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王家の諜報を担う旦那様とより良い結婚生活を送る方法  作者: たきわ優


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第一話

 初夜に王家の諜報を担う家門だと教えられた。

 ついでに、誓約魔法もバッチリかけられた。


 シャロンは思った。

 嫁いだばかりの嫁は、しばらくは確実に引(・)き(・)続(・)き(・)――監視されるのだろう、と。


 結婚を望まれたのは、中立派で野心もなく可もなく不可もなくだからだろう。

 主に仲の良い友は中立派のご令嬢。王族派、貴族派にも浅く広く友がいるが無害な令嬢であるシャロン。

 生家にも自身にも問題になるような瑕疵は一切ない。


 頭脳明晰で剣術にも魔術にも優れ、建国より続く広い領地を持つ伯爵家の嫡男の旦那様。容姿は普通。海に面した大きな貿易港を持つのでとってもお金持ち。なので、嫁入りを目指す令嬢達にはかなりの優良物件。

 令嬢達とは殆ど関わらず、物静かで女慣れしていなさそうに見えるので、わたくしの魅力で余裕で落としてやるわ!将来は贅沢し放題よ!チョロいに違いない!みたいな、下心丸出しのご令嬢方に、学院ではかなり人気が高く、よく付き纏われているのを目撃したわ。

 そういうご令嬢じゃなくても、縁談が来れば、心躍る優良物件だろう事は想像つく。

 だが、シャロンは婚約前も婚約後も、そんな旦那様に一切媚びていない。

 そういうところも諜報を担う家門として都合が良かったのだと思われる。

 仕事の邪魔をしそうにないしね。


 愛は感じない、義務的な旦那様。

 特別優しくもないが、気は使ってくれるし、敬意は払って下さる。

 他に愛人がいるとか、女嫌いだとか、男色とか、白い結婚をされるとか、冷遇されるとか。色々想定してきてはいたけれど、貴族らしい婚姻だと思うし、シャロン的には満足である。


 でも、婚姻して、誓約魔法までかけているのにま(・)だ(・)監視を続けると言うのね。

 癪(しゃく)だわ。

 だから、うまく利用しようと思う。

 自分のより良い結婚生活の為に。


 なので、今日から日記をはじめることにしました。



 *

今日で旦那様に嫁いで十日目。婚姻準備からずっと忙しかったし、新しい我が家にも少し慣れてきたので、日々思う気持ちを綴ろうと思います。旦那様には言えないことだもの。きっと知られてしまったら戸惑われるわ。旦那様を困らせたくない。でも、いつか気付かれてしまいそうで怖いの。気持ちを文字に落とすと心が落ち着くって聞くけれど、その通りかもしれないわ。実際少しだけ気が楽になったもの。もっと素直に気持ちを書き記したほうがいいかしら。気持ちをここに全部吐き出すことが出来ればきっと気が楽になると思うし。誰にも読まれないってわかってはいるけれどまだ少し慣れないみたい。

 *



 最初の日記に、怪しい文章を散りばめてみた。

 旦那様に言えない秘密を抱える新妻よ。

 ふふ、どう反応するかしら?


 ちなみに、嫁いだこの家門、キョウトゥー伯爵家。家臣や使用人は全て旦那様の血族らしい。かなり血は薄まっている使用人もいるらしいけれど、全員が間違いなく血族だとか。

 王家の諜報を担う家門だからこそ、絶対に裏切らない結束が必要なのだろう。

 チラッと旦那様が話してくれたのだが、この家門の家臣や使用人に成り得る血族は、なんと、領地の一割もいるらしい。流石、建国から続く家門である。

 旦那様の血族が、この国の各地に居(お)り、旦那様の目と耳となる。

 諜報員は、全員が旦那様の血族。

 何故なら、まだ直(・)接(・)は(・)教えて頂けていないのだけど、一族の血縁のみ使うことが出来る血縁魔法が諜報の要なのだとか。


 なので、当然、シャロンの専任侍女も旦那様の血縁で、彼女が主に私の監視役だ。


 専任侍女が戻って来たタイミングで、焦ったようにチェストの鍵付きの引き出しに日記を隠してみる。態(わざ)とらしくなりすぎない程度に少しソワソワしてみる。

 本当に物を隠そうと思えば、魔法を使って鍵をかけれる高度な家具が最適だろうが、このチェストの鍵は、よくある単純なもの。何の魔法も使われていない。

 血族魔法を持つだろう専任侍女の彼女なら、いや、魔法なんてなくても、時間をかけず鍵を開けるだろう。ん、その前に、このチェストは旦那様がご用意して下さったのだから、予備の鍵くらい当然あるわね。

 さて、早速、日記(餌)に食いついて貰うために、部屋から出る用事を作らなくては。


「エリン、今日の午後は読書がしたいのだけど、書庫に行ってもいいかしら」

「はい奥様。奥様なのですから、いつでも書庫をご利用頂けますよ。書庫は二箇所あるのですが、奥様はどういった本をご所望でしょうか?」

「そうね‥‥、今日の気分は、軽く読める物語や小説などかしら」

「でしたら、東棟の書庫に、大奥様が集められた小説がございます。ご案内しますね」


 そうして、エリンに案内された書庫に着いたら、自然な形で誘導する。


「読書をしていると冷えやすいから、私の部屋からひざ掛けを持ってきて貰える?実家から持ってきた羊毛で編まれた物なのだけど、わかるかしら?」

「畏まりました。お茶もご用意しますので少しお時間頂きますね」

「ええ、ありがとう。よろしくね」


 ふふ。ゆっくり日記を見てきてくださいな。

 結果は、楽しみに取っておいたほうがいいわね。

 さて、どの本を読もうかしら。って、お義母様ってば‥‥恋愛小説どれだけ好きなのよ‥‥。

 よく見れば、書庫の一面がそれで埋まっているではないですか。

 人は見かけによらないのねえ。上品で淑女然とした方かと思っていたから、少し驚いたわ。

 でも、これを話題に出せば嫁姑関係をより良きものに出来そうね。

 感想をお伝えするために、これは真面目に読まなきゃだわ。


 で、結果はすぐに出た。

 夕食での旦那様の視線がいつもより少し鋭い。

 間違いない。

 新妻を監視してやがる、わ。

 貴族らしく表情を取り繕う旦那様が、少しでも私に隙を見せるだなんて、なんだかちょっと拍子抜けね。

 でも、わかりやすくて助かるわ。


 それから十日程は、旦那様に言えない秘密を抱える新妻日記を続け、そろそろ変化が欲しくて今日はとうとうその秘密の一端を日記に綴ってみた。

 まあ、書いてることは嘘ばかりなのだけど。

 旦那様で少し遊んでみたくて‥‥って言う、自分でも思う意地の悪い嘘かもだけど。

 でも、自分のより良い結婚生活の為に、このくらい良いんじゃないかしら?

 監視されている意趣返しでもあるしね。


 で、今は夕食の席なのだけど‥‥。


 旦那様っ!?

 あなた、この国の諜報の元締めなんじゃないの?!

 そんなにチョロくて諜報(お仕事)大丈夫ですか?!

キョウトゥー伯爵家(京都府)

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