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王家の諜報を担う旦那様とより良い結婚生活を送る方法  作者: たきわ優
第二章

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第十一話

 その日もいつも通りに、盗み見て盗み聞く普通の日のはずだったのだが、厄介事がやって来た。


「奥様、旦那様から緊急の伝令です」


 日記を書き終えて、いつも通り書庫に籠もっていると、お昼過ぎに、エリンが少し慌てた感じで伝えてきた。


「緊急?旦那様に何かあったの?」


 エリンの顔色から、旦那様に何かあったのではないことはわかっているが、こんな事は初めてで、思いの外、私は旦那様を一番に心配していた。


「いえ、旦那様に何かあったわけではないのですが、夕方に客人を連れて帰るそうで、至急部屋を用意して欲しいとのことです。急ぎの伝令で、お客人がどのような方かも今現在わかっておりません」

「そう‥‥。男性か女性か、人数もわからない感じかしら?」

「はい、今その辺りは確認をしているところです」

「わかったわ。どのようなお客様かはわからないけれど、しっかり準備をしなくてはね。男性女性どちらが来ても大丈夫なように準備をお願い。人数は‥‥そうね、五名程は見越して準備を」

「畏まりました」


 男性か女性か、人数もわからないお客様らしい‥‥。

 旦那様は、今日は王太子殿下に呼ばれて登城中だから、何かあったのかしら。私的なお客様でない事は想像出来る。お仕事関係かしらね。

 私も、執事と侍女長と話をしに書庫を出る。同時に、特能を発動し、風魔法を屋敷全体に巡らせる。

 様子を伺うも、さっきエリンから聞いた以上の情報はまだないみたい。


 その後、追加の伝令はなく、影からの報告もなさそうで、不安な中、夕方になった。

 そんな状態で、屋敷全体が、落ち着かない雰囲気の中、時間が過ぎる。

 陽は完全に落ち、いつもなら夕食も食べ終わった時間になって漸く旦那様の馬車が戻ってきた。


「すまない、遅くなった」


 そう言って馬車から降りてきた旦那様とロイ。

 旦那様が「詳しくは後で」と小声で囁き、馬車の方に目を向けると、まず、柔らかい雰囲気の男性が一人降りてきた。身形(みなり)は、貴族のそれに見える。年齢は、旦那様や私と変わらないだろう。彼は、愛想良く頭を下げたが、一言も話さない。

 次に、外套(がいとう)に身を包み、帽子を深く被り顔を隠している客人が降りてきた。身長と外套の上から隠れ見える体型的に男性だと思われる。多分、こちらの客人が主賓だろう。


「彼等は、しばらく屋敷に滞在となる。今日はもう遅いから、挨拶は明日にしよう」


 そう言って、本当に挨拶もさせずに、旦那様自ら案内をするために客人達を連れて行った。

 未だに発動しっぱなしの特能と風魔法により拾った、旦那様と執事とのやり取りにより、客室で一番広い部屋へ案内したようだ。


 誰なのかしら?

 顔を隠さなければいけない客人‥‥。


 しばらくして、旦那様が戻って来たので、特能と風魔法を解き、遅い夕食となった。


「食事も待っていてくれたのだな。すまない、遅くまで待たせてしまって」

「いえ、旦那様をお待ちするのは、妻として当たり前です」

「そ‥そうか、ありがとう」


 そうして、顔の赤い旦那様と食事を済まし、食後のお茶を飲みながら、例の客人について聞くことになった。


「客人の事だが‥‥」


 旦那様は、どう話そうか悩んでいるようで、なかなか言葉が続かない。

 しばらくして、少し大きく息を吐いた旦那様はやっと話し始めてくれた。


「あのお二方は、国からの要請で預かったのだが、素性は機密にあたるので話せない。どのくらいの期間、我が家で預かるかも今のところ不明だが、数カ月から半年くらいにはなると思う」

「はい」

「明日、挨拶の場を設けると話したが、先程言ったように素性は機密なので、君を妻だと紹介はするが、相手の名を紹介することも出来ないので‥‥かなり失礼な挨拶になると思うが承知して欲しい」

「はい」

「つまり‥‥だ、その‥‥すまん。君に話せることが殆どないのだ。すまん‥‥」

「いえ、旦那様。嫁いだ日に旦那様のお仕事のお話は伺っております。私は、妻として、お客人のお二方が、この家で快適にお過ごし頂けるように尽力致します。不必要な接触も会話も致しません。お任せ下さい、旦那様」


 素性もわからず、突然連れてきた客人が新婚の我が家に数ヶ月もいることが決まり、しかも妻にその理由も何も話せないことに恐らく旦那様は心苦しいのだろう。

 それに、初夜に、諜報の仕事で君になにか負担をかけることはないから安心して欲しいと言われていた。その約束もある意味、反故されたような状態とも言える。

 旦那様の眉が、初めて見るくらい下がっていて、眉間の皺もかなり深い。強張った肩が縮こまって、ちょっとだけ旦那様がいつもより小さく見える。それがちょっといつもと違って可愛らしく見えてしまった。


 でも、大丈夫ですよ、旦那様。知りたい事は、旦那様から直接聞かずともどうとでもなるもの。

 なので、余裕のある私は、「ごめんね、旦那様」と心で唱え、なんの憂いのない笑顔を旦那様に向けた。



 さて、早くお客人のお二方に出ていてって欲しいですし、情報収集と参りますか。

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