 カーメネフ伯はニヤリと笑う。彼はニコラスの心中を、ユーロ=ルーシー魔王国の諸問題の最も平和的な解決方法を察したのである。


 「なるほど。しかし貴方の描くそれは諸国にとっては喜ばしいことかもしれないが、ユーロ=ルーシー、いや"ルーシー魔王国"の人々にとってとても屈辱的な事だ。おそらく貴方は歴代で最悪の魔王になる」


 「この国は巨大化する爆弾だ。誰も爆発させたがらないのなら、今のうちに私が爆発させてやる」


 カーメネフ伯はニコラスに王の器を見た。征服の魔王カノンノフや神話時代の再臨を目論んでいたアレクサンドルとはまるで違った自己犠牲の王の器だった。


 「ならばこのカーメネフ、然るべき時とならば貴方と共に罵倒されましょう」


 「感謝致します、カーメネフ伯」


 ニコラスの魔性の人たらしは政治面においても有効であり、カーメネフ伯はころっとその魔性に取り憑かれてしまった。


 「しかしニコラス王子、目下の問題としてニコラス王子がどう魔王になるのかという点が御座います」


 「その点についてですがももう解決しております。まず魔王暗殺の犯人、正確には幇助犯の件ですが…こちらを」


 ニコラスはあの古ぼけた手帳をカーメネフ伯に渡した。


 「なるほど。犯人はあの似非祈祷師と王妃、そしてあと一名ですか。似非祈祷師に全部押し付ければ解決できそうですね。で、次の問題…王位継承順についてですね」


 ヨセフの王位継承順位は第一位でニコラスは第二位、つまり順当にやればニコラスの治世はヨセフが崩御した後になる。つまり40年後くらいだ。


 「それについても解決済みです。ヨセフ兄は王位継承権を破棄すると」


 「なるほど。つまり二つですか。ヨセフ王子が貴方に嘘をついていない、貴方が毒殺したと決定的な証拠が見つからない、この条件ですね」


 カーメネフ伯は景色を見ながらただ金の無精髭を触る。


 「後者に関しては絶対にないと保証できます。何故なら私は毒殺をしてないので決定的な証拠は作れません」


 しばしの沈黙が続いた後、カーメネフ伯は自身の方針を決めた。


 「然るべき時とならば貴方と共に罵倒されましょう、私からはこれが限界ですね」


 それは全面的に協力はしないがニコラスの勝利が確定したら協力を惜しまないという回答だった。


 「それだけでもありがたいのです、カーメネフ伯。重ねて感謝申し上げます」


 話が終わりニコラスは高級ステーキを口に入れた。噛んだ瞬間に芳醇な肉汁が溢れ出し、僅かに甘いような肉の味が舌を包む。さすがは高級ステーキと思ったが、噛んでるうちにニコラスはこう思ってしまった。


 なんか噛むの疲れたな。


 ニコラスの顎は周りと比べて細くて力が無い。だからあまりに硬い肉は嫌いだった。


 「いい肉ですな、流石はユーロの地の牛だ。ルーシーの牛と違って程よい硬さで尚且つ美味い。ニコラス王子もそう思いませんか?」


 「味はすごくいいんですけど、その恥ずかしながら…硬くて」


 ニコラスは顎を触りながら笑った。カーメネフ伯は自然とか弱い生物を見ているような感情を抱いてしまった。そしてそれについてこう考察する。


 初代魔王こと女帝カチューシャ二世もこのような人物だったのかもしれない。故に女でありながらルーシーを近代化しユーロ進出の足掛かりを築けたのだろう。


 「ニコラス王子!ニコラス王子!」


 彼らが食事している最中、ニコラスの召使いがニコラスの元に駆け寄った。そして彼女はニコラスの耳に口を近づけてこう囁いた。


 「カテリーナ様が…とにかく着いてきてください、重大事なんです」


 「すぐに行こう」

サンクト=プトレマイオスグラードのモデルはサンクトペテルブルグでカノンノフグラードのモデルはモスクワです

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