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【特別編】心臓を打つ剣、涙の誓い

訓練場は静まり返っていた。

太陽は夕暮れに傾き、影を長く伸ばす。

鋼のぶつかる音と、足元を蹴る音だけが響く。


「弱いぞ!」

ラグノルドが叫んだ。

剣がナギの刃をかすめ、バランスを崩させる。

「斧を振るように鉄を振るな!戦士の動きじゃない!」


ナギは息を荒げる。

手のひらはマメだらけで、肩は疲労で重い。

それでも、剣を再び握った。


「……まだ、」

歯を食いしばって絞り出すように言った。


キャプテンは目を細める。

冷たい視線。

でも一瞬、口元が影で笑ったように動いた。


「はっ、頑固な子犬め。よし、もう一度だ!」


また斬撃。

また鋼の音。

ナギはよろめくが、踏みとどまる。

手は震える。

けれど、目は揺るがない。


「俺を憎んでいるのか?」

ラグノルドが突然訊く。

ナギの突きをかわし、壁際へ押す。

「俺がいじめてると思ってるのか?」


「……違う」

ナギの声はかすれていたが、真っ直ぐだった。

「俺は……感謝してる。」


二人の間に静寂が漂った。

キャプテンは剣を下ろす。

一瞬、空気が軽くなったように感じた。


「感謝してるのか?」

ラグノルドがくすりと笑う。

でも、声に嘲りはない。


「バカ者。感謝ごときじゃ命は守れん。あるのは鋼と意志だけだ。」


一歩近づき、ナギの胸を指で突く。


「覚えておけ。明日、あんたが行きたがってる場所に行く時、

涙や言葉は何の役にも立たん。

だが、俺に耐えられたなら……奴らにも耐えられる。」


ナギはゆっくり頷いた。

疲れは消えない。

けれど、心の奥に新しい炎が灯ったようだった。


ラグノルドは再び剣を掲げる。

「さあ、弟子よ。最後の一戦だ。

倒れるか、それとも、俺が感じる一撃を放つか――」


二人の刃が再び、空中で交わった。


「キャプテン!」

――剣が再び空でぶつかる音とともに、騎士が叫んだ。


ラグノルドが振り返る。

目の前には右腕、騎士レオナードが立っていた。


「急ぎか?」

ラグノルドは落ち着いた声で言う。


「セレンの母上がお見えです、キャプテン」

レオナードは軽く頭を下げて報告した。


ラグノルドの顔に、わずかな重みが走る。

一瞬、言葉を詰まらせたあと、頷く。


「通してやれ」


ナギは剣を握ったまま、状況が理解できずに立っていた。

キャプテンを見て、次にレオナードを見て、そしてまたラグノルドを見る。

目には疑問符が浮かぶ。


――……何が起こっているんだ?

ナギは心の中で呟いた。


やがて、レオナードは年老いた女性を連れてきた。


ラグノルドは一歩前に出て、剣を鞘に収める。


女性は駆け寄り、涙が皺に沿って流れ落ちた。


「……見つけたのですか?!

息子の――息子を殺した奴を!!」


声は震え、体も絶望に揺れていた。


ラグノルドは肩をしっかりと抱き、支えながら慰めようとする。


「奥様……落ち着いてください」

「いや、まだ無理です」

「簡単ではありません……」

静かに、しかし信頼できる強さで彼は言った。


女性は小さく息を吐いた。

だが、突然、膝をついて崩れ落ちた。


女性は小さく息を吐いた。

だが、突然、膝をついて崩れ落ちた。


涙が滝のようにあふれる。


「教えてください、キャプテン……」

声は震え、言葉が途切れる。

「どうして……こんなことが……?!

国を守り、家を守った騎士が……

首都で――どうして殺されるんですか……?!

しかも……こんなに……酷く!」


彼女は両手で顔を覆い、低く嗚咽した。


「誰が……誰が石で殴り殺したんですか……!」


ラグノルドは強く誓った。

「誰がやったとしても……必ず、俺の手で心臓を取り出してやる」


その瞬間、目を細め、呼吸を止めた。

言葉では、この痛みは癒せない――彼はそう知っていた。


「くそ……」

ナギは小さく息を吐いた。


剣が手から滑り落ち、石の床に鈍く当たる。


ラグノルドとレオナードが瞬時に振り返る。


キャプテンの目が細まる。

「ナギ……?」

平らな声だが、空気には緊張が漂う。


ナギは立ち尽くす。

心臓が激しく打ち、手のひらが震える。

――信じられない……

剣が落ちるのを、ただ見つめ続ける。


レオナードが一歩前に出る。

警戒しながら、手を刀の柄に添えて。

「大丈夫か、若者?」


ナギは歯を食いしばる。

「俺は……ただ……」

言葉が出ない。


静寂が長く続く。

風が訓練場の紙をそっと揺らす。

ナギの一つ一つの呼吸が、やけに大きく、現実的に感じられた。

次の一歩を見逃さないために。

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