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特別編:告白できなかった日 — 忘れられない雨の記憶

ナギはゆっくり家路を歩いた。

足は鉛のように重く、花束はもう持っていない。

手に残るのは、ただの習慣だけだった。


雨は止んだ。

けれど、湿った空気は重く、まるで街全体が一緒に悲しんでいるかのようだった。


自分のアパートに着くと、ドアを開けてベッドの端に腰を下ろす。

部屋は古い家具の匂いと、夕方の冷気が混ざっていた。


耳の奥には、まだミズキとリョウタの笑い声が残っている。

胸がぎゅっと締め付けられる。


ナギは手で顔を覆い、涙を拭った。


「……俺、遅すぎた」

小さく呟く。


でも、深く息を吸い込む。


「なら……強くなりたいなら。

誰かを守りたいなら。

自分も、家族も助けたいなら……」


拳を強く握りしめる。


「前に進むしかないんだ」


痛みは消えない。

でも、心の奥で何かが目覚めた。

それは――決意。


そう、今日は胸が引き裂かれた。

そう、今日は勇気を失った。

でも、明日は戦う。


テーブルの上に置かれた花束を見る。

少ししおれてしまったけれど、それでも美しい。

失うものがあっても、内側には光が残る。

その光のために戦う価値がある――そう教えてくれるようだった。


ナギは涙をぬぐいながら微笑む。

久しぶりに、心が完全に折れたわけじゃないと感じた瞬間。


「ありがとう……愛することを教えてくれて」

小さく呟く。

「そして、俺自身にも、まだ前に進めるって言ってやりたい」


そうして、濡れた目と小さな希望を胸に、ナギは立ち上がった。


明日は新しい日だ。

明日は、自分を二度と失わないために――すべてをやる日だ。

次の一歩を見逃さないために。

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