79 「影の男が美女を奪う瞬間」
「何!? いつ!?」
カツロが頭をかきむしり、沈黙をぶち破った。
「どうなってんだよ、これ!? ナギ!? 俺たちのナギ!?」
ユウジは鼻で笑った。
だが、その目に困惑がチラリとよぎる。
「お前、いつも影みたいだったよな。
無口で、暗くて、俺たちの後ろに隠れてる奴。
なのに…こんな女と!?」
ミズキはまだそこに立っていた。
指が震えている。
顔は怒りと恥ずかしさで真っ赤だ。
そして、リョウタは…。
歯を食いしばる。
顎がキリキリと音を立てた。
視線がアキラとナギの間を激しく行き来する。
まるで今起こっていることが信じられないように。
――なんで…?
なんで俺じゃねえんだ?
リョウタはいつも注目の的だった。
あの笑顔、あの言葉。
あの自信が人を惹きつけた。
でも今…。
その女はレタの方なんて一瞥もしなかった。
彼女の視線は、ただ一人に注がれていた。
「ふざけんな…」
リョウタは歯の間から声を絞り出した。
我慢の限界だった。
「この無口な負け犬が…こんな美女と!?」
アキラはリョウタの言葉を耳にした。
だが、振り返りもしなかった。
ナギをぎゅっと強く抱きしめる。
唇が彼の耳元をかすめた。
「妬かせてやればいい」
わざと周りに聞こえるように囁く。
「お前は私だけのものよ」
会場が一気にどよめいた。
「えええ!?」
カツロとユージがハモるように叫んだ。
そして、ナギは…。
目を伏せた。
恥ずかしさが胸を締めつける。
気まずさが心を刺す。
でも、初めて――
自分が「ただの脇役」じゃない。
そう感じていた。
リョウタは立ち上がらなかった。
椅子にもたれ、腕を胸で組む。
薄く、冷たい笑みが浮かんだ。
「ハッ…ナギ、お前がこんなラッキー野郎だったとはな」
ゆっくりとアキラを一瞥。
視線をナギに戻す。
「正直に言えよ、どうやって落としたんだ?」
「その捨て犬みたいな目で同情でも買ったか?」
「それとも、彼女ってスルーされた奴を拾うのが趣味なわけ?」
テーブルに重い沈黙が落ちた。
誰かが咳払いした。
誰かが目を逸らした。
ミズキは眉をひそめた。
唇がわずかに震える。
何か言いたげだったが、ぐっと堪えた。
アキラは小さく笑った。
ナギの肩に指をゆっくり滑らせる。
「ふふ、彼が私を落としたのは目じゃないわよ」
「彼には…もっと価値あるものがあるの」
その声は低く、猫が喉を鳴らすよう。
隣のテーブルの男たちが顔を赤らめた。
リョウタは片眉をわずかに上げた。
「へえ…そいつは興味深いな」
「その言葉、ちゃんと証明できる体力はあるんだろうな?」
ニヤリとした笑みが鋭さを増す。
「それとも、お前のその『価値』って、誰も見てないとこでしか輝かねえのか?」
次の一歩を見逃さないために。
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