えっ?ただのゴミ拾いなのに、こんなに貰っていいんですか? ~ポイ活スキルで換金したら、日給が国家予算を超えそうなんですが~
ダンジョンのゴミを拾うだけの底辺職、清掃員。 そんなおっさんが、ある日突然「50億ポイント」を手にして無双する話です。
面倒な修行は一切なし。 貯まったポイントで「殴る」だけの、スカッとする短編をどうぞ。
「おいゴミおじさん、そこ邪魔。俺たちの戦利品踏むなよ?」 「……すみません、すぐに片付けますんで」
俺はヘラヘラと愛想笑いを浮かべながら、湿ったダンジョンの床を這いつくばる。 俺の名前は田中、42歳。職業はダンジョン清掃員だ。 冒険者たちが派手にモンスターを狩った後、散らばった「金にならないゴミ」――スライムの粘液やら、魔獣のフンやら――を回収して、ダンジョンの環境を保全するのが仕事だ。
日給は8,000円。 腰は痛いし、ダンジョンの湿気で膝も痛む。 それでも、20年間休まず続けてきた。 別に高尚な理由じゃない。「これくらいしか能がない」と思っていたし、何より俺は、汚れた場所が綺麗になる瞬間に、少しだけ救われたような気分になる性分だったのだ。
「よし、このエリアの浄化完了……っと」
最後のゴミを袋に詰め、いつものように床を磨き上げた、その時だった。 ポケットに入れていたボロいスマホが、突如として甲高い咆哮をあげた。
――キュイン、キュキュキュキュイーーーン!!!
「うおっ!? なんだ、警報か!?」
脳髄を貫くような高音。パトランプが光るような激しい明滅。 慌てて画面を見ると、勝手に起動したアプリに金色の文字が流れている。
『隠しワールドクエスト【ダンジョンの守り人】を達成しました』
「……は? クエスト?」
俺は冒険者じゃない。クエストなんて受けていない。だが、画面の表示は止まらない。
『達成条件:同一ダンジョンにおける清掃活動、通算7300日(20年)の継続』 『評価:SSS(欠勤なし、清掃品質・極)』
それは、誰からも評価されなかった俺の「ただの日常」だった。 だが、このダンジョンを管理するシステム(運営)だけは、俺の働きをずっと見ていたらしい。
『長きにわたる環境保全への貢献に感謝し、システムはあなたに固有スキル【ポイ活(換金・交換特権)】を付与します』 『これまでの清掃ポイントを遡って一括精算します……』
数字が、スロットのリールのように高速で回転し、バシィッ! と止まった。
獲得ポイント:5,000,000,000 pt(50億ポイント)
「……ご、ごじゅうおく?」
俺は眼鏡をずり上げ、何度も桁を数え直す。 間違いなく50億だ。 震える指で「交換」ボタンを押すと、そこには非常識なレートが並んでいた。
【交換ラインナップ(会員ランク:ゴッド)】 ・聖剣エクスカリバー:1億pt ・不老不死の霊薬:5億pt ・空中浮遊城(土地権利書付き):10億pt ・現金(日本円):1pt = 1円(即時振込)
「お城が10億……いや、高いのか安いのか分からんけど、買えるぞ……?」
俺の心臓が、早鐘を打ち始めた。 20年分のゴミ拾いが、一夜にして国家予算に化けた瞬間だった。 いや、落ち着け。これは何かの間違いかもしれない。新手のスパムアプリか?
「け、現金……とりあえず、10万ポイントだけ……」
俺は恐る恐る、『現金(日本円)』の項目をタップし、『100,000』と入力した。 決定ボタンを押す。
――ピロリン♪
軽快な電子音と共に、今度は普段使っているネット銀行のアプリから通知が来た。
『入金がありました。振込人:ダンジョン運営局』 『金額:¥100,000』 『残高:¥100,842』
「……マジだ」
膝から力が抜けて、その場にへたり込む。 残高842円だった俺の口座が、一瞬で潤った。 これは夢じゃない。俺は今、50億円を持っているのと同義だ。
「おいコラおっさん! サボってんじゃねえぞ!」
突然の怒声に、俺はビクリと肩を揺らした。 見上げると、先ほどの若手冒険者パーティーだ。リーダー格の剣士が、飲み干したポーションの空き瓶を、俺の足元に投げつけたところだった。
カラン、と乾いた音が響く。
「あーあ、手が滑っちまった。おい清掃員、仕事だぞ。ちゃんと拾えよ?」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる彼ら。 いつもなら、「すみません」と頭を下げていただろう。惨めな気持ちを押し殺して。 だが、今の俺には見える。
足元に転がる「空き瓶」の上に、ホログラムのようなウィンドウが浮かんでいるのが。
【アイテム:魔力を含んだガラス瓶】 【査定:Sランク(ゴッド会員特典適用)】 【回収ポイント:10,000 pt】
「……え?」
俺は目を疑った。 空き瓶ひとつで、1万円? いや、違う。俺の会員ランクが『ゴッド』だから、還元率がおかしいことになっているんだ。
「なんだよ、拾わねえのか? ギルドに言いつけるぞ」 「い、いえ! 拾います! 喜んで拾わせていただきます!」
俺は満面の笑みで空き瓶を拾い上げ、スマホをかざした。 シュンッ、という音と共に瓶が光の粒子になって消え、アプリのポイント残高が増える。
5,000,000,000 → 5,000,010,000 pt
「うひょ……」
思わず変な声が出た。 1秒で1万増えた。日給8000円の俺が、ゴミを拾うだけで1万円。 俺は顔を上げ、ダンジョンの床を見渡した。
そこには、冒険者たちが放置した、折れた剣、千切れた防具、モンスターの骨……無数の「ゴミ」が散らばっている。 それら全てに、【5,000 pt】【20,000 pt】【50,000 pt】という値札が付いていた。
「……宝の山だ」
俺の目にはもう、彼らが「英雄」には見えなかった。 ただの「お金をばら撒いてくれる良い人たち」にしか見えなかった。
「さて、まずはこの腰痛をなんとかするか」
ゴミ拾いで10秒ごとに1万円が入ってくる確変状態を楽しんだ後、俺はふと冷静になってショップ画面を開いた。 金があっても、体が動かなきゃ意味がない。
【身体強化オプション:全ステータス限界突破】 【価格:500,000,000 pt(5億ポイント)】
「5億……。以前なら天文学的数字だが、今の俺には資産の1割だ」
迷わず『交換』ボタンをタップする。
――ガシャーン!!(確定音)
その瞬間、全身を黄金の光が包み込んだ。 ボキボキッ! と背骨が鳴る。だが痛みはない。 鉛のように重かった腰が、羽毛のように軽い。視界はクリアになり、ダンジョンの薄暗い奥底まで見通せる。まるで、錆びついた中古車が、最新のF1エンジンに積み替わったような感覚だ。
「すげえ……。これならあと100年はゴミ拾いができるぞ」
俺がその場で軽くジャンプすると、頭が天井の岩盤にぶつかりそうになった。 身体能力までバグってしまったらしい。
その時だ。 地面が揺れた。いや、空気そのものが震えていた。
ダンジョンの奥底から、腐った肉の臭いと、鉄錆の臭いが混じった暴風が吹き荒れる。 視界を埋め尽くすのは、暴力の濁流だ。 数百、いや数千。ゴブリン、オーク、リザードマン……魔物たちが雪崩のように押し寄せてくる。 スタンピード(魔物の暴走)だ。
その中心に、一際巨大な影があった。 ジェネラル・オーク。 身長は優に5メートルを超え、全身を包む漆黒の鎧には、無数の冒険者の頭蓋骨がアクセサリーのようにぶら下がっている。 彼が手にした巨大な鉄塊が振るわれるたび、通路の壁が豆腐のように砕け散った。
「あ、あぁ……」
さっきの若手冒険者のリーダーが、腰を抜かして失禁していた。 無理もない。これは生物としての格が違う。 目の前に迫る鉄塊。死の影が彼を覆う。
――だが、その鉄塊が振り下ろされることはなかった。
「……未分別のゴミが、随分と散らばってるな」
不意に聞こえたのは、場違いなほど平坦な、おじさんの声だった。
――ガギィィィィンッ!!
耳をつんざく金属音。 リーダーが恐る恐る目を開けると、そこには信じがたい光景があった。 あの「ゴミ清掃員」の田中が、ジェネラル・オークの全力の一撃を、左手一本で止めていたのだ。 まるで、落ちてくる木の葉を摘むような、あまりに自然な動作で。
「な……!?」 「グ、ルァ……!?」
オークの喉奥から、困惑の呻きが漏れる。 ビクともしない。 田中は、5億ポイントで再構築された肉体――神話級の筋繊維と骨格――を軋ませることもなく、ただ億劫そうに溜息をついた。
「おい、デカブツ。ここは通路だぞ。そんな粗大ゴミを振り回すな」
田中の視界には、オークの顔の上に、鮮やかなAR(拡張現実)タグが浮かんでいた。
【警告:高エネルギー廃棄物(未処理)】 【種別:ジェネラル・オーク】 【査定額:50,000,000 pt】
田中にとって、目の前の怪物は「恐怖の対象」ではない。 ただの**「換金可能な資源」であり、「片付けるべきタスク」**だった。
「さて、と」
田中が軽く手首を返す。 それだけで、オークの巨体がボールのように宙に浮いた。
「分別ァッ!!」
踏み込みと共に放たれた正拳突き。 それは武術の突きではない。20年間、頑固な汚れをこそぎ落としてきた、清掃員としての「圧」だ。
――ドォォォォォンッ!!!
衝撃波がダンジョンを突き抜ける。 鋼鉄の鎧ごと腹を貫かれたオークは、悲鳴を上げる間もなく光の粒子となって弾け飛んだ。 血飛沫は一滴もない。 田中のスキルが、対象を即座に「資源データ」へと変換したからだ。
キュイン、キュキュキュキュイーーーン!!!
脳髄を溶かすような快楽物質溢れる電子音が鳴り響く。
【回収完了:50,000,000 pt】
「ふぅ……まずは一匹」
田中はスマホの画面を一瞥し、ニヤリと笑った。 その笑みを見て、残された魔物たちの群れが、一斉に後ずさる。 本能が告げていた。 目の前の男は、英雄ではない。もっと恐ろしい、**「捕食者」**だと。
「おやおや、逃げるのか?」
田中はスマホをホルスターのように構え直すと、逃げ惑う群れに向かって駆け出した。
「逃がすかよ! お前らは俺のボーナスだ!!」
そこからは、一方的な蹂躙――いや、事務的な「集金作業」だった。 殴るたびに、敵が光になって消える。 蹴るたびに、キュイン♪ という音が重なる。 キュイン! キュイン! ピロリロリン!
ダンジョンが、まるで確変中のパチンコホールのような喧騒に包まれる。 圧倒的な光と音の洪水の中で、田中は踊るようにゴミ(魔物)を処理していく。
「す、すげぇ……」
呆然と見守る若手冒険者たち。 彼らの視界には、背中に「清掃員」と書かれた作業着のおっさんが、神々しい光を纏って世界を救う姿が焼き付いていた。
数分後。 数百匹いた魔物の群れは、一匹残らず消え去っていた。
「ふぅ……。ここら一帯、ピカピカになったな」
額の汗を拭い、俺は満足げに息を吐く。 静寂が戻ったダンジョンで、腰を抜かしていた若手冒険者たちが、恐る恐る近寄ってきた。
「あ、あの……」
リーダーの剣士が、震える声で話しかけてくる。 さっきまで俺をゴミ扱いしていた威勢はどこへやら、その顔には畏怖と尊敬が張り付いていた。
「助けていただき……ありがとうございました! あなたは一体、どこのS級冒険者様なんですか!?」 「俺? ただの清掃員の田中だけど」
俺はスマホの画面――増えすぎて表示が見切れているポイント残高――を確認しながら、そっけなく答える。
「せ、清掃員なわけないでしょう! あのジェネラル・オークを一撃なんて……! それに、あの魔法は!?」 「魔法じゃなくて『ポイ活』アプリだ。……まあ、信じなくてもいいさ」
俺は彼らの足元に転がっていた「ポーションの空き瓶」を拾い上げ、彼に手渡した。
「ほら、落とし物。……これからはゴミを散らかすなよ? お兄さんたちが捨てたそのゴミ、俺にとっては『宝の山』なんだからな」
ニヤリと笑って見せると、彼らはハッとした顔をして、地面に額をこすりつけた。
「す、すみませんでしたぁぁぁッ!! 俺たち、とんでもない失礼を……!」 「もういいって。邪魔したな」
俺は彼らの謝罪を背中で聞き流し、出口へと歩き出した。 不思議と、胸のすくような爽快感があった。
ダンジョンの出口で、俺は懐から封筒を取り出した。 万年筆でサラサラと文字を書き、管理事務所のポストに叩き込む。
『退職届』
日給8,000円、酷使されるだけの職場にはもう用はない。 だが、この仕事(ゴミ拾い)を辞めるつもりはなかった。
「さてと……移動手段がいるな」
俺はスマホの【ショップ】を開き、以前から目をつけていた超高級品をタップした。
――ガシャーン!!(決済音)
【購入:Sランク魔導キャンピングカー(全自動運転・ジャグジー付き)】 【支払:300,000,000 pt】
ダンジョンの前に、巨大でラグジュアリーなキャンピングカーが召喚される。 普通なら国家予算レベルの買い物だ。 だが、俺はニヤリと笑ってホーム画面に戻る。
さっきのスタンピード(大掃除)で回収した魔物たちのポイントが、既に加算されていたからだ。
【現在保有ポイント】 5,124,680,000 pt
「ハハッ……5億使って、3億の車買っても、スタート時より増えてやがる」
これぞ、確変モード。 俺はその運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。
「次は隣町の未踏破ダンジョンに行ってみるか。あそこ、手付かずのゴミ(お宝)が大量に眠ってるらしいしな」
アクセルを踏み込む。 俺の新しい人生(ポイ活)は、まだ始まったばかりだ。 世界中のゴミをポイントに変えて、いつかこの星ごと買い取ってしまうその日まで。
「稼ぐぞぉぉぉーーーッ!!」
俺の雄叫びと共に、キャンピングカーは荒野を爆走していった。 スマホの画面には、今日も新しい「お得情報」が通知され続けている。
(完)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「スッキリした!」「ポイ活無双いいね!」と少しでも思っていただけたら、 下にある【☆☆☆】を【★★★】に評価していただけると、作者が50億ポイント貰ったくらい喜びます! (感想やブクマも大歓迎です!)
皆様の応援が、次の作品を書く原動力になります。 よろしくお願いいたします!




