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女シャルージェ・ウリヤノフについて

 女シャルージェ・ウリヤノフについて


 シャルージェの短い夢、あるいは2年前のことだ。彼女は自分の産みの親が、兄様から父親を奪った後、私が生まれると知って離婚した悪辣漢、自分の家族を壊したラスアジィンニコフという男がどんな男なのか気になって彼の居る小さな教会へ向かった。

 教会に入るとまず目立ったていたのはそのイコーナだ。所々破れていて、とても良いものとは思えなかった。そこで彼女はそれを話題として、そこに居た神父に、父に話を振った。


 「神父様、失礼ながら…このイコーナ。破けてるんですけど大丈夫なんですか?」


 「はい、イコーナは窓に過ぎません。割れた窓ガラスを見てその先にある世界が割れていると考える人は少ないでしょう」


 「しかし割れた窓ガラスに接吻をすれば唇が傷付きませんか」


 男は彼女の隣に立ち、一緒彼女の唇を眺める。その山羊の瞳に彼女は内心身の毛のよだつ感覚を覚えた。


 「そうですね、でも美しくありませんか?」


 「何がです?」


 「姿勢で御座います。自分の唇が切れてしまうと知りながら愛を証明する姿勢です」


 彼女は母親と同じ瞳を男に向ける。しかし、男はむしろうっとりとしたようなギラギラした熱い瞳を向けてきた。


 「私にはわかりかねます。むしろア=ステラ様程の慈悲深いお方ならば、信仰を貫く為に身体を損なうという行為を愚かと思う筈です」


 「私も同意見です、でも私が言っているのは星教的正しさではないのです。私は姿勢自体を神父としてではなく、人間として美しいと思うのです。何故なら理性による暴走というのは人間にしかできない、最も人間たる行為だと私は思うので」


 その時、ある少年が小さな教会に入ってきた。シャルージェはその少年、ニコラスを一目見てこう思った。


 なんて綺麗な少女なんだろう。


 「振られたのか?珍しいじゃないか」


 「趣味が悪いですね、ニコラス坊や。どこから見てたんですか?」


 「最初からさ」


 その後、二人はしばしば談笑をした。彼女が彼であると知ったのは、友人になって二ヶ月経った頃であった。


 「え、男だったの!?」


 今日、彼女は友人として王子の家であるカチューシャ宮殿の彼の部屋に呼ばれていた。


 「そんなに驚くことか?」


 彼女はニコラスについて、声は少しだけ低いが、それでも声も容姿も女そのものと感じていた。


 「じゃあその髪は何なの?」


 彼は髪を触りながら答えた。


 「召使いがどうしてもっていうからさ」


 「それで許しちゃうの?威信とか威厳とか、見た目って大事じゃなくて?」


 「そうなんだけどさ、その召使い、2年前に娘を亡くしたみたいでさ。多分、僕に娘の面影を見てるんだと思う。それで言いにくくってさ」


 「…ちょっとごめんね」


 彼女は彼のクラバットをめくって首元を触った。そして小さくて固い何かを触った時、彼は少し声を溢した。


 「本当に男なの?」


 「だから男だって」


 彼女は感覚としては信じられなかったが、一先ず彼を男として認識することにした。


 「そう、そうね。まぁ良いか、別に貴方が男でも何も変わらな…いや、ちょっとお願いがあるんだけどさ」


 「私が良いって言うまでされるがままにされてくんない?」


 「構わないよ、好きにしてくれ」


 彼女はポーチから化粧道具一式を取り出した。


 「その色、僕に合うのか?」


 「ベースは薄い方が似合うよ元々の顔がいいから」


 彼女は母親のこともあって、女でありながら女が嫌いだった。だから自分の女として欲求、つまり美しくなりたいという野生の欲求を忌避している。でも彼女は理性で野生を封じ込められる程出来た人ではない。


 「そうなのか?」


 だから彼女は自分の女としての欲求を彼に預ける事にした。何故なら彼が受け入れる欲求という、言うなれば野生的な女の欲求を持っていた事を本能で嗅ぎ取ったからだ。そうであるのならば、自分の野生的な欲求をこの男に叶えてもらおう、そうすれば自分から女である自分を切り離すことが出来る、彼女はそう考えたのである。


 「アイメイクは薄くていいや、なんか私より目大きくて嫌だな」


 しかし彼女は彼の存在を思い違えていた。彼は女のようであったが、現実として男だ。だからこのように肌を触れ合って、熱を交換していく内に彼女は彼を愛してしまった。彼の持つ全てを受け入れる冷たく果てしないユーロ=ルーシーの大地のような女性的星なる力は彼女の失ってしまった星教的大地信仰に似ていたのである。

 それが一年前のことだ。

 ある日、カチューシャ宮殿に向かう時自分の足が速くなっている事に気付いた。


 「これじゃお母様と同じだ」


 固い雪の上、彼女は自分の野生的な欲求に自覚した。足が止まり、その場に膝を付いた。そして雪を頭に被りながら彼女はこう思考した。


 これでは同じではないか、自分の母親と。自分は崇高なる理想の為に女を、野生を捨てた筈だ、あんな穢らわしくて悍ましいものは捨てたんだ。なのに私はニコラスを愛してしまっている。やはり私は女で、あの人の、あの女の子供なんだ。


 彼女はもう、どうすればいいのかわからなかった。

下品な話じゃないんですけど、男という性は欲求を吐き出すもの(射精)であり、女という性は吐き出されたものを受け入れるものであると考えています。そう考えるとこの二人の関係性は女の姓を持った男と男の性を持った女って事になるのかもしれません。


あとほしなるって描いてるんですけど、意味合いとしては聖なるって感じで構いません。


星教の星について


星教において天国とは遥か空の彼方の中心、全ての落ちる場所、大穴の川で魂を解体されて至る所であるので、星の煌めきとは天国への道標なのです。


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