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特別編:傘の中のひととき — 忘れられない日々

秋。


灰色の空が、ゆっくりと夕日の名残を飲み込んでいく。

雨は細かい。けど、やけにしつこい。

アスファルトを叩くたびに、冷たさだけが残った。


ナギはキャンパスの入口に立っていた。

古びた傘を手に。

壊れてはいない。まだ、使える。


――彼は待っていた。


やがて見えた。

見慣れた姿。


ミズキだ。


校舎から駆け出してくる。

傘もささず、頭の上にはノート一冊だけ。

すでに髪は濡れていて、頬を伝う雫が笑みと混ざり合った。


「ミズキ!」


ナギが呼ぶ。


彼女は驚いたように振り返った。

目を大きく見開いて――


「ナギ? なんで……ここに?」


「待ってたんだ」

彼は傘を掲げる。

「ほら、入れ」


返事を待たず、一歩踏み出した。

そして、彼女の頭上に傘を広げた。


ミズキは瞬きした。

信じられないみたいに。

でも、すぐに小さく笑った。


「まさか、これのために来たの?」


「傘ないだろ」


彼の言葉は、素っ気なくて少しぶっきらぼうだった。

でも、胸はどきどきしていた。

どんなテストの前よりも。


二人は歩き出した。

傘の下の雨音は、外よりずっと柔らかく聞こえた。


「ねえ」

ミズキは前を見ながら言った。

「いつもは私が世話してるのに。

なのに、今はなんだか……変な感じ」


「慣れろ」

思わず口から出た言葉。


ミズキがびくっと振り返る。

ナギは顔が熱くなるのを感じた。

でも、彼女はただ、さらに笑った。


二人はゆっくり歩く。

道が終わってほしくないみたいに。


濡れた街と響く車の音。

でも、この古い傘の下は、暖かくて、静かだった。

次の一歩を見逃さないために。

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