77 「仮面の歌姫が囁く夜:英雄たちの心を揺さぶる謎めいた再会」
群衆はまだ飲んで、笑っていた。
音楽がガンガン鳴り響く。
店の周年を祝って、杯が次々と掲げられた。
でも、歌姫が彼らのテーブルに近づいた瞬間――
騒がしさはまるで一瞬で背景に溶けた。
彼女は滑らかに身をかがめた。
仮面がシャンデリアの光でキラキラ輝く。
表情は隠しているのに、誘うような笑みが隠しきれなかった。
「ねえ、勇敢な英雄たち」
彼女の声は柔らかく、甘い。
まるで一人一人にそっと触れるようだ。
「もう一杯、飲み物はいかが? お店からのご馳走よ」
テーブルの少年たちは固まった。
ハルはゴクリと唾を飲み込む。
ユウジは気まずさを隠すように背もたれに寄りかかった。
いつも粗野なカツロでさえ、彼女の声にメロメロだ。
だが、ミズキは眉をひそめた。
ドレスの裾をギュッと握る。
視線が鋭くなる。
この女、何か――嫌な予感がする。
歌姫はさらにナギに近づいた。
ゆっくり、まるで焦らすように。
彼女の手がナギの肩にそっと置かれる。
群衆はまだ騒がしく盛り上がっていた。
でも、彼らのテーブルだけ、時間が止まったみたいだった。
彼女の声は低く、静か。
それでもテーブル全員に聞こえるほどはっきり響いた。
「…会いたかったよ。」
仲間たちの笑顔が一瞬で消えた。
ユウジは思わず杯を落としそうになる。
ハルはわけがわからないまま、ただ固まった。
ミズキはグッと身を乗り出した。
その目は氷みたいに冷たい。
そしてナギ…。
ナギはまるで会場の全てが肩にのしかかってきたような重さを感じた。
何? どうして? なんで…?
彼女の指がナギの肩を軽く締めつける。
音楽の合間を縫うように、再び囁きが響いた。
ナギだけに向けた、甘く危険な声。
「私のこと… 覚えてるよね?」




